【書籍】川名壮志『密着 最高裁のしごと――野暮で真摯な事件簿』

  ふだん,もっぱら図書館を利用しているのですが,この本は,めずらしく,書店で目にとまって読むことにしました。サブタイトルに惹かれたのかもしれません。著者は,毎日新聞の記者。さすがに文章は読みやすく,難しい法律論を平易にあらわそうとする意図が感じられました。

密着 最高裁のしごと――野暮で真摯な事件簿 (岩波新書)

密着 最高裁のしごと――野暮で真摯な事件簿 (岩波新書)

 

  著者によれば,

最高裁って,下世話で知的で,ロジカルでウェット」

というのが結論だそうです(プロローグより)。

 とりあげられている事件はいずれも大きく新聞報道で扱われたものばかり。そういう意味では,よく知っている事件のはずですが,こうして1審判決からの経緯や,最高裁判決における裁判官の賛成・反対の意思表示,補足意見や反対意見をまとめて解説してもらうと,判決を読んだころに見落としていた論点があったり,最高裁判事の人柄が垣間見えたりして,面白く事件を振り返ることができました。

 刑事事件を扱った第3章,第4章では,裁判員裁判が下した判決を控訴審がどこまで尊重するのかについての,最高裁の姿勢が語られています。一方では,「高裁は事後審に徹するべきだ」として,裁判裁判の判断をベースにすることを求めながら,こと量刑については,「裁判例の集積」を理由に,量刑が裁判体の直感によって決められることがないよう,釘を刺します。求刑を大幅に上回る量刑を言い渡した裁判員裁判の判決を維持した(そういう意味では「事後審に徹した」)大阪高裁判決について,「著しく正義に反する」「甚だしく不当」として取り消した2014年7月24日の第一小法廷判決は,最高裁の面目躍如といった感があります。

 個人的には,一度は裁判員を経験してみたいと思っているのですが,量刑判断は,やはり難しいのだろうと,あらためて感じた次第です。