「公表裁決事例平成28年10月から12月分」Profession Journal誌に寄稿しました。

 3か月に一度,国税不服審判所が公表している裁決事例。先週21日に,平成28年10月から12月分として,9件の裁決事例が公表されました。その中から注目される事例をとりあげて,解説した記事を,Profession Journal誌に寄稿しました。

 今回の公表裁決には,めずらしく国税通則法関連が1件もありません。前々回(平成28年4月から6月分)などは重加算税だけで5件の裁決が公表されていたのですが,そこまで極端でなくても,ほぼ毎回,重加算税の賦課決定処分を争点とする裁決があっただけに,少し戸惑いました。

 編集部から「資産税をとりあげてください」というリクエストもありましたので,今回は,所得税法人税及び相続税をそれぞれ1件,合計3件の裁決について,主な争点と不服審判所の判断を紹介しています。毎回のことながら,納税者(審査請求人)のあまり合理的とは思えない主張に対して,真摯に主張を論破している審判官のお仕事というのは,なかなか難しいことのように感じます。

「会計不正事件における当事者の損害賠償責任」Profession Journal誌に寄稿しました。

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「会計不正調査報告書を読む」と「租税争訟レポート」という2本の連載記事を寄稿させてもらっているweb情報誌Profesion Journal誌上で,新しい連載記事「(判決から見た)会計不正事件における当事者の損害賠償責任」を全6回の予定で,開始しました。連載の狙いとして,次のように書かせていただいています。

去る平成28年12月20日,東京地方裁判所は,株式会社エフオーアイの会計不正により損害を受けた個人株主らを原告とする損害賠償事件において,同社の元取締役・元監査役のみならず,主幹事証券会社についても,金融商品取引法違反による民事上の責任を認めて,損害賠償を命じる判決を言い渡した。

粉飾決算を理由とする損害賠償事件で,証券会社に損害賠償を命じる判決が出たのは初めてということで,大いに注目を集めた判決であるが,同時に,本判決は,社外監査役について損害賠償を命じている点についても,話題となっている。

そこで,本連載では,本件判決とニイウスコー事件,セイクレスト事件における裁判所の判断など,複数の判決を比較考量しながら,会計不正事件の主犯・実行犯ではない当事者の損害賠償責任について,検討したい。

 第1回目となる本日公開された記事は,連載を始めようとした契機になったと言ってもいい,エフオーアイ事件の第1審判決をとりあげています。

 次回以降の連載では,監査役,取締役,会計監査人,主幹事証券会社などが損害賠償責任を負うとされた事件の判決を検討しながら,それぞれの者が,会計不正を防止し,あるいは早期に発見するために,どのように職務を果たしていくべきかを考えていきたいと思います。

「会計不正調査報告書を読む」Profession Journal誌に寄稿しました。

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 今月とりあげた調査報告書は,JASDAQ上場のGMOアドパートナーズ社の連結子会社で発覚した架空売上計上事件です。本事例の特徴は,第三者委員会による報告書の公開方法にあります。第三者委員会は,事実関係と原因分析中心の「中間報告書」を先に会社側に提出したうえで,あらためて経営陣を中心にヒアリングなどの追加調査を行い,責任の所在と再発防止策をまとめた「追加調査報告書」を提出するという手法をとりました。こうした手法は,「調査報告書の事前非開示」を指針とする日弁連の「第三者委員会ガイドライン」とは一線を画すものではありますが,第三者委員会調査による事実誤認を防止するとともに,経営陣に意見表明の機会を与えるという手続保障の面から見ても,なかなか良く考えられたものであると感じました。

 実際の会計不正の手口は稚拙なものであり,不正に計上した売上高も2億円あまりと,300億円を超える売上高を計上しているGMOアドパートナーズ社から見れば,大きな金額ではないのですが,本件もまた,子会社管理の難しさを実感させられた事例でした。

 なお,GMOアドパートナーズ社の以下のリリースでは,第三者委員会に支払った調査費用と監査法人に支払った追加監査費用額が,合計で133百万円であることが公表されています。あまりこうした費用が公表されることもないので,ご参考までにリンクを貼らせていただきます。

https://www.gmo-ap.jp/uploads/2017/05/release_20170529.pdf

書籍 髙村薫著『作家的覚書』

  新聞書評に載っていたので読んでみました。2014年から2016年にかけての3年間の出来事に対する髙村さんの思いが,雑誌の連載記事を中心にまとめられています。

作家的覚書 (岩波新書)

作家的覚書 (岩波新書)

 

  デビューしたころの髙村さんの小説は,ほとんどすべて読んでいた記憶があります。たぶん『レディ・ジョーカー』くらいまで。その後,まったく彼女の読まなくなった理由は,自分でもよくわかりませんが,一方,新聞に時おり掲載される社会時評的な文章は,目につく限り読んでいました。とくに,2013年ころまでは,東京新聞に月1回の連載があったので,楽しみにしていたものです。

 印象に残った文章があります。「人間としてこの社会に生きる義務」について,彼女はこのように書きます。

 私のような還暦をすぎた独身者には,集団的自衛権の行使も,労働者派遣法の改正も,影響はごく限られているが,代わりにせめて直接の影響を受ける自衛隊員や正規雇用者の不安に思いを馳せ,国民の生命や生活を大っぴらに蔑ろにして憚らない政治への真剣な怒りを募らせる。これが真面目に生きるということだ。

 高村さんの硬い文章が,社会がどんどん悪い方向へと変化しているのではないかという不安を感じさせます。雑誌の連載記事の最後,2016年12月号のタイトルは「もう後がない」でした。

 本書を読む前に,本書に収録された以前の年代である2008年から2013年に至る時評を収録した『作家的時評集2008-2013』も読みました。こちらも,自民党政権への失望から政権交代に至る高揚,民主党政権に対する期待と裏切られ感,第2次安倍政権の誕生といった政治史の流れを振り返るうえで,いま,読み返す価値のある時評集であると思います。

  5年前から10年前くらいの話題であるにもかかわらず,当時抱いていた違和感や疑念は,いつの間にか,薄れてしまっていることに,改めて驚いた次第です。

作家的時評集2008-2013

作家的時評集2008-2013

 

 

 

「租税争訟レポート」Profession Journal誌に寄稿しました。

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 web情報誌Profession Journal̪誌で,ほぼ隔月連載中の「租税争訟レポート」第32回の連載記事が公開されました。今回は,租税特別措置法の所得拡大促進税制の適用について,当初申告要件の是非が争われた東京地方裁判所判決をとりあげました。

 当初申告要件をめぐっては,法人税法上の規定が,最高裁判決を機に改正され(平成23年改正),撤廃されたのに比べ,租税特別措置法上の当初申告要件は維持されており,その取扱いの差をめぐって,裁判所の判断が示されたものです。

 平成29年税制改正大綱では,租税特別措置法上の当初申告要件も撤廃に向かうのではないかと注目されていましたが,いざ法案を見ると撤廃どころかより厳格になった印象もあって,そうしたことについても,解説を書きました。

 所得拡大促進税制も,多くの法人が適用最終年度を迎えることになりましたので,税制上の優遇措置と従業員に対する昇給や賞与支給を天秤にかけて,適用要件を満たすかどうかの判定を早めに行う必要があると思います。

「会計不正調査報告書を読む」Profession Journal誌に寄稿しました。

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 連載第58回目は,去る4月17日に公表された,昭光通商株式会社特別委員会報告書をとりあげました。M&Aによって子会社化したところ,ふたを開けてみれば,架空循環取引(報告書上の表記では「資金循環取引」)によって大幅に売上を水増ししていたことが発覚した事例で,最近あまり聞かれなくなった「架空循環取引事件」ということで,一部,「循環取引フリーク」に注目された事例です。

 手口はいたって簡単です。同じ経営者の所有する二つの会社の間に,昭光通商の子会社が割り込む格好で商流に加わり,仕入代金を早期に決済することで,資金繰りを支援した形になっていました。

 昭光通商取締役会では,当該子会社の与信限度額管理が何度か問題になっていたようですが,子会社売上高の過半を占める取引を即座に止めさせるという判断はしませんでした。

 昭光通商では,2015年にも,上海にある子会社で,売掛債権が回収できないという不祥事が発生して,特別調査委員会を設置しました。今回の調査でも,どうして,先の事件における再発防止策が徹底されなかったのかという点が分析されていますが,そうした分析を行っている特別調査委員会の委員に,本来,取締役会における再発防止策の取組状況を監視・監督する立場にいるはずの常勤監査役が就任しているのは,違和感がありました。

税務弘報2017年6月号に寄稿しました(発売中です)

  ここ数年,税務弘報さんでは「定時株主総会における税務問題」の特集を6月号(5月初旬発売)で組まれており,今年も,執筆依頼をいただきました。役員給与,配当などのテーマは既にとりあげており,さて,テーマをどうしたものかと思って,編集部と相談して決めたのが,

「従業員持株会」

でした。

 従業員持株会を設立するメリットはいろいろありますが,オーナーや古くからの株主のの所有する株式を散逸させないための手段としての活用方法もありますよ,という話もいれおります。スムースな事業承継にも使えるというわけです。

税務弘報 2017年 06 月号 [雑誌]

税務弘報 2017年 06 月号 [雑誌]

 

  さて,本誌の特集は,「3月決算会社 28年度固有の申告書記載上の留意点」ということで,実際の別表の書き方解説付きで,参考になります。また,「実務解説」として,公認会計士の眞山徳人氏が『税理士がセミナーでこう評価を得るために~なおすべき七癖~』を寄稿していらっしゃいます。年に数回ですが,人前で話すこともある身としては,これはぜひ,処方箋に書かれている内容をs実践したいものだと思います。七癖と指摘されている中でも,とくに「話し方が平坦かつ早口」「結論を後回しにした構成」などは大いに思い当たるところでもあり,気をつけたいと,考えました。