「会計不正調査報告書を読む」Profession Journal誌に寄稿しました。

 Profession Journal誌で連載中の「会計不正調査報告書を読む」シリーズ。第49回は,サイオステクノロジー株式会社の子会社による,補助金の不正受給問題を調査した「社内調査委員会」の報告書をとりあげました。

https://profession-net.com/professionjournal/financial-statements-article-56/

 上場会社の子会社における不正調査は,必ずしも「第三者委員会」に依らず,この事例のように,社外取締役・社外監査役が委員長になって,外部の弁護士や公認会計士らを委員又は補助者に迎えるという委員会の組成も目立つようになってきました。

 日本取引所自主規制法人による「上場会社における不祥事対応のプリンシプル」からは,「第三者委員会の設置」が不祥事調査のスタンダードであるかのような印象も持ちますが,「経営陣の信頼性に疑義が生じて」いるとは言えないような,子会社不正にあっては,今後も,社内調査委員+「独立性・中立性・専門性」を有した外部有識者という組み合わせは,調査の迅速かつ円滑な実施,委員会設置費用負担の軽減といった観点から,否定されるものではないかと思います。

 本件は,M&A(第三者割当増資の引受け)による子会社化した会社を舞台に,資源エネルギー庁所管の一般社団法人から補助金の不正受給を行っていたことが,親会社であるサイオステクノロジーから新たに派遣された取締役により発見されたことに端を発したもので,連結子会社のガバナンスにおける親会社からの派遣取締役の重要性を改めて示した事例でもありました。

 一方,調査報告書に記述がないため,誌上では触れられませんでしたが,補助金を支給した側の一般社団法人の審査は,どのように行われていたのかなという疑問を払拭できない事例でもありました。不正は,補助金支給対象の資産の買入価格を水増ししたり,人件費などの経費を水増しすることにより行われていたわけですが,どういう審査を行った結果,補助金が支給される仕組みだったのか,一般社団法人に対し,調査委員会が何らかのアクセスを行ったのか,報告書ではよくわかりません。

 もちろん,不正を働く方が悪いに決まっているのですが,補助金を支給する側にも厳格な審査体制がないと,結果的に,税金の一部が無駄遣いされることにつながってしまうわけで,政府出資法人や各省庁が所管する社団法人で,補助金の査定などを担当される部門の方々にもぜひお読みいただきたい調査報告書であると思います。

 なお,サイオステクノロジー社のリリースによりますと,不正に受給した補助金は,規程による加算金も加えて全額が返還されたそうです。