橘木俊詔『貧困大国ニッポンの課題――格差,社会保障,教育』

  橘木教授の近著を読みました。2010年から2015年にかけて発表した論文をまとめて,加筆したもののようで,その時々の教授の考え方がわかりやすく語られています。

貧困大国ニッポンの課題: 格差、社会保障、教育
 

  私自身が最も興味を持ったのは,「基礎年金を全額消費税で賄え」と題された2010年発表の論文でした。基礎年金の財源を現在の保険料方式+税収(2分の1まで)という方式を改め,全額を消費税で賄ってしまおうというものです。具体的な消費税の税率まで踏み込んだ議論が展開されていないのは少し残念ですが,国民年金保険料の未納問題,受給できる年金額の世代間格差問題など,現在の日本の年金制度が直面している問題点の解決につながる面もあり,興味深い提言かと思いました。ただ,本論文が2010年に発表されて以降も,こうした話題が盛り上がっているとは思えないのが現状です(同時に年金問題の解決に向けた処方箋も出ていませんが)。

 消費税率の引き上げが,本来の「社会保障との一体改革」から大きく逸脱し,いつの間にか,景気対策に利用されている現状を考えると,消費税の福祉目的税化も視野に議論されるべき時期ではないかという点には賛同するところです。

 教育についての話題では,親の年収と子の学力レベルについて,実証分析を含め,論考が収録されており,こちらも教育学者とは違った目線での提言が並んでおり,「教育の機会不平等が存在する日本」において,国家による教育支出の増加が必要であることを繰り返し語られています。