「会計不正調査報告書を読む」Profession Journal誌に寄稿しました。

 毎月寄稿を続けさせていただいているProfession Journal誌の「会計不正調査報告書を読む」連載第110回となる記事が,本日,公開されました。

profession-net.com

 今回は,ダイワボウホールディングス株式会社(ダイワボウHD)の子会社で行われていた架空循環取引を巡る特別調査委員会調査報告書を取り上げました。ダイワボウHDの子会社における循環取引と言えば,昨年2月のネットワンシステムズ社事件を思い出す方おいらっしゃるかもしれません。同事件では,ダイワボウHDの子会社であるダイワボウ情報システム株式会社が,ネットワンシステムズ社との循環取引で約50億円の売上高を計上していると報じたのに対して,ダイワボウHDは社内調査の結果として売上計上額は約7億円であったと公表したものでした。

https://www.daiwabo-holdings.com/ja/ir/news/auto_20200214465184/pdfFile.pdf

 今回,架空循環取引が発生したのは,ダイワボウHDにとってはかつての本業ともいえる繊維部門の中核事業会社である大和紡績株式会社の子会社でした。副部長職にあったA氏は,長期間取引先に在庫保管を依頼していた製品を買い戻す必要に迫られたことから,循環取引に手を染めます。その後,2018年10月に,A氏は別の子会社の役員として転籍しますが,「なりすましメール」や「書類の偽造」により,さらに2年間,架空循環取引を続けます。

 2名の社外監査役有識者を配して特別調査委員会は,原因分析の中で,「事業会社の管理部門を分社化して別会社としたこと」「内部監査が機能していなかったこと」などを挙げていますが,筆者が注目したのは,ダイワボウHDにとって,繊維事業はもはや傍流であり,十分な経営資源を与えられずに,内部監査もおざなりにされていたという点にありました。有価証券報告書などによれば,ダイワボウHDの売上高の90%以上はダイワボウ情報システム社を中核子会社とする「ITインフラ流通事業」事業によるものであり,従業員数では大きく上回る繊維事業の売上高におけるシェアはわずか8%弱に止まっています。売上が伸びない事業部門の中で,孤軍奮闘していたA氏を別会社の役員に栄転させてみたら,実は,売上高の多くが架空のものであったことが判明した時,繊維事業部門の責任者たちは,何を思ったでしょうか。

 ぜひ,ご一読ください。