「会計不正事件における当事者の損害賠償責任」【連載第3回】をProfession Journal誌に寄稿しました。

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 先月から連載をさせてもらっている「会計不正事件における当事者の損害賠償責任」第3回目は,不正に加担したり,不正があったことを知っていたりしたわけではない取締役の損害賠償責任について,ふたつの判決を比較しながら,裁判所は,何を判断基準にして責任を認めたかを検討しました。

 今回,新たにとりあげた判決は,アーバンコーポレイション事件第一審判決で,被害者原告団が,全取締役・全監査役を相手取って訴えを提起したものです。アーバンコーポレイション社は,新株予約権社債を発行することを臨時報告書によって適時開示したものの,同時に引き受けた証券会社との間でスワップ契約を締結していることを開示せず,そのために,臨時報告書による資金調達を信じてアーバンコーポレイション社の株主を購入した原告らが被害を受けたという事件でした。

 裁判所は,資金調達の詳細を知らされぬままに取締役会に出席し,議案に賛成した取締役及び監査役について,実際には議案として上程されていない,臨時報告書の資金使途の記載が適正に行われているかどうかについても,取締役会での審議を通じて、監視を行うべき立場にあったというべきであるという厳しい判断を示しました。

 本件,資金繰りが悪化する中での綱渡りのような資金調達であったことを,いまさらながら思うわけですが,スケジュールはこんな風でした。

 6月25日夜 取締役会招集通知発送

 6月26日午後3時から 取締役会開催,新株予約権社債の発行決議

 6月27日 定時株主総会開催

 同日 臨時報告書(新株予約権社債の発行)公表

 取締役会は東京で開催されましたが,翌日に広島で開催される株主総会を控え,総会準備にあたる取締役や,出席のために既に移動していた取締役・監査役らは,取締役会を欠席します。欠席した取締役・監査役らは,欠席に合理的な理由があるということで,本件では,裁判所は損害賠償責任を認めませんでしたが,さて,こうした特殊事情がなければどうだったでしょうか。

 次回の寄稿は,2週間後,「会計監査人の損害賠償責任」について考察する予定です。