「速報解説」国税不服審判所公表裁決事例(平成30年4月~6月)が公開されました。

 国税不服審判所が,3カ月ごとに公開している「公表裁決事例」について,平成30年4月~6月分が12月17日付で,公開されました。これまでも公開のたびに「速報解説」としてProfession Journal誌に寄稿しておりましたが,今回の記事が先ほど誌上で公開されました。

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 このところ,公表裁決の件数は増加傾向にあり,今回も18件の裁決が公表されています。とはいえ,国税不服審判所の裁決は,納税者の予測可能性を担保するためにも全件公表が当然であるという前提から見れば,まだまだ,公表数が少ないのは,毎回,このブログでもお伝えしているとおりです。

 今回も18件のうちから筆者が注目事案として3件,不服審判所の考え方を中心に紹介しましたが,なかでも,債権者が,詐害行為取消請求権に基づき,債務者が贈与により取得した土地について贈与契約を無効とする判決を勝ち取り,債権者代位権または取立権に基づいて,債務者に代わって贈与税の申告に係る更正の請求を行い,還付金を差し押さえようとしたところ,審判所が,更正の請求ができるのは納税者に限られていることから,債権者には更正の請求ができない旨の裁決をした事案については,たいへん興味深く読みました。

 国税不服審判所のサイトはこちらです。

平成30年4月〜6月分 | 公表裁決事例等の紹介 | 国税不服審判所

 

{速報解説――与党税制改正大綱:中小企業者等の範囲見直し」を寄稿しました。

 去る12月14日に公表された与党平成31年税制改正大綱の中から,プロフェッションジャーナル誌では,編集部がピックアップした改正内容について,「速報解説」を続々と公開しています。小職もリクエストに応じる形で,「中小企業向け各租税特別措置等における「みなし大企業」の範囲見直し(大綱66ページ)」を寄稿しました。

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 現行法制上,租税措置法における「中小企業者等」と法人税法における「中小法人等」の範囲については,支配会社の資本金が1億円超か5億円以上かという相違点とともに,間接所有の場合については,「中小企業者等」には該当するので措置法上の優遇措置は受けられるが,「中小法人等」からは除外されているため,法人税法上の取扱いが異なっています。

 これを是正して,間接保有であっても,支配会社の資本金が5億円超であれば,措置法上の「中小企業者等」には該当しないよう,定義を変更するというのが,この改正の趣旨です。

 与党平成31年税制改正大綱はこちら。

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「租税争訟レポート」Profession Journal誌に寄稿しました。

 隔月で寄稿させていただいている「租税争訟レポート」が,本日公開のProfession Journal誌最新号に掲載されました。今回は,所得税法第204条1項6号に指定されているホステスさんに支給する対価の額が,なぜ,最近の裁決や判決では,事業所得ではなく,給与所得と認定されているのかを検討しました。

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 連載第39回となる前回の記事でも,外注費として支払った対価が,給与認定された結果,源泉徴収すべき所得税について納税告知処分が課されるとともに,外注費として課税仕入れの額に算入していたことを否認された結果,消費税額等についても過少申告加算税や重加算税の賦課決定処分を受けている事案を紹介しましたが,今回も,問題点としては同じ流れの中にあります。

 ホステスさんが,独立して事業を営む「個人事業主」ではなく,経営者や店長の指揮命令下にある社員やアルバイトと同じであることから,支払われた報酬は事業所得ではなく給与所得であるという課税庁側の主張が認められている背景には,キャバクラやガールバーなどの風俗営業の新しい店舗形態が増えた結果,これまでの専業ホステスが減少し,副業としてのホステスやアルバイト感覚で風俗店で働く女性が大幅に増加したことにあるのではないかというのが,現時点での筆者の結論です。

「会計不正調査布告所を読む」Profession Journal誌に寄稿しました。

 スルガ銀行不正融資問題をめぐる調査報告書を読むシリーズも,第3回となりました。11月14日に公表された「取締役等責任調査委員会調査報告書」と「監査役責任調査委員会調査報告書」についての寄稿が,Profession Journal誌で公開されました。

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 取締役等責任調査報告書については,第三者委員会調査報告書の見解をほぼ踏襲する格好で,調査対象の現旧取締役及び元執行役員ののうち,現代表取締役及び社外取締役以外の全員について,シェアハウスローン問題に関する監視監督義務違反及び内部統制システム構築に関する善管注意義務違反を認めて,相当因果関係のある損害額を認定しました。

 一方,第三者委員会調査報告書で善管注意義務違反があるとされた常勤監査役2名については,監査役の責任判断の前提となる事実として,

(1) 審査の実質的な形骸化
(2) 融資関係書類等についての改ざん・偽装
(3) 取扱いを停止したチャネルとの迂回取引その他チャネル管理上の問題
(4) シェアハウスローンのリスク分析・対応の不備

の4項目を挙げて,スルガ銀行の実態からみて,常勤監査役については,「取締役の違法行為等の兆候を認識し、又は認識し得たとは認められないことから、監査役としての善管注意義務違反は認められない」という結論を導き出した格好になっています。

 新聞報道では,スルガ銀行は,被害にあったシェアハウスオーナーに対する貸付金の元本カット(最大70%)も視野に入れているということです。

 他にも類似の事案があったことを公表して特別調査員会による調査が進んでいる株式会社TATERUと同社が手がける不動産に関して融資を小なっているとされる西京銀行,子会社で住宅ローンに関して同様の不正があったことが第三者委員会の調査で判明した九州旅客鉄道株式会社(JR九州)など,不動産融資をめぐる不正が続発する中,先行しているスルガ銀行の被害者救済策,再発防止策は,今後も取り上げられることが多くなるに違いありません。

「会計不正調査報告書を読む」Profession Journal誌に寄稿しました。

 Profession Journal No.294が公開され,小職の寄稿した「会計不正調査報告書を読む」連載第79回,スルガ銀行三者委員会調査報告書の【後編】もお読みいただけるようになりました。【体裁上,どうしても前編】は報告書の引用中心となってしまったため,原稿をまとめている時点から,分析や周辺の情報をまとめた【後編】の方に力が入っていました。

 あた,公開日の少し前である12日の段階で,旧経営陣9人に対する損害賠償請求訴訟を提起したことが公表されたため,慌てて,最後に,当該リリースに関する記述を追記しています。

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「自己責任」と言われることが多い不動産投資ですが,【前編】公開時のブログにも書いてように,本来は被害に遭わなかったはずの投資家が,不動産業者の書類改竄や銀行員による黙認,銀行による融資審査の形骸化など,複数の不正が行われた結果,多額の負債と収益の上がらないシェアハウスを抱えてしまったわけですから,やはり,シェアハウスオーナーをどのように救済するかということを,スルガ銀行側は,もっと考えるべきではないのか(考えているのかもしれませんが,被害弁護団との協議を打ち切ってしまっているようでは,考えていないと言われても仕方ないでしょう)。

 12日のリリースに続いて,スルガ銀行は,取締役等責任調査委員会報告書と監査役責任調査報告書の全文を,昨日(11月14日)に公表しました。こちらの調査報告書についても,分析記事をProfession Journal誌に寄稿させていただく予定です。第三者委員会が,善管注意義務違反を認めた常勤監査役については,スルガ銀行は,損害賠償請求を行っていないようです。そのあたりの判断は,いかにして行われたのか。調査報告書の内容を検討して,明らかにできればと考えております。

 

「別冊税務弘報 AI・ITの進化と税務」が発売になります。

 中央経済社から,「別冊税務弘報 AI・ITの進化と税務」がまもなく発売になります。税務弘報2017年12月号の特集記事をベースに,新しい記事を加えて,1冊にまとめたものだということです。

 本誌の特集記事のときにはお声がかからなかった(苦笑)小職のもとにも,単行本化にあたって執筆依頼があり,『第2部因往推来「AIと税」』の中に,「e-taxの進化と確定申告」と題する小文を寄稿しました。 確か,原稿の締め切りが6月中旬くらいだったので,内容についてはほとんど記憶しておらず(無責任!),我ながら驚きました。

別冊税務弘報 AI・ITの進化と税務

別冊税務弘報 AI・ITの進化と税務

 

  まだ目次を読んだだけですが,座談会『AI時代の税理士の生き残る道を語ろう』など,読みごたえのありそうな記事が目につきます。ぜひ,この機会に,知識を蓄えたいと考えています。税務弘報本誌と異なり,判型もA5サイズと手ごろですので,持ち歩いて,移動時間中に目を通すことになりそうです。

 

「インボイスで税収増」読売新聞朝刊11月2日付紙面より。

 昨日の読売新聞朝刊1面の記事。インボイス制度が導入されたら,大企業はインボイスを発行できない免税事業者との取引を敬遠することになり,免税事業者が自ら課税事業者を選択するケースが増えるから,税収は2,000億円程度膨らむ見通しだということです。

www.yomiuri.co.jp

 記事では,2,000億円の増収根拠が書かれていないので,どれだけの免税事業者が課税事業者に転換する見通しであるかなどはわかりません。

 ただ,そもそもインボイス制度の導入は,課税事業者の消費税の納付税額計算にあたって,免税事業者からの仕入にも仕入税額控除の適用を認めてきた欠陥を是正するための措置であり,紙面でも,「税額計算が明確になる」「経理の透明性が高まる」と説明されています。

 消費税率が高くなるにつれて,消費税を納付する義務を負わない免税事業者の存在が税収に与える影響は看過できないものとなっているということでしょうが,消費税が導入されてから30年を過ぎているというのに,いまだに,零細事業者の事務負担軽減のためとして,免税事業者制度を維持してきた結果,約500万の事業者が消費税を納付する義務を負っていないという状況は,インボイス制度の導入で少しは改善するのでしょうか。