書籍『東芝 終わりなき危機――「名門」没落の代償』

 毎日新聞論説委員でニュースサイト「経済プレミア」編集長の著者による「東芝事件」解説の第2弾。ニュースサイトでその都度書かれた記事が,こうして1冊にまとまると,事件の流れが大変よくわかります。

東芝 終わりなき危機 「名門」没落の代償

東芝 終わりなき危機 「名門」没落の代償

 

 本書では,あまり公表されてこなかった東芝による対策の実績が詳細に説明されています。

 東芝が進めた人員削減。早期退職に応じた社員数は3,449人。計画を上回って退職者が出た部門があった一方,管理部門は1,000人の計画に対して246人しか応募がなく,再配置により人員削減が進められたということです(p.52)。肥大化した管理部門をスリムにしようという経営陣の思惑は外れ,沈みゆく船かもしれないと分かっていても東芝にとどまることを決めた人が,管理部門には多かったのでしょうか。それとも今回の事件をきっかけに東芝が変わることを期待しての選択でしょうか。

 あるいは,「軽すぎる懲戒」。「経済プレミア」が入手した東芝の社内文書では,懲戒処分を受けた幹部社員のうち最も重い2人の処分は「出勤停止1日」だったらしい。他は「減給」が9人,「けん責」が15人となっていたそうです(p.74)。もちろん,上司であるカンパニー・プレジデントや取締役などの命令で行うことを余儀なくされた不正には違いないのでしょうが,いかにも,軽いという印象は否めません。

 東芝事件は現在進行形であり,これからも,元社長らに対する損害賠償請求訴訟や株主からの損害賠償請求訴訟の過程で新たな事実が出てくる可能性も否定できません。また,本書では,東芝社員からの内部告発が,「日経ビジネスオンライン」だけではなく「経済プレミア」にも寄せられていることが明らかにされています。そうした告発が,今後の東芝にどういう影響を与えるのかもまた,気になるところです。