【書籍】高桑幸一・加藤裕則編著『監査役の覚悟』

  発刊当初から「読みたい」と思っていた本です。「トライアイズ事件」「監査役の乱」など,事件発覚当時は大きな注目を浴びた,トライアイズ社元監査役古川孝宏氏の経営陣との戦いの軌跡を改めて検証し,監査役制度における問題点を真正面からとらえようとした意欲的な論考が並びます。

監査役の覚悟

監査役の覚悟

 

  第1部「監査役の覚悟」は,古川氏の実体験を小説風にして,読みやすくしたもの。第2部「監査役の覚悟を考える」には,新聞記者,現役・OB監査役ら執筆陣による監査役制度の問題点に対する論考が並びます。第3部「古川元監査役に訊く」とインタビュー記事を挟んで,最後に特別寄稿「監査役の覚悟に寄せて」という,古川氏自身による訴訟の経緯をまとめた文章で締めくくられています。

「現行の日本の監査役制度ほど法の建前と現実が大きく乖離している制度はないのではないか」という新興市場に上場する企業の現役監査役の思いや,「内部監査部門は監査役会の最重要パートナー」であると指摘する大手商社の元常勤監査役のコメントなど,第2部の論考には首肯できる部分が非常に多くありました。

 また,古川氏が訴訟の経緯を振り返って寄稿された文章をあらためて読み返しますと,原告と代理人弁護士との間の葛藤,裁判所の立場など,法律の規定だけでは進むことができない訴訟というものの難しさをあらためて感じます。

 ところで,私自身も,所属する公認不正検査士の勉強会の席に古川氏をお招きしてお話を聞くという機会がありました。当時の研究会幹事が,古川氏と面識があり,いくつかの訴訟が進行中でお忙しい中,お話しいただいたという記憶があります(2009年のことです)。その中で,古川氏は,何度か,代理人弁護士との意見の相違について述べていらしたのですが,この特別寄稿を読んで,古川氏の当時の戸惑いがよくわかった気がします。当初の代理人弁護士は,租税争訟の分野でも著名な先生ですので,私も何度かセミナーや講演をお聞きする機会があり,古川氏のコメントが奥歯にものの挟まったような感じでしたので,なんとなく腑に落ちない感じを抱いておりましたが,今回の特別寄稿を読ませていただき,たいへんよく理解できました。