書籍 渡邊浩滋『「税理士」不要時代』

  なかなか刺激的なタイトルに惹かれて,読みました。著者は1978年生まれ。税理士業界では,完璧に「若手」の部類です。何しろ,税理士登録者のうち53.8%は60歳以上だというのですから(本書20ページ)。そんな新進気鋭の税理士が語る,「税理士不要時代を勝ち抜く方法」です。

「税理士」不要時代 (経営者新書)

「税理士」不要時代 (経営者新書)

 

  著者の結論を少し乱暴にまとめてしまうと,旧態依然とした税理士は「顧客を失う」しかなく,専門業種に特化して経営コンサルティングを行うことが,勝ち残る道である,というものです。

 前段部分については,多くの税理士も認めざるを得ないかと思います。他士業からの参入も含めた税理士の数の増加,価格破壊ともいえる顧問料の低価格化,クラウド会計の進化といった,著者がとりあげている税理士業界を取り巻く環境の変化は,私たちの働き方を否応なく変化させることは間違いありません。

 そうした流れの中,専門特化により税理士不要時代を勝ち抜くという著者の考えは,一つの選択肢としては確かに有効かもしれません。問題は,どういう業種に絞って専門特化していくのか,ということでしょう。また,ニッチな分野に特化すればするほど,専門性は増します。その専門性を生かしてチャンスは拡大するかもしれませんが,一方,背負うリスクも大きくなるでしょう。

 著者をはじめ,本書で成功事例としてとりあげられている若手税理士のみなさんは,事務所規模の拡大,顧問先件数の増加,事務所収入の増大といった指標を,「成功」「勝ち残り」ととらえているように思います。そうした価値観も,実は,「旧態依然」なのではないかというのが,読後の感想です。

 若くて野心に溢れた税理士が活躍してくれることは,業界の活性化やただ登録だけ維持しているような税理士の淘汰という点で,たいへん意味のあることだと思います。おおいに,活躍してください。

 ただ,小職は,あなたたちとは競争しない方法で,税理士不要時代を生き残っていけれいいなと,そう考えています。

書籍 横尾宣政『野村證券第2事業法人部』

  めずらしく,アマゾンで予約をして購入しました。

 著者は,「オリンパス巨額粉飾決算事件」で,検察から「粉飾を指南した」として起訴された元野村證券社員。第三者委員会の調査報告書,マスコミ報道とは異なる事件の裏側がわかるのではないかと期待して,読みました。

野村證券第2事業法人部

野村證券第2事業法人部

 

  本書は全部で11章からなっていますが,とりあえず,バブル時代の昔話が語られている(と思われる)前半部分はパスして,オリンパス事件へと関与することとなっていく第7章「さらば,野村證券」から終章である第11章「逮捕――私は闘う」までを読み終えました。

 いくつも,これまで報道されていない事実が述べられていました。たとえば,横尾氏が詐欺事件で追起訴されていたこと。あるいは,保釈されなまま966日も勾留されていたこと。1審と控訴審で判決の前提が大きく異なっているにもかかわらず,控訴を棄却していること,など。

 オリンパス経営陣の訴訟については,かなり多くの報道があったと記憶していますが,横尾氏ら,いわゆる「指南役」の訴訟については,あまり報道がなかったので,知らないことの多さに驚いた次第です。

 読んでいて,とても文章を書くのが巧い人だなぁと感心していたのですが,奥付の前ページに「取材・構成 田中周紀」とあるのを発見して,おおいに納得しました。本ブログでも一度,著作をとりあげさせていただいたことのあるジャーナリストが参画していたのでした。

 実刑4年の判決を不服として上告中の横尾氏の主張を,最高裁が認めるかどうか。はっきり言って非常に難しいというのが一般的な見方だと思います。とはいえ,やはり結果は気になるところです。

「会計不正調査報告書を読む」Profession Journal誌に寄稿しました。

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 ほぼ月に1回のペースで連載を続けさせていただいている「会計不正調査報告書を読む」の第55回目は,メディビックグループ社の第三者委員会調査報告書をとりあげました。ご承知のように,同社は既に,昨年10月に上場廃止になっており,証券取引等監視委員会もまた,1億円を超える課徴金の納付命令勧告を発出しています。そういう意味では,すでに決着のついた事件ではありますが,何とか会計監査人の追及を交わして売上計上を正当なものに見せようとする経営者と,これに毅然と対応した会計監査人とのやりとりが興味深くて,寄稿することにしました。

 メディビックグループ社が「特別損失の計上」を公表した5月16日から約半月後の6月3日,「会計監査人の異動」が公表されます。その理由は「信頼関係が著しく損なわれたため」。なぜ,そこまで,会計監査人の不信が募ってしまったのか。詳細は,ぜひ,連載記事をお読みください。

 なお,メディビックグループ社の会計監査人はアスカ監査法人。同監査法人は,この時期,3つのクライアントにおいて,並行して調査委員会による調査が行われるという異常事態にありました。単なる偶然なのか,アスカ監査法人の厳しい監査手法によるものなのか,外部からは推察するしかないのですが,他の2つの事例についても,ぜひ,検証を進めたいと思っています。

【書籍】高桑幸一・加藤裕則編著『監査役の覚悟』

  発刊当初から「読みたい」と思っていた本です。「トライアイズ事件」「監査役の乱」など,事件発覚当時は大きな注目を浴びた,トライアイズ社元監査役古川孝宏氏の経営陣との戦いの軌跡を改めて検証し,監査役制度における問題点を真正面からとらえようとした意欲的な論考が並びます。

監査役の覚悟

監査役の覚悟

 

  第1部「監査役の覚悟」は,古川氏の実体験を小説風にして,読みやすくしたもの。第2部「監査役の覚悟を考える」には,新聞記者,現役・OB監査役ら執筆陣による監査役制度の問題点に対する論考が並びます。第3部「古川元監査役に訊く」とインタビュー記事を挟んで,最後に特別寄稿「監査役の覚悟に寄せて」という,古川氏自身による訴訟の経緯をまとめた文章で締めくくられています。

「現行の日本の監査役制度ほど法の建前と現実が大きく乖離している制度はないのではないか」という新興市場に上場する企業の現役監査役の思いや,「内部監査部門は監査役会の最重要パートナー」であると指摘する大手商社の元常勤監査役のコメントなど,第2部の論考には首肯できる部分が非常に多くありました。

 また,古川氏が訴訟の経緯を振り返って寄稿された文章をあらためて読み返しますと,原告と代理人弁護士との間の葛藤,裁判所の立場など,法律の規定だけでは進むことができない訴訟というものの難しさをあらためて感じます。

 ところで,私自身も,所属する公認不正検査士の勉強会の席に古川氏をお招きしてお話を聞くという機会がありました。当時の研究会幹事が,古川氏と面識があり,いくつかの訴訟が進行中でお忙しい中,お話しいただいたという記憶があります(2009年のことです)。その中で,古川氏は,何度か,代理人弁護士との意見の相違について述べていらしたのですが,この特別寄稿を読んで,古川氏の当時の戸惑いがよくわかった気がします。当初の代理人弁護士は,租税争訟の分野でも著名な先生ですので,私も何度かセミナーや講演をお聞きする機会があり,古川氏のコメントが奥歯にものの挟まったような感じでしたので,なんとなく腑に落ちない感じを抱いておりましたが,今回の特別寄稿を読ませていただき,たいへんよく理解できました。

 

「速報解説」日本監査役協会『監査役等と内部監査部門との連携について』を寄稿しました。

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 web情報誌Profession Netwaorkに「速報解説」として,公益社団法人日本監査役協会が去る1月13日に公表した『監査役等と内部監査部門の連携について』という監査役協会法規委員会がとりまとめたアンケート結果と提言についての,かいせつきじをきこうしました。これは,昨年11月に,監査役協会会計委員会が公表した『会計不正防止における監査役等監査の提言――三様監査における連携の在り方を中心に――』という提言集に続き,監査役協会が,監査役等監査の在り方についての協会の姿勢を示したものであり,どちらも協会会員に対する詳細なアンケートの立脚した内容ということもあって,興味深い実証データになっています。

 筆者は,現在のところ,内部監査部門の企業内における位置づけはどうあるべきかについて,たいへん関心を持っているところであるのですが,本アンケート結果でも,回答企業の約8割が,内部監査部門は社長の直轄の機関設計を採用していることがわかりました。ところが,一方,視点を変えて,「内部監査部門を経営トップ(=執行)から分離すること」の是非に関する質問には,賛成と反対がそれぞれ2割弱,残り6割が「どちらともいえない」と答えていることもわかり,法律により設置義務を課されているわけでもない内部監査部門という存在をどう位置づけるかということが,難しい課題であることを改めて感じました。

 前回の提言に関する本欄の記事はこちらです。

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【書籍】川名壮志『密着 最高裁のしごと――野暮で真摯な事件簿』

  ふだん,もっぱら図書館を利用しているのですが,この本は,めずらしく,書店で目にとまって読むことにしました。サブタイトルに惹かれたのかもしれません。著者は,毎日新聞の記者。さすがに文章は読みやすく,難しい法律論を平易にあらわそうとする意図が感じられました。

密着 最高裁のしごと――野暮で真摯な事件簿 (岩波新書)

密着 最高裁のしごと――野暮で真摯な事件簿 (岩波新書)

 

  著者によれば,

最高裁って,下世話で知的で,ロジカルでウェット」

というのが結論だそうです(プロローグより)。

 とりあげられている事件はいずれも大きく新聞報道で扱われたものばかり。そういう意味では,よく知っている事件のはずですが,こうして1審判決からの経緯や,最高裁判決における裁判官の賛成・反対の意思表示,補足意見や反対意見をまとめて解説してもらうと,判決を読んだころに見落としていた論点があったり,最高裁判事の人柄が垣間見えたりして,面白く事件を振り返ることができました。

 刑事事件を扱った第3章,第4章では,裁判員裁判が下した判決を控訴審がどこまで尊重するのかについての,最高裁の姿勢が語られています。一方では,「高裁は事後審に徹するべきだ」として,裁判裁判の判断をベースにすることを求めながら,こと量刑については,「裁判例の集積」を理由に,量刑が裁判体の直感によって決められることがないよう,釘を刺します。求刑を大幅に上回る量刑を言い渡した裁判員裁判の判決を維持した(そういう意味では「事後審に徹した」)大阪高裁判決について,「著しく正義に反する」「甚だしく不当」として取り消した2014年7月24日の第一小法廷判決は,最高裁の面目躍如といった感があります。

 個人的には,一度は裁判員を経験してみたいと思っているのですが,量刑判断は,やはり難しいのだろうと,あらためて感じた次第です。

「会計不正調査報告書を読む」Profession Journalに寄稿しました。

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 年明け最初の寄稿は,株式会社デジタルデザインの第三者委員会調査報告書をとりあげました。記事の中でも言及していますが,最初に報告書が公開されたころ(8月31日)には,あまり注目をしていなかったのですが,その後,昨年11月ころから,不正行為を働いたとされた元社長と現経営陣が,経営権をめぐって激しい争いをしているところから,にわかに注目を集めることとなった事例です。

 現在は,大株主でもある元社長が大阪地方裁判所に申し立てた臨時株主総会の招集許可が,決定されたことを受けて,デジタルデザインが,2月28日に開催を予定していた臨時株主総会の期日を変更するのか,会社提案の議案をどうするのかといった点に焦点が移っているところです。

 これまでのところ,裁判所の仮処分や招集許可などを巧みに利用している元社長側(おまけに44%を超える株式を保有しています)に有利な展開なのかなというのが印象ですが,今後の展開が気になります。

 さて,Profession Journal創刊時より,連載させていただいている「会計不正調査報告書を読む」は今回で54回を数え,プリント・アウトした調査報告書と寄稿した原稿を保管しているボックス・ファイルは4冊目になりました。

 新年最初の寄稿ということもありますので,いつもお世話になっている編集部のみなさん,お読みいただいているみなさんに,この場をお借りして感謝いたします。

 ありがとうございます。