「租税争訟レポート」Profession Journal誌に寄稿しました。

 web情報誌Profession Journal最新号に,「租税争訟レポート【連載第37回】」を寄稿しました。今回とりあげた判決は,別件の脱税事件で有罪判決を受けたげ原告の代表が,その脱税事件の際,早期に保釈してもらうために行った修正申告について,その有効性を争ったものです。

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 判決文によると,原告の顧問税理士は,自らの遊休預金口座を原告代表に渡して,架空の役員報酬を振り込むことで,法人税を脱税したり,実態のない関連会社を次々と設立して,本来は原告の従業員である社について,関連会社の従業員であるかのように仮装して,関連会社との間の業務委託契約に基づく外注費を課税仕入れとして処理し,消費税を不当に免れていたということです。

 消費税を節税するために,新設法人を利用するという行為は,かつて非常に多く見られた節税策ですが,さすがに悪質であるということで,別件刑事事件は,原告代表と顧問税理士の有罪が確定しています。

 興味深かったのは,処分行政庁側が,実態のない関連会社が従業員に支払った給与に対する源泉所得税を,関連会社に対しては「誤納金」として還付したうえで,原告に対して,納税告知処分を行い,さらに重加算税の賦課決定処分を行った点です。なるほど,そのようにして重加算税を取りに行くのかと,妙に納得しました。

 ご興味がありましたら,ぜひ,ご一読ください。

 

ACFEセミナーに登壇しました。

 昨日,午後1時30分から約3時間,一般社団法人日本公認不正検査士協(ACFE JAPAN)主催のセミナーに登壇しました。

 演題は,「調査報告書から読む不正発生原因と再発防止策~架空循環取引事件の検証を通じて考える~」というもので,不正事例としては,昨年発覚したATT株式会社による中国企業をダミーに使った架空循環取引などをとりあげました。

 

調査報告書から読む不正発生原因と再発防止策

 ご出席いただいた方は約30名。

 お忙しい中を,会場までお運びいただいたことに感謝します。

 最後に質疑応答の時間を10分程度設ける予定でいたのですが,「再発防止策」のところで,つい,自身の思いを語ってしまって,質疑の時間がとれなかった点,ご参加いただいたみなさまにお詫び申し上げる次第です。

 

「事例で見る不正リスクの許容ライン」旬刊経理情報6月10日号に寄稿しました。

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 旬刊経理情報誌に原稿が掲載されるのはほぼ1年ぶりでしょうか。

 当初企画では,8ページ程度で事例を4つくらいという感じだったのですが,ちょうど「不祥事予防のプリンシプル」が公表されたことも重なって,「特集」扱いになり,分量も12ページに拡大されました。おかげで,連休はほぼ原稿をまとめる時間に費やされてしまいましたが(笑)。

 「不正リスクの許容ライン」というのは耳慣れない言葉かもしれません。編集部の造語です。「最低限,これだけはやっておきたい不正防止または不正の早期発見対策」という意味で,原稿をまとめました。これまで,Profession Journal誌に寄稿してきた「会計不正調査報告書を読む」の連載記事を再構成して,新たな視点を書き加えた形の内容に仕上がっているかと思います。

 定期購読が前提の雑誌ゆえ,購入できる書店は限られていますが,ぜひお読みいただき,ご意見をお聞かせいただけると幸いです。

「AIで士業は変わるか?」Profession Journal誌に寄稿しました。

 Profession Journal誌では,連載企画として,「AIで士業は変わるか?」シリーズを不定期後悔しており,この度,その第16回に,「AIで不正会計はなくなるか?」をテーマに寄稿させていただきました。

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 執筆の依頼をいただいたときに,結論は,「AIで不正会計をなくすことはできないかもしれないが,より早期に発見することはできる」ということになろうと考え,その方向で書き進めていたところ,公認会計士・公認不正検査士の宇澤亜弓先生のご著書「不正会計リスクにどう立ち向かうか!」の一節を思い出し,引用させてもらうことにしました。引用した部分は,次のとおりです(同書77ページ)。

ある情報・状況・事実等に接した「人」が,当該情報・状況・事実等に対して違和感を覚えることにより,不正会計の端緒の把握となる。「何かおかしい」「何か変だ」「なんでだろう」「どうしてだろう」という違和感である。この違和感をきっかけに,そこからさらに事実を掘り下げ,端緒と企業活動の実態との乖離が明らかにされ,不正会計が発覚することにより,この発覚のきっかけとなった情報・状況。事実等が不正家計の端緒となるのである。ゆえに,不正会計の端緒とは,客観的な存在として不正会計の端緒が存在するのではなく,当該端緒情報に接した「人」が違和感を覚えることにより端緒となり得るのであって,極めて主観的な存在となる。

 この「人」が覚える「違和感」を,たとえば,会社の基幹システムが認識できるようになれば,リアルタイムでアラート情報を生成させて,不正の端緒について調査ができるのではないか,そして,不正の早期発見が可能になるのではないかというのが,結論となりました。

  ご興味がございましたら,ご一読いただければと思います。

不正会計リスクにどう立ち向かうか! (内部統制の視点と実務対応)

不正会計リスクにどう立ち向かうか! (内部統制の視点と実務対応)

 

 

 

「会計不正調査報告書を読む」Profession Journal誌に寄稿しました。

 ほぼ月に1回連載させていただいている「会計不正調査報告書を読む」の第72回の連載記事が本日公開されました。今回は,少し趣向を変えて,東京証券取引所昭光通商株式会社に徴求した「改善報告書」と「改善状況報告書」から,短期間に2回の調査委員会設置を余儀なくされた昭光通商における危機管理の問題点を考察しました。

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 2015年5月,昭光通商は,中国企業向けの取引における売掛債権が回収できなくなったとして,128億円の貸倒引当金を繰り入れ,特別調査委員会を設置して,原因分析と再発防止策の提言を受けました。

 特別調査委員会による調査結果を公表してから約1年半ほど経過した2017年2月,今度は子会社における中国企業との取引が資金循環取引であったとして,再び,特別調査委員会を設置して調査を行うことを公表しました。4月になって公表された調査結果を読むと,第一次調査が行われていた最中にも,子会社による資金循環取引はどんどん金額を増加させていたことがわかります。

 そもそも,第一次調査委員会の調査の範囲を,貸倒引当金を設定することとなった昭光通商と昭光上海に限定せずに,すべてのグループ会社を対象としておれば,その時点で資金循環取引は発覚したことでしょう。また,せめて,第一次調査委員会の提言にしたがって,すべての子会社の取引について商流を確認していれば,有価証券報告書を訂正せずに済んだかもしれません。

 昭光通商経営陣は,なぜ,調査範囲を限定して,あるいは,第一次調査委員愛の提言をないがしろにしたのか。その答えを「改善報告書」から探ってみたいというのが,連載第72回の趣旨になります。

 ご一読いただければ幸甚に存じます。

「税務弘報」6月号に寄稿しました。

 連休前で発売日が繰り上がっている税務弘報6月号に「税理士も知っておきたいフェア・ディクロージャ―・ルール」と題する時事解説記事を寄稿いたしました。 

税務弘報 2018年 06 月号 [雑誌]

税務弘報 2018年 06 月号 [雑誌]

 

  フェア・ディスクロージャー・ルールと税理士業界って,一見,接点はなさそうなのですが,関与先の経営者から「フェア・ディスクロージャー・ルールって何ですか?」というような質問を受けたときに適切に答えられるような内容を目指して原稿をまとめたのですが,さて,どこまでわかりやすくまとめられているでしょうか。

 フェア・ディスクロージャー・ルールについて,詳しく知りたい方には,大崎貞和さんの著書がたいへん参考になります(私も参考にさせていただきました)。

フェア・ディスクロージャー・ルール (日経文庫)

フェア・ディスクロージャー・ルール (日経文庫)

 

  ところで,税務弘報6月号の特集は「事業承継の納税猶予 はじめの一歩」です。表紙上部の惹句が効いています。

話題になっているけど実はよくわからない「税理士の泣きどころ」を押さえる!

 なかなか的を射た文言で,編集担当の顔を思い浮かべながら,「この機会に勉強させていただきます」と思った次第です。

 

書籍:安岡孝司著『企業不正の研究』

  書籍のタイトルがストレートでしたので,さっそく読んでみることにしました。著者は,銀行系の研究所から大学の教授へと転じられた金融関係の経験が豊富な方のようです。同じ不正事件を違う立場の研究者は,どのように分析するのか,楽しみながら拝読しました。

企業不正の研究 リスクマネジメントがなぜ機能しないのか?

企業不正の研究 リスクマネジメントがなぜ機能しないのか?

 

 「第1部企業不正事件の報告書から学ぶ」でとりあげた事例は9件で,少し古いものもありますが,すべて2010年以降に発覚したもので,東芝のように長い期間マスコミをにぎわせた事件から,あっという間に忘れ去られた事件まで,多彩な事例について,分析が試みられています。

「第2部クイズ形式で学ぶリスクマネジメントの基本」では,動物園を題材に,ステークホルダーの意向とリスクマネジメントについて,わかりやすく解説されています。第1部でとりあげた不正事件について,どのようなリスクマネジメントが不足していたことがその原因となったかなど,事例とあるべきリスクマネジメントのかたちが対比されて解説されていて,わかりやすく読むことができました。ひとつ難を言わせてもらえば,経営者不正に対するリスクマネジメントについての言及が少なかったことと,その中で,【経営者の不正防止】として,③内部監査室を監査役の配下におかない,という対策の提言が,ちょっと,私自身の考えとは違うかな,というところです。

 こうした書籍が続々と刊行されて,不正リスクに対する経営者の認識が高まり,企業が不正を起こさない,不正に巻き込まれないようになればと思います。