志賀櫻『タックス・イーター――消えていく税金』

 

タックス・イーター――消えていく税金 (岩波新書)

タックス・イーター――消えていく税金 (岩波新書)

 

 

元大蔵官僚で弁護士の志賀櫻先生による解説は,相変わらず切れ味抜群で,税制に群がる『タックス・イーター』の悪行が様々な場面で描かれています。

 最近話題の「国際的二重非課税」の事例では,スターバックスの『「スイス・トレーディング・カンパニー」やアップルの「ダブル・アイリッシュ・ウィズ・ア・ダッチ・サンドウィッチ」といった租税回避手法が解説され、「究極のタックス・イーター」と呼ぶべきである,と結論づけられています。

 こうした企業の節税・租税回避スキームのために多数の有能な頭脳が動員されていることについて,志賀先生は以下のように嘆かれています。小職も同感であり,以下に引用させていただきます。

会社の納税額を減らすということだけのために,多数の有能な頭脳が動員されているわけである。(中略)とびきりの頭脳がこのような非生産的な活動に使われ,結果として,世の中はむしろ悪い方向に進んでいる。嘆かわしきことである。このような優秀な頭脳が立ち向かうべき問題は,世界にはいくらでもあるはずである。なんという頭脳的資源の無駄遣いであろうか。暗澹たる思いになる(本書150頁以下)。

 内政面で,志賀先生が繰り返し主張されるのは,円高恐怖症にとらわれ続けてきた日本の経済政策の失敗です。バブル崩壊について,先生は以下のようの批判されています。

円高恐怖症は,日本経済の体質転換を阻害し続けた。政府と財界は円高に伴う痛みからひたすら逃げ回ることだけを願い,大局を見失って経済政策を誤った。手術すべきところ対症療法で誤魔化したということである。それが完全に裏目に出た。モルヒネで苦痛を緩和させても根本的の治療にはならないのである(本書117頁)。

 政府・日銀による円高誘導策に,私個人はまったくメリットを感じていません。それだけに,志賀先生が,「円高を受け入れることで享受できたはずの好機と利益をすべて失った」と過去の財政金融政策を批判する姿勢に,大いに賛同いたします。

 なお,志賀先生の前著「タックス・ヘイブン――逃げていく税金」も,本作に劣らず,先生の知見と批判精神が溢れています。 

タックス・ヘイブン――逃げていく税金 (岩波新書)

タックス・ヘイブン――逃げていく税金 (岩波新書)