「破綻する年金徴収をやめて」東京新聞読者欄(2019年6月25日朝刊)

 国会でも,ツイッターなどのSNSでも,たびたび議論になっている金融庁による「老後の蓄え2000万円問題」ですが,年金問題に関連して,けさの東京新聞発言欄には,26歳の会社員による「破綻する年金徴収をやめて」と題された,興味深い投稿が掲載されていました。

 投稿者の主張は次のとおりです。

政府は2千万円を自力で用意せよというが,それならば年金納付も任意にすべきだ。

今二十代の私が,年金で徴収される金額を利回りの高い方法で運用すれば,資産を増やすことができる。年金でとられては運用不能の死に金で,しかも老後にもらえる保障すらない。

若者ならまだ間に合う。政府は,破綻が明らかな制度の集金するのを直ちにやめよ。私は自身の老後が,壊れゆく年金制度の道連れにされることを,決して容認しない。

 投稿者の年金制度に対する理解不足を指摘することはひとまず措くとして,自分さえよければいいという価値観があまりのも強くて,いささかたじろいでしまいました。

 現在の日本で暮らしていくうえで,厚生年金保険料を納付したくなければ,まず「会社員」であることを棄てなければなりません。会社は雇用している者を組合健康保険と厚生年金保険に加入させ,毎月の給料から保険料を徴収して,年金事務所に納付する義務を法律上負っています。したがって,投稿者の方の保険料のみを徴収せず,納付もしないとなると,会社財産の差押えなどの処分を受けることになります。このように,厚生年金保険料を徴収されたくなければ,まず,会社員としての地位を棄てなければなりません。

 そのうえで,個人事業主として国民健康保険に加入し,国民年金保険料を自ら納付するようにすれば,どちらの保険料を納付するもしないも「自己責任」となります。ただし,これまでは保険料の2分の1は会社が負担してくれていましたので,個人で支払う健康保険料はこれまでよりも高額となることが予想されます。また,国民健康保険料は納付しなければ,将来,年金は支給されません(こちらは投稿者のお考えどおりかもしれませんが)。

 あるいは,日本から出て,海外の居住者になるという方法もあります。

 政府に「やめよ」と言ったところで,現在,年金を受給している人たちのために,あるいは年金制度を1年でも長持ちさせるためには,現役世代に年金保険料を納付してもらうしかありません。

 であれば,こうした制度の外に身を置くしかないのですが,その場合には,生きていくうえで生じる可能性のある,あらゆるリスクを自分自身で引き受けていくだけの覚悟があるかどうかが,問われることになります。相互扶助を否定するということは,おそらく,そういうことではないかと思う次第です。