「会計不正事件における当事者の損害賠償責任」【連載第5回】をProfession Journal誌に寄稿しました。

 web情報誌Profession Journalに隔週で連載中の「会計不正事件における当事者の損害賠償責任」第5回は,「引受証券会社の損害賠償責任」について,エフオーアイ事件第1審判決(東京地方裁判所平成28年12月20日判決)を引用しながら,検討しました。本判決は,有価証券報告書虚偽記載による損害賠償請求事件で,初めて証券会社の責任を認めたものとして大いに話題になりましたが,裁判所の判断は,引受証券会社のみならず,監査役や内部監査部門に所属する者,不正調査を行う者が広く一般に心がけておかなければならない「懐疑心」についての示唆に富むものであったと考えます。

 たとえば,本事件では,粉飾決算をしているという内容の匿名の投書が,2回届きます。引受証券会社は,1回目の投書に基づき,追加で審査を行いましたが,残念ながら,その調査に際して原本確認を行わず,また,取引先への照会(税務調査で言うところの反面調査)も行わないまま,投書の内容を否定しました。そして,2回目の投書が届いた際にも,内容が1回目のものと同じであるとして,追加の調査を行うことなしに,スケジュールどおりに上場させてしまいます。

 裁判所は,引受審査がより厳格なものであれば,1回目の投書の時点で粉飾決算が行われていたことがわかっていた可能性が高いとして,引受証券会社の責任を認めました。匿名の内部通報を,「社内の一部不満分子」による誹謗中傷であると片づけようとした会社側の説明を,半ば鵜呑みにして表面的な追加調査しか行わなかった引受証券会社の責任が問われるのはやむを得ないところでしょう。

 本稿は,1万文字を超える原稿となってしまい,紙媒体の雑誌等では当然大幅な文章の削除を要請されるところだったかと思いますが,さすがweb情報誌,そうした制限は一切なく,おかげで,判決文の引用を多くとりいれることができました。Profession Journal誌の刊行当時は,2,000字から3,000字くらいでまとめるように言われていたのですが,最近は,6,000字から8,000字が常態となってしまっております。とくに編集部から「文字数を減らすように」と言われないことをいいことに,今回は,とうとう大台を超えてしまいました。

 連載の最終回となる第6回は,これまでとりあげてきた判決をもとに,社外取締役・社外監査役とコーポレート・ガバンスについて,最近の動向を見ながら,検討を深めていく予定です。