書籍『内部告発の時代』

  オリンパス不正会計事件の第一通報者である現役社員と,同事件が世間に知られることとなった「FACTA」の記事を書いたジャーナリストによる共著です。

 なんといっても興味深いのは,事件発覚後,今なお匿名性を維持しつつ,かつ,オリンパスの社員でいつづけている深町隆氏による「手記」を収録した後半部分でした。中でも白眉だったのは,当時の会計監査人であったあずさ監査法人による追及をかわすためにオリンパス側が画策した手法の下りでしょうか。あずさ監査法人の要請による設置された第三者委員会が,顧問弁護士事務所が作った報告書草案をもとに,「違法,もしくは不正があったとまでは評価できない」という結論を出し,これを受けて「無限定適正意見」を出したあずさ監査法人が,直後に,監査契約を打ち切られる様子は,内部にいる社員しかうかがい知れないところです。

 もうひとつ,洩れ伝わっている情報を「やっぱりな」と裏づけたのが,「見せかけの経営刷新と改革」と題された章でした。第三者委員会報告書で不正に関与したとされた従業員17人のうち,実際に処分(降格)を受けたのは1人だけ。残りはおとがめなしとのことでした。これには正直,驚きました。

内部告発の時代 (平凡社新書)

内部告発の時代 (平凡社新書)

 

  私自身は,企業が内部告発されるリスクを警鐘し,内部通報制度を有効に機能させるためにはどうすればいいかを検討すべきであるとする立場ですので,「内部告発の時代」というタイトルにはやや違和感を覚えるのですが,東芝粉飾事件の推移を見ていると,一人が勇気を奮って内部告発を行った後,これに追随する社員が続々と登場するという事態には,大いに驚いておりますので,そういう意味では,「内部告発」に対する敷居の高さは,ずいぶん低くなっているのかな,と思っていました。前半の山口義正氏の「内部告発をめぐる現在」では,内部告発者の真情や「現場は美談ばかりではない」という言葉に象徴される告発の暗部にも触れており,「内部告発者をいかに出さないか」という私の立場からは,参考になる記述でした。