太陽光ファンド,出資による不正節税(読売新聞より)。

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 けさの読売新聞,1面と社会面で大きく報じられていました。有料会員以外は,ウェブ記事では冒頭しか読めないので,脱税の手口はわからないかと思いますが,紙面では,詳細に報じられています。

 簡単に言えば,発電設備の一括償却が認められる期間(昨年3月31日まで)に,発電事業の開始が要件になっていたところ,ファンド運営会社は工事が完了していないにもかかわらず,減価償却費を計上して損失を発生させ,出資企業約110社に損失を移転することにより節税をさせていました。

 そこに,東京国税局による税務調査で工事完了日を前倒しにする不正が発覚して,出資企業は,修正申告をする必要が生じた,というものです。

 節税を可能とした「生産性向上設備投資促進税制」については,各地の経済産業局が投資計画を事前に確認して適用を認可しているわけですが,計画の履行状況に関する事後チェックが甘かったため,国税局による税務調査まで,不正が発覚しなかったということです。

 新聞紙上でも,ニュースソースは明らかになっていませんが,他の事業者でも,適用時期期末の駆け込み需要はあったと思われますので,類似の不正が,国税局によって指摘される事例が,まだ出てきそうです。

「会計不正調査報告書を読む」Profession Journal誌に寄稿しました。

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 第57回目となる今回,とりあげさせていただいた事例は,1月31日に公表された株式会社ブロードリーフの調査委員会最終報告書です。従業員による不正送金事件が,どうして長期間にわたって発覚しなかったのか。常勤監査役を調査委員長に据えた調査委員会の報告書を検証しました。

 主犯である元従業員は,業務部に課長として配属されていた時代,内部管理体制が脆弱であることを利用して,複数の預金口座に不正な送金を繰り返していました。その後,2013年4月に,元従業員は内部監査部門に異動となりますが,2006年度から配転になるまでの間に行われた不正は,2015年に業務フローの見直しが行われるまで,発見されることはありませんでした。

 元従業員が内部監査部門に異動になった時期は,ちょうどブロードリーフ社が東京証券取引所第1部に上場を果たした時期と重なっています。上場に際して内部管理体制を強化するための配転であったことは,報告書には触れられていませんでしたが,想像できるところですし,同時に,元従業員が経営陣からそれなりの信頼を得ていたか,少なくとも,不正の疑いはまったく持たれていなかったのではないかと思います。

 元従業員は,社内調査の過程で所在不明になり,懲戒解雇処分を受けていますが,ブロードリーフ社は,再発防止策の一環として,元従業員に民事上の損害賠償請求訴訟だけでなく,刑事告訴を検討中とのことです。脆弱な内部管理体制を放置した結果,従業員を犯罪者にしてしまうこととなった責任は,誰が負うべきなのでしょうか。

「コンプライアンス違反」倒産動向――東京商工リサーチ社が公開。

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 7日,東京商工リサーチ社が公開した2016年度「コンプライアンス違反」倒産動向では,件数ベースでは2年連続減少していることが明らかになりました。その理由として,同社では,

2016年度「コンプライアンス違反」倒産動向 : 東京商工リサーチ

 企業にコンプライアンス順守の意識が浸透していること

 全体の企業倒産が各種支援策に支えられて低水準をたどり,コンプライアンス違反が一因となった経営破綻が表面化しにくいこと

の2点を挙げています。

 記事を読みますと,法律違反や行政処分などを原因とする倒産が78件と最多で,次いで,脱税や滞納といった税金に関連する倒産が64件と,この二つの違反行為が全体の80%を占めているということです。

 また,業種別では,介護福祉業界の倒産が108件と調査開始以来最多を記録したとのことで,報酬の不正請求が発覚したことを原因に倒産に至った事例が紹介されています。

 

書籍 森信茂樹編著『税と社会保障でニッポンをどう再生するか』

  中央大学法科大学院の森信茂樹教授の論説+対談集。とくに「第1章アベノミクスと税・社会保障の現状」と題された論考は,実に多様な論点について,森信先生の考えが述べられていて,読み応えがありました。

税と社会保障でニッポンをどう再生するか

税と社会保障でニッポンをどう再生するか

 

  ただ,一点だけ,森信先生がその活用を強く提言しておられる「マイナンバー制度」については,確かに理想的に精度が運用できれば,森信先生が構想されているような使い方ができるのかもしれませんが,システムの整備や国民の習熟に,どのくらいの時間と費用がかかるのか,小職はかなり懐疑的に読まざるを得ませんでした。

 森信先生のマイナンバー活用法のその1は,「社会保障費の歳出削減」です。これは,マイナンバーの活用により,世帯ごとの金融資産の保有状況を把握することを可能にしたうえで,後期高齢者医療制度の窓口負担を原則3割,介護保険制度による負担を原則2割にしておいて,保有資産が一定額以下であることを証明できれば,負担を軽減するという考え方にようです。これを実現するためには,すべての金融機関の口座にマイナンバーが附番されることが前提となるが,いつになれば,そういう状態に到達するのか,現状,スケジュールは見えていません。附番が中途半端な状態で制度導入に踏み切れば,かえって不公平感を高める可能性もあるのではないと懸念します。

 マイナンバー活用法その2は,マイナンバー・ポータルを活用した自主申告制度の構築です。こちらに関しては,方向性としては,森信先生の主張通りだと思います。ただ,マイナポータルとe-Taxシステムの連携により,誰でも自主的に申告ができるようになれば,納税者意識は大きく高まるでしょう。実現したら,税理士のニーズも大幅に減少するかもしれません。ただ,森信先生が課題として挙げていらっしゃるように,現在の確定申告時期(翌年3月15日まで)を6月30日までに延長するなどのスケジュール調整が必要であり,どのようなセキュリティ対策が必要なのかを検討するだけでも,相当な年月がかかりそうです。

 最後に,森信先生が考える理想の税制について,本書288ページ以下の原則を引用させていただきます。

第1原則は,経済活動が生み出す「付加価値全体を網羅する広い課税ベース」を持つ税制であること。

第2原則は,「付加価値に対して一度だけ課税する」,つまり,二重課税,三重課税を避けるということである。

第3原則は,「所得格差は持って生まれた才能や運によるところが大きいので,累進税率を課して再分配する」ということである。

月刊税理4月号に寄稿しました(発売中です)。

  月刊税理4月号「法人税実務」のコーナーに,「年度末決算賞与支給の意思決定と税務上の留意点」と題した論考を寄稿させていただきました。お題はいつものとおり編集のご担当者からいただいたものですが,毎度のことながら,タイムリーな論点をお示しいただき,原稿をまとめながら,勉強させていただきました。

 賞与引当金が法人税の世界からなくなってもうすぐ20年近くなりますが,未払計上した決算賞与については,「債務確定基準」きわめて厳格に規定されており,一部には,これが租税法律主義に違反するのではないかという意見も出されていることなどを裁判所の判断を検証しながら,原稿をまとめました。

税理 2017年 04 月号 [雑誌]

税理 2017年 04 月号 [雑誌]

 

 春らしいピンク系の表紙にも,小職が担当した原稿のタイトルが印刷されています。 

 論考の中身については,ぜひ,掲載誌をご高覧いただきたいところですが,小職の掲載ページの直前には,中央大学の酒井克彦教授の原稿が掲載されており,尊敬する酒井先生の後を担当するという栄誉に浴して,身の引き締まる思いをしております。

 また,別冊として「社会福祉法人制度改革Q&A集」も付いており,こちらも,きちんと勉強しておかなくてはと思った次第です(いつも,必要に迫られないと手につかないもので)。

「公表裁決事例(平成28年7月~9月)」Profession Journal誌に寄稿しました。

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 先週23日,国税不服審判所が公表した裁決事例に関する速報解説記事をProfession Journal誌に寄稿しました。今回の公表裁決事例でも,「重加算税」の賦課決定処分に関する事例が二つあり,毎回のことですが,「重加算税」の要件に関して,国税不服審判所が強い関心を持っていることがうかがわれます。

 寄稿した記事でもとりあげましたが,筆者が個人的に非常に興味を持った事例は,住宅用建物の再転貸借契約が,「住宅の貸付け」として消費税法上「非課税取引」に該当するかどうかを争点とした裁決です。オーナーである納税者からすれば,建物購入時の消費税額等について仕入税額控除の適用を受けるためには,非課税取引となる「住宅の貸付け」ではなく,「住宅以外の建物の貸付け」としたいところです。

 そして,「居住用」に使用が制限されていないことの証拠として,転賃貸人との契約において「家賃保証」が規定されていることを挙げ,

請求人に対する賃貸人の賃料保証が設定されていることは,人が居住していないにもかかわらず賃貸料が支払われることを意味し,実際に居住する人の居住と賃料が対価関係にない

として,消費税法基本通達6-13-7の適用を受けない旨,主張しました。

 「だれも居住していない状態で家賃が保証されている期間」の賃料収入が,「住宅の貸付け」として非課税取引になるのかどうかは,個人的には,なかなか面白い論点であると考えるのですが,国税不服審判所は,この主張に対する反証はせず(公表されているのが「裁決書(抄)」ですから,全文が公表されていれば,この主張に対する反証もあるのかもしれません)に,転貸借契約の条項などから,「居住用」以外に使われていないとして,納税者の主張を棄却し,仕入税額控除を認めませんでした。

 この論点,もう少し追いかけてみたいと考えているところです。

平成28年7月〜9月分 | 公表裁決事例等の紹介 | 国税不服審判所

 

「会計不正調査報告書を読む」Profession Journal誌に寄稿しました。

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 昨年6月から7月にかけてのアスカ監査法人所属の公認会計士のみなさんは,たいへんな日々を送っていたのではないかと思われます。インターネット情報がどの程度性格なのかはわかりませんが,おそらくは20社程度と推測される上場会社のクライアントのうち,実に3社が,相次いで,調査委員会の設置を必要とする事態に陥っていたからです。株式会社メディビックグループが7月5日に第三者委員会の設置を公表。7月20日には,サイバーステップ株式会社とモジュレ株式会社が,何と同日に,調査委員会の設置を公表します。

 今日,Profession Journal誌上で公開されたのは,このうち,昨年11月に上場廃止となったモジュレ株式会社の第三者員会による「調査報告書(中間)」についての寄稿した記事です。(中間)とありますが,結果的には,調査期間中にもじょれ株式会社の上場廃止が決まってしまったこともあってか,「最終報告書」は公表されていません。

 報告書を読んでの率直な感想は,安易な粉飾決算をしなければ,上場廃止になることもなく,取締役・監査役の全員が退任する事態を出来することはなかったのではないかというものでした。孤立する創業社長をサポートする取締役や監査役,顧問弁護士などが,適切な対応を進言できていれば,少なくとも上場廃止になるような財務内容ではなかったはずです。

 東京商工リサーチ社の調査によれば,2016年の「不適切な会計・経理の開示企業」は過去最多の57社に達したそうです。4月から6月にかけては,3月末決算企業の会計監査の過程で多くの「不適切会計」が指摘され,調査委員会の設置が公表されるというのが例年の傾向ですが,さて,2017年はどうでしょうか。

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