「会計不正調査報告書を読む」「租税争訟レポート」Profession Journal誌に寄稿しました。

 毎月連載させていただいている「会計不正調査報告書を読む」連載第128回と隔月で連載させていただいている「租税争訟レポート」連載第62回が,Profession Journal誌の最新号で,同時に掲載されました。長く連載を続けさせていただいておりますが,この二つの記事が同時に公開というのはおそらく初めてのことです。

 まず,「会計不正調査報告書を読む」でとりあげたのは,会計士業界に激震が走ったといっても過言ではないグレイステクノロジー社の粉飾決算事案です。本件は,会計不正に関する調査報告書公表後に,役員責任調査委員会も設置されましたので,二つの調査報告書について,内容を解説・検証しました。

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 粉飾決算の内容については,すでにマスコミ報道などで明らかになっておりますが,架空売上に伴う売掛金の回収偽装のために私財を投じているところや監査法人に対する残高確認書を取引先から回収して偽造するといった,粉飾決算隠蔽工作は,株式会社シニアコミュニケーション(不正発覚時は東証マザーズ上場,後に上場廃止)が2010(平成22)年6月4日付で公表した外部調査委員会報告書における手口と酷似しています。常識的な考えでは,「まさか架空売上に伴う売掛金の回収を偽装するために,経営者が自分の資金を使うなど,ありえない」というところでしょうが,「上場を維持すること」「株価の高値を維持すること」が目的化してしまった経営者(とくに創業者)にとっては,株式上場やストックオプションで得た資金を粉飾決算隠蔽工作に使うことには,何の痛痒を感じないのかもしれません。

 本件では,創業者である元会長がすでに鬼籍に入ってしまっており,調査委員会による原因分析も難しかった点がうかがわれますが,ぜひ,お読みいただければと存じます。

 次いで,「租税争訟レポート」の話題です。

 こちらも粉飾決算(といっても課税逃れのためのいわゆる逆粉飾です)の後始末の中で出てきた税務訴訟事案です。

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 関連する法人が,国税局査察部の調査を受けた結果,広告宣伝費等の架空経費を計上して利益を圧縮していたことが判明した医療法人社団が,いったん修正申告をして重加算税などの課税処分を受けたあと,自己否認した架空経費の一部について,更正の請求を行ったところ,処分行政庁から「更正をすべき理由がない旨の通知処分」を受けたため,その取消しを請求した事件で,第1審東京地裁控訴審東京高裁ともに,納税者である医療法人社団の主張を棄却して,判決は確定しました。

 中心となる争点は,更正をすべき理由がない旨の通知処分の取消訴訟においては,確定した申告書の記載が真実と異なることについての主張立証責任は,納税者がを負うか否かという点であり,裁判所は,「納税者が負う」という結論を示したうえで,処分行政庁による通知処分に違法性はないという判断を示しました。

 裁判所の判断そのものは,これまでどおりの見解であり,ことさら新鮮味があるものではなかったのですが,本件では,医療法人社団の理事であり,申告代理を行っていた税理士が,査察部の調査において供述した内容が裁判所にも証拠として採用され,その結果,医療法人社団による修正申告内容は適正な処理であるという見解が示されている点,大いに興味をひかれるものがありました。

 理事としても税理士としても,架空広告宣伝費の計上という不正の存在を知りながら,決算書を作成し,申告書を提出することについて,どのように感じていたのか,同業者でもある当職にとっては,理解しがたい心境だろうとしか,思えないところです。