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書籍 森信茂樹編著『税と社会保障でニッポンをどう再生するか』

  中央大学法科大学院の森信茂樹教授の論説+対談集。とくに「第1章アベノミクスと税・社会保障の現状」と題された論考は,実に多様な論点について,森信先生の考えが述べられていて,読み応えがありました。

税と社会保障でニッポンをどう再生するか

税と社会保障でニッポンをどう再生するか

 

  ただ,一点だけ,森信先生がその活用を強く提言しておられる「マイナンバー制度」については,確かに理想的に精度が運用できれば,森信先生が構想されているような使い方ができるのかもしれませんが,システムの整備や国民の習熟に,どのくらいの時間と費用がかかるのか,小職はかなり懐疑的に読まざるを得ませんでした。

 森信先生のマイナンバー活用法のその1は,「社会保障費の歳出削減」です。これは,マイナンバーの活用により,世帯ごとの金融資産の保有状況を把握することを可能にしたうえで,後期高齢者医療制度の窓口負担を原則3割,介護保険制度による負担を原則2割にしておいて,保有資産が一定額以下であることを証明できれば,負担を軽減するという考え方にようです。これを実現するためには,すべての金融機関の口座にマイナンバーが附番されることが前提となるが,いつになれば,そういう状態に到達するのか,現状,スケジュールは見えていません。附番が中途半端な状態で制度導入に踏み切れば,かえって不公平感を高める可能性もあるのではないと懸念します。

 マイナンバー活用法その2は,マイナンバー・ポータルを活用した自主申告制度の構築です。こちらに関しては,方向性としては,森信先生の主張通りだと思います。ただ,マイナポータルとe-Taxシステムの連携により,誰でも自主的に申告ができるようになれば,納税者意識は大きく高まるでしょう。実現したら,税理士のニーズも大幅に減少するかもしれません。ただ,森信先生が課題として挙げていらっしゃるように,現在の確定申告時期(翌年3月15日まで)を6月30日までに延長するなどのスケジュール調整が必要であり,どのようなセキュリティ対策が必要なのかを検討するだけでも,相当な年月がかかりそうです。

 最後に,森信先生が考える理想の税制について,本書288ページ以下の原則を引用させていただきます。

第1原則は,経済活動が生み出す「付加価値全体を網羅する広い課税ベース」を持つ税制であること。

第2原則は,「付加価値に対して一度だけ課税する」,つまり,二重課税,三重課税を避けるということである。

第3原則は,「所得格差は持って生まれた才能や運によるところが大きいので,累進税率を課して再分配する」ということである。