ACFEカンファレンス2018の模様が公開されました。

 去る10月5日(金)御茶ノ水のソラシティで開催されたACFE JAPAN CONFERENCE 2018の模様が,ACFE JAPANのウェブサイトで公開されました。

www.acfe.jp

 当日は,朝9時30分から,懇親会の終わる19時20分まで,実に内容の濃い一日となりました。多くのCFEの一堂に会し,登壇者は,ブロックチェーンの最新事情の解説から,まだ記憶に新しい,巨額の特別背任で服役した大王製紙元会長を交えた鼎談まで,幅広く,充実したものでした。おまけに,いつもは「昼食難民」になりがちな受講者の利便性を考えて,お弁当を供したのは,たいへん良い判断だったと思います。

 すべての話題が印象に残り,刺激を受けたのですが,やはり,大王製紙株式会社元会長の井川意高氏のお話が,斬新でした。氏が登壇するという話を最初に聞いたとき,よく受諾したなぁと思いましたが,「実刑判決を受けたからこそ,みなさんの前に出ることができる」という発言や,カジノで100億円を超える多額の負けを喫したことをとくに悪いと感じていないような物言いを\聞き,それがいいか悪いかは別として,常人とは考え方が違うんだなと,ある意味,納得してしまった次第です。

 何より,いつも舌鋒鋭くインタビューを行う青山学院大学の八田進二名誉教授が,どうも攻めあぐねているような質問ぶりが,井川さんのスケールを感じさせました。

 さて,第10回の開催となる2019年のカンファレンスでは,どのような内容になるのか。それまでにどんな事件が起き,どんな話題が提供されるのか,楽しみです。

「会計不正調査布告所を読む」Profession Journal誌に寄稿しました。

 web情報誌Profession Jornalで連載させていただいている「会計不正調査報告書を読む」連載第77回が公開されました。

profession-net.com

 今月の事例は,株式会社アクトコール第三者委員会調査報告書です。

 東証マザーズ上場直後の取引から,グループ内取引ではないかという疑義を持った会計監査人が,調査の必要性を指摘したことがきっかけでした。第三者委員会の調査により,疑義を持たれたいずれの取引も,創業者であり,大株主である代表取締役が,自らのプライベートカンパニーを利用して,アクトコール及び連結子会社の業績を押し上げることを目的に,資金循環取引を行っていたことが判明しました。

 株式公開時に手にした創業者利益や,自ら調達した資金を使って業績を押し上げた経営者というと,少し古いですが,日本システム技術事件を思い出します。

 アクトコール第三者委員会は,3人の業務執行取締役の責任を厳しく追及しています。例えば,「会計処理の不適切性を認識していなかった」と主張する代表取締役については,

上場会社の代表取締役に求められる通常の知識と判断能力を有していれば、会計処理の不適切性についても、認識し得たはずであり、もし、会計処理の不適切性を認識していなかったとすれば、それは同氏が上場会社の代表取締役としての必要な知見を欠いていたといわざるを得ず、同氏の責任を否定する理由にはならないと考えることから、同氏には、中心的な関与者としての責任が認められるのみならず、同氏が上場会社の代表取締役として本来期待される責務を果たしていたということはできず、複数の取引について会計処理を訂正し、過年度の決算の訂正を余儀なくされた事態の重大性に鑑みれば、同氏の責任は重大であるといわざるを得ない

という具合です。厳しいですね。

 その後,3人の業務執行取締役は,「基本的に謹慎とし経営から離れることを決定(9月1日付リリース)」ということですので,実質的には,第三者委員会が辞任を迫った格好になります。

 なお,同社は,新しい組織として経営監視委員会を設置して,新しい鳥sマリ役の選任をはじめ,経営体制の整備を急ぐということです。

 

馬券払戻金に対する課税の現状(会計検査院)。

 けさの読売新聞朝刊社会面で大きく扱われていましたが,高額の的中馬券の払い戻しを受けた者の大部分が,申告納税を怠っているという推計を,会計検査院が行っているそうです。

www.yomiuri.co.jp

 記事では,会計検査院が,2015年の1口1050万円以上の払戻金531件を抽出し,同年分の確定申告書のうち,1000万円以上の一時所得又は雑所得の記載がある申告書と照合した結果,払戻金として確認できたのは27件しかなかったと言ことです。

 会計検査院の地道な調査には頭が下がります。

 勝ち馬投票券に対する課税については,インターネットで馬券を購入している場合には,銀行口座の調査を行えば,高額の払戻金が把握できるものの,窓口での払い戻しについては本人確認もなく,ほとんどの場合が申告納税がされていないが現状でしょう。

 読売新聞の取材に対して,国税庁は,「払戻金は申告が必要だということの周知広報に努め,適切な自主申告を促したい」とコメントしています。

www.nikkei.com

 ところが,日本経済新聞電子版の記事では,国税庁は「検査結果が正式に公表されておらず,コメントできない」と,じゃっかんニュアンスが違うコメントが出ています。

 本調査の結果を,会計検査院がどのように公表して,国税庁に是正を求めるのか,国税庁はどう対応するのか,たいへん興味を持っているところです。

 なお,近い将来,日本にもできるはずのカジノで稼いだ金銭に対する課税もどうするのか,公営ギャンブルですら,適正な課税が実現できないまま放置されている状況下で,悩ましいところです。そういえば,パチンコで買ったお金も野放しでしたか。

 国税庁は,マイナンバーカードがなければ払い戻しを受けられない(チップを換金できない)ようにしたいところでしょうが,そうすると,税金を払いたくない顧客は,公営ギャンブルやパチンコから離れてしまい,ヤミの賭け屋(ノミ屋)やヤミ賭博が横行することになって,かえって反社会的勢力が資金を得てしまうことになる恐れがありますね。警察庁は反対するでしょう。

 ギャンブル依存症の問題もあり,公営ギャンブルやパチンコは法規制の強化⇒廃止へ向かうべきだと考える人も多い中,的中馬券の払戻金に適正な課税がされていないことを立証した(と思えます)会計検査院の調査結果が公表されれば,波紋は大きいのではないでしょうか。

書籍:井出明『ダークツーリズム――悲しみの記憶を巡る旅』

 何度か,ゲンロンカフェでお話を聞いたことのある観光学者井出明氏の『ダークツーリズム――悲しみの記憶を巡る旅』を読み終えました。 

ダークツーリズム 悲しみの記憶を巡る旅 (幻冬舎新書)

ダークツーリズム 悲しみの記憶を巡る旅 (幻冬舎新書)

 

  ダークツーリズムとは,「人類の悲劇を巡る旅」と定義されるとのことで,私自身は,井出先生の話を聞いて初めてその存在を知った次第ですが,本書によれば,1990年代からイギリスで提唱されてきたそうです。

 本書を読んで,行きたいなと思った場所はいくつかありますが,どうもレンタカーがないと交通アクセスが悪いようですので,少し,ハードルが高いようです。

 産業としての観光の意義について,井出先生は興味深いことを言っています(本書62ページ)。

ある地域が観光に活性化の緒を求めるということは,それだけ基盤となる他の産業がないことを意味しており,多くの場合“最後の賭け”のように観光に期待してしまう。しかし,観光マーケティングはかなりテクニカルなものであるとともにハイレベルの知識を要求されることに加え,実は理論上正しい展開を試みたとしてもなぜか成功しないという例もままある。

 観光庁は,訪日外国人旅行者を2020年に4000万人にすることを目標としているようですが,「他に基盤となる産業がない」から「オリンピック・パラリンピック誘致」で,“最後の賭け”に出たということでしょうか。

www.mlit.go.jp

 井出先生は,他の箇所でも,「地域と大学は観光に頼るようになったら終わりだ」と述べていらっしゃいます。

 

 

 

「税務弘報11月号」に寄稿しました。

  中央経済社「税務弘報2081年11月号」が発売されています。編集部からの依頼に応じて,税理士事務所が巻き込まれてしまった税務調査以外のトラブルについて,7つの事例を選んで,実務的な解説記事を書きました。

 題して,「あなたの事務所は大丈夫? 税理士の最新トラブル事例7」。 

税務弘報 2018年 11 月号 [雑誌]

税務弘報 2018年 11 月号 [雑誌]

 

  とりあげたトラブル事例の見出しを転載させていただきます。

1.顧問先従業員の不正を発見できなかったら

2.税理士報酬の支払を求めたら

3.依頼者の提出資料不備で重加算税を受けたら

4.顧問先の粉飾で株主に訴えられたら

5.誤った所得金額を架空仕入れの計上で正したら

6.損失補填スキームを提案したら

7.弁護士法による照会に応じて顧客資料を提供したら

 当初,事例を集めるのに苦労するのではないかと懸念しておりましたが,TAINSの検索機能を使って,いくつかのキーワードで判決を収集してみたところ,次々に面白い(他人事だから言えることですが)事案が見つかりました。 みなさん,ご苦労されているようです。

 税理士事務所のみなさんが不測のトラブルに巻き込まれないために,拙稿が少しでも参考になればと考えております。

 

 

「速報解説 国税不服審判所公表裁決事例 平成30年1月~3月分」を寄稿しました。

 国税不服審判所が3か月に一度の割合で公表している裁決事例の平成30年1月~3月分15件が,去る9月27日に公開され,web情報誌Profession Journalに,解説記事を寄稿しました。

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 今回公表された事例15件のうち,7件が国税通則法に関連する裁決であり,しかも,そのうちの5件は原処分庁による重加算税の賦課決定処分を,国税不服審判所がいずれも取り消すという判断を示したものでした。

 解説記事も,この5件を中心に,重加算税の賦課決定処分を取り消すに至った事実認定と国税不服審判所の判断過程を追っています。

 どの裁決も,原処分庁によるやや強引な「隠ぺい又は仮装」の認定について,警鐘を鳴らす結果となっていると評価できます。

 とくに,5件のうち3件の相続財産の一部申告漏れ事案については,原処分庁の「当初から過少に申告する意図を有していた」から「隠ぺい又は仮装行為」が認められるという認定に対して,「当初から過少に申告する意図を有していた」とまでは言えないとして、重加算税を取り消した判断は,かなり納税者側の事情に配慮したものであると,読んでいて感じた次第です。

 国税不服審判所のサイトはこちらです。

平成30年1月〜3月分 | 公表裁決事例等の紹介 | 国税不服審判所

 

「租税争訟レポート」Profession Journal誌に寄稿しました。

 概ね隔月で寄稿させてもらっている「租税争訟レポート」連載第39回が,web情報誌Profession Journalで公開されました。今回は,中小企業庁公正取引委員会による「消費税額等の適正な転嫁措置」と,国税当局による「課税仕入れとして仕入税額控除の対象とした外注費の給与認定による消費税の課税処分と源泉所得税の納税告知処分」の関係について,ある意味,問題を提起するために記事をまとめました。

profession-net.com

 公正取引委員会が公表しているQ&Aでは,消費税の免税事業者が仕入先であっても,消費税率の引き上げに伴い適正な転嫁が必要であるいうことが強調されていて,それって「益税」が増加するだけで,国の消費税収が減少する措置ではないのかと,疑問が沸き上がります。もちろん,免税事業者といえども,仕入や経費に係る消費税額が増加しているので,保護するための措置であるというのは頭では理解できますが,であれば,免税事業者を課税事業者に転換させて,適正な消費税の申告納付を推進すべきではないでしょうか。

 一方,事業所得といえないような外注事業者に業務を委託している事業者からすれば,消費税を上乗せして外注費を支払うのは,損益に影響はありませんから,転嫁を拒否する必要はありません。ところが,そうした外注費について,税務調査の現場では,課税仕入れではなく,雇用契約に基づく給与所得とみなして,仕入税額控除を否認し,場合によっては重加算税を課し,同時に,源泉所得税の徴収洩れを指摘して納税告知処分を行われ,しかも,納税義務者の審査請求について,国税不服審判所は,公表されている裁決要旨を見る限り,すべて棄却しています。

 もちろん,雇用契約を締結して,給与として支払い,源泉徴収をすれば解決する問題かもしれません。ただ,雇用者側からすれば,雇用に伴い社会保険料等の負担が生じ,解雇制限があるので,躊躇を覚え,外注で働く人からすれば,他社の仕事が請け負えなくなることや扶養親族の要件を充たしておきたいことなどを理由に,やはり,雇用契約よりは業務委託契約の方がいいなど,両者の利益は一致します。

 実は,簡単な解決策はいくつもあります。

 例えば,青色申告の承認を得て,事業所得を申告している個人事業者については,すべて課税事業者とすれば,問題は解決するわけです。あるいは,白色申告の事業者についても,帳簿の作成・保管義務が課されていますから,事業所得の所得区分で申告尾をする個人事業者はすべて,消費税については,課税事業者とすることも考えられます。日本版インボイス制度が導入され,免税事業者が取引から排除されるのではないかという懸念が語られていますが,本来,例外的な存在であるはずの免税事業制度を縮減,又は廃止することによって,益税の発生を防止し,かつ,消費税の適正な転嫁を図るということであれば,大いに納得できるところですが,いかがなものでしょうか。

 そんな「租税争訟レポート」になりました。

 ご興味をお持ちいただけるようでしたら,ぜひ,ご一読ください。