[書籍]船戸与一『満州国演義』

 

残夢の骸 満州国演義9 (満州国演義 9)

残夢の骸 満州国演義9 (満州国演義 9)

 

  船戸与一さんの描く満州国の建国から崩壊までのストーリーが完結しました。ほぼ1年に1作の割で刊行されてきたので,足掛け10年ということになりますか。歴史の中に,敷島4兄弟という架空の主人公を配置することで,実にリアリティに溢れた物語になりました。最終巻となる9巻は,ちょうど確定申告時期に書店に並んだので,読み始めると仕事が手につかないかと思い,確定申告明けまで買うのを控えておりました。

 あとがきで,船戸さんは歴史と小説家について,次のように語っています。

 歴史は客観的と認定された事実の繋がりによって構成されているが,その事実関係の連鎖によって小説家の想像力が封殺され,単に事実関係をなぞるだけになってはならない。かと言って,小説家が脳裏に浮かんだみずからのストーリィのために事実関係を強引に捻じ曲げるような真似はすべきでない。認定された客観的事実と小説家の想像力。このふたつは互いに補足しあいながら緊張感をもって対峙すべきである。

 この物語のような近現代史にテーマをとった小説を読むといつも思うのは,もっと学生時代に日本の近現代史を勉強しておくべきだったということです。とくに高校では,大学受験の関係もあったのか,明治以降の歴史を学んだ記憶がほとんどありません。史実に関する知識がないと小説家が「事実関係を強引に捻じ曲げるような真似」をしたところで,それを見抜けないわけで,これはやはり残念です。

 船戸与一さんはどこを舞台に次回作を書くのか,楽しみです。