「会計不正調査報告書を読む」Profession Journal誌に寄稿しました。

 不定期で連載させていただいているProfession Journal誌の「会計不正調査報告書を読む」第64回の記事を寄稿しました。とりあげたのは,山梨県にあるジュエリーの製造販売業を営む株式会社光・彩(旧社名:株式会社光彩工芸)の経理責任者による横領事件の内部調査委員会による報告書です。
 不正が発覚した経緯にまず,驚きました。東京国税局による税務調査の初日に,不正があることを示唆されたということです。「初日」というのがすごいです。たぶん,代表取締役(もしかすると社長室長も同席していたかもしれません)に対して,こうした示唆が行われたと思われますが,当時,経理課は社長直属の体制になっており,経理責任者である経理課長の上司は社長だったわけですから,これは衝撃だったでしょう。

 不正の調査を行ったのは,監査等委員である社外取締役の弁護士二人がそれぞれ主宰する法律事務所に所属する顧問弁護士と顧問税理士事務所に所属する公認会計士。調査の目的は,不正の解明というよりは経理責任者が横領した金員によって購入した資産を確保することによる「損害の回復」。他の会計不正事案とは趣を異にする調査でした。

 中途入社した7か月後にはもう銀行預金の横領に手をつけていたという経理責任者ですが,横領した金員で複数の不動産を購入し,実親を住まわせたり,賃貸収入を得たりと,ギャンブルや飲食,愛人などに費消して他の事案の犯人とは一風変わっていました。おかげで,内部調査委員会は,不動産を譲渡担保にとったり,預金を差し押さえたりと,かなりの損害を回復します。その点だけをとってみれば,顧問弁護士を調査の主体にしたことは正解だったのでしょう。

 この経理責任者は,税理士試験2科目を免除され,1科目合格して,会計事務所での勤務経験もあり,会計監査人への対応もそつなく行っていたようですから,たぶん有能な経理マンには違いないのでしょう。ただ,残念ながら,誘惑には弱かったようです。