「会計不正調査報告書を読む【連載第69回】」Profession Journal誌に寄稿しました。

 不定期で寄稿させてもらっている「会計不正調査報告書を読む」の連載第69回目の記事が,Profession Journal誌上で公開されました。

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 今回の事例は,亀田製菓株式会社のタイ現地製造販売子会社で起こった,棚卸資産の過大計上です。会計不正としてはありふれたもので,実地棚卸すら満足にできていないという内部統制からすれば,不正が長く発見できなかったのも肯けるのですが,本件特有の事情があって,記事としてとりあげることにしました。

 それは,会計不正があったタイの現地子会社でかつて副社長と経理部長を務めていた方が,現任の親会社常勤監査役である,という事実でした。不正が発覚したのは,当該常勤監査役が「棚卸資産が過大である」ことを指摘して,タイへ出張予定だった常務執行役員に指示して在庫を確認させたり,現在のタイ子会社副社長に調査を命じたりしたおかげではあるのですが,一方,当該常勤監査役がタイ子会社に在職中に既に不正が行われていたことも,調査委員会による調査で判明しています。

 調査報告書では,調査委員会のヒアリングに対して,当該常勤監査役がどのような発言をしているのかが詳らかにされておらず,その点不満は残りましたが,公表を前提にした報告書である以上,限界があるのは仕方ないのかもしれません。

 規模のさほど大きくない海外子会社の会計不正ですが,調査に要した費用や有価証券報告書の訂正費用など,会社に与えた影響は決して小さいものとは言えません。業績が悪いとタイから撤退するのではないかと危惧して不正を続けてきたタイ人の経理部長の社内処分――各社の社内規程に基づき,厳正な処分を粉うことが公表されています――がどうなったのかが気になります。