「会計不正調査報告書を読む」Profession Journal誌に寄稿しました。

 毎月連載の「会計不正調査報告書を読む」第83回めの記事が,Profession Journal誌の最新号で公開されました。今回の調査報告書は,老舗の金属製品製造業,東邦金属株式会社が巻き込まれた資金循環取引をめぐる事実関係を,社外取締役と社外有識者からなる特別調査委員会が調査したものです。

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 支配株主から経営再建のために派遣されてきた営業担当取締役が進めた「商社的取引」は,結局のところ,架空循環取引であった。報告書の結論部分だけを抜き出すと,ただ,それだけに要約できます。その結果,1億2千万円を超える債権の回収不能の事態を生じさせた原因は何だったのか――こうした動機部分に注目しながら,原稿をまとめました。

 報告書を読みながら気になったのは,実はATT事件との関連性でした。寄稿の中でも最後に少し触れましたが,架空循環取引の発覚時期(2017年6月),既存の商流の中に介入する格好で取引に参加していること,取引が中国市場に関係していることなど,東邦金属が巻き込まれた資金循環取引は,取扱商品こそ異なるものの,ATT事件との関連性をうかがわせる要素が多くありました。
 そんな折,本稿執筆時の2月6日には,東京商工リサーチが,「循環取引が発覚したATT(株)の主力取引先」としてコスタトレーディング株式会社ほか2社について,債権者から破産を申し立てられていたところ,1月31日において,東京地方裁判所が破産開始決定を受けていたことを報じました 。

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 コスタトレーディング株式会社と同時に破産開始決定を受けた株式会社MOTOEは,同記事によれば,コスタトレーディングと同じ場所に本店所在地があり,代表取締役も同一人物であることから,委員会が認定した「W社とW’社が,所在地も代表者も同一であって,事実上の同一会社であったこと」にも妙な符号の一致を感じるところです。東邦金属は,W社に対して売掛金請求訴訟を提起していますから,第三者破産の申立てを行っても不思議なことではない――これらは筆者の感想(というよりは妄想)に過ぎませんが,現在のところ事実関係は判明していません。