江上剛『病巣――巨大電器産業が消滅する日』を読みました。「東芝事件」を題材にしたフィクション。
本書巻末には,次のような表記があります。
本書は東芝に関わる一連事件から着想を得たフィクションですが,登場人物その他の造形は著者の創造の産物です。
読む前に想像していた以上に,不正会計の手口がわかりやすく説明されていて,驚きました。大きく分けて4種類あった不正会計のうち,とくに「バイ・セル取引」を中心に描いたのは,この取引に係る不正が最も悪質だと,江上さんが考えているからでしょう(小職も同意見です)。
不正についての関係者の認識を,江上さんなりに分析する面白い記述がありましたので,以下に引用したいと思います。
一度手を染めると,そこから抜け出ることができず,どんどん深みに入っていくのが経理上の不正だ。
しかし,これを不正と認識していたらさすがの加世田(引用者注:田中元社長がモデルであると思われます)も「不正をやれ」とは指示しないだろう。
誰もが不正だと認識しないように自分の頭の中を作りかえていたのだ。
不正ではない。単なる微調整なのだ。たまたま期末に余分に買ってもらっただけではないか。いずれ帳尻は合わせるのだから……。
「不正だという認識はなかった」
不正会計が発覚したときによく耳にする言葉ですが,「不正だと認識しないように頭の中を作りかえる」という表現は,面白い指摘だと思いました。
小説の最終盤で,内部告発をした四銃士の一人が,こんなセリフを呟きます。
日本の経営者全般に言えることだけど,自分の成功体験を否定できる人はいない。そして成功体験のある人がトップにいる間は,部下たちはその成功体験を否定できないんだ。
だから,自らの成功体験に縛られた旧経営陣は,「顧問」や「相談役」として残るのではなく,速やかに退出すべきである。とまで,江上さんは書いていませんが,読み手である小職はそのように読み取りました。
東芝事件については,小職もProfession Journal誌に複数回寄稿しております。