書籍:安岡孝司著『企業不正の研究』

  書籍のタイトルがストレートでしたので,さっそく読んでみることにしました。著者は,銀行系の研究所から大学の教授へと転じられた金融関係の経験が豊富な方のようです。同じ不正事件を違う立場の研究者は,どのように分析するのか,楽しみながら拝読しました。

企業不正の研究 リスクマネジメントがなぜ機能しないのか?

企業不正の研究 リスクマネジメントがなぜ機能しないのか?

 

 「第1部企業不正事件の報告書から学ぶ」でとりあげた事例は9件で,少し古いものもありますが,すべて2010年以降に発覚したもので,東芝のように長い期間マスコミをにぎわせた事件から,あっという間に忘れ去られた事件まで,多彩な事例について,分析が試みられています。

「第2部クイズ形式で学ぶリスクマネジメントの基本」では,動物園を題材に,ステークホルダーの意向とリスクマネジメントについて,わかりやすく解説されています。第1部でとりあげた不正事件について,どのようなリスクマネジメントが不足していたことがその原因となったかなど,事例とあるべきリスクマネジメントのかたちが対比されて解説されていて,わかりやすく読むことができました。ひとつ難を言わせてもらえば,経営者不正に対するリスクマネジメントについての言及が少なかったことと,その中で,【経営者の不正防止】として,③内部監査室を監査役の配下におかない,という対策の提言が,ちょっと,私自身の考えとは違うかな,というところです。

 こうした書籍が続々と刊行されて,不正リスクに対する経営者の認識が高まり,企業が不正を起こさない,不正に巻き込まれないようになればと思います。