「会計不正調査報告書を読む」Profession Journal誌に寄稿しました。

 例年,4月下旬から5月にかけては,3月決算法人の会計監査の過程で,不適切な会計処理が問題になることが多く,第三者委員会などの調査に関する適時開示が多くなる傾向にあります。今年は,新型コロナウイルス感染症の影響が関係しているのかどうかはよくわかりませんが,財務諸表に影響を与えるような適時開示はほとんど見られないようです。そうした中,2月に外部調査委員会の設置を公表していた株式会社ALBERTが,途中で調査対象の取引が拡大したこともあり,公表が遅れていた調査報告書を5月13日になって適時開示しました。今月のProfession Jornal誌における「会計不正調査報告書を読む」連載第101回は,このALBERTの調査報告書を取り上げました。

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 ALBERTの事案は,会計不正の類型で言えば,売上高の早期計上ということになります。会計監査人である有限責任あずさ監査法人の指摘により,2019年12月期末に受注した請負作業について,売上計上の妥当性に疑義が示されます。外部調査委員会の調査により,まだ作業は完了していないも関わらず,顧客から検収書を取得して売上計上を行っていたり,請負商談における工事進行基準の適用に際して,稼働時間を水増しして集計したりして,家だな売上計上を企図していたことが判明します。ALBERTは調査結果を受けて,調査対象となった請負商談に係る約7,700万円の売上高を計上しないで,2019年12月期の決算短信を公表しました。

 調査報告書では,執行役員CFOの職責にあったd氏について,「適切なモニタリングが行われていなかった』と評価し,再発防止策の筆頭に,「CFOの役割の明確化及び充実化』を挙げるなど,かなり厳しいコメントが目立ちました。調査報告書からは,売上の早期計上を企図したd氏の動機がよくわからないのですが,決算短信を見ると,取り消した売上高がすべて計上できていれば,年初の業績予想どおりの売上実績となっていたことがわかります。業績予想の修正を避ける,予想を下回る売上実績を公表することを避ける,という気持ちが,CFOの職責にあるd氏にあったのかもしれません。

 また,会計監査人であったあずさ監査法人は,2019年12月期の決算における会計監査を終了した時点で退任しています。その理由としては,「調査対象となった事象により監査リスクが高まり,今後の監査契約を継続することが困難になったと判断した』ということで,監査法人としては当然の判断であろうかと考えます.しかし,その一方で,被監査会社の経理部門との間に信頼関係が構築されていれば,今回のような売上計上の可否について判断を迷った場合には,事前に監査法人の担当者との間で意見交換が行われていたのではないかとも考えます。報告書を読んだ筆者の素直な感想は,事前に監査法人の意見を聞き,売上計上を見送っていれば,調査費用(決算短信から190百万円であることがわかります)をかけることなく,また,定時株主総会を継続会として,株主の不信を招き,招集通知の発送や会場費などの余計な出費をすることもなかったのではないかと,残念に思った次第です。