書籍『東芝事件総決算――会計と監査から解明する不正の実相』

 公認会計士の大御所,久保惠一先生による『東芝事件総決算』を読みました。 350ページに及ぶ大著で,実に読み応えがありました。もちろん,「今だからそう分析できるのでは?」と思われる記述もありましたが,私の見解とは異なる点も多く,たいへん参考になりました。

東芝事件総決算 会計と監査から解明する不正の実相

東芝事件総決算 会計と監査から解明する不正の実相

 

  たとえば,東芝の第三者委員会は,ウェスチングハウスののれんの減損問題を調査対象としていませんが,久保先生の分析によれば,たとえ調査対象にしていたとしても,「監査法人の判断を尊重して問題としない」という結論になったということです。その理由としては,次の2点を挙げています(12ページ)。

SESCは,第三者委員会の調査範囲の決定を監視していたはずなので,ウェスチングハウスののれんの減損に問題がありそうであれば,調査範囲に加えるように東芝に指示したであろうこと

金融庁は,新日本監査法人の処分に当たって,のれんの減損問題を検討したはずだが,処分文書にはのれんの減損問題について触れられていないこと

 なるほど。第三者委員会の調査範囲を東芝が決めるなんてとんでもないことだ,なぜ,のれんの減損が調査範囲から除外されているのかと,表層的な批判をするのに止まらず,結果的に,調査をしたとしても問題にはならなかったのではないかという指摘は,初めて目にした気がします。

 他にも,PwCあらた監査法人による「限定付き適正意見」の表明や東京証券取引所による「上場維持」の判断などの,トピックについて,明快な分析が提示されています。

 東芝事件に関する著作はいくつも読ませていただきましたが,「総決算」を自称するだけのことはありました。