「会計不正調査報告書を読む」Profession Journal誌に寄稿しました。

 先週に引き続き,「会計不正調査報告書を読む」連載第132回を,web情報誌Profession Journalに掲載していただきました。今回は,回転寿司チェーン「元気寿司」の新店舗開発を担当する部長職の社員による,工事原価の付け替え,架空工事発注とそれに伴う工事代金のバックリベート受領(横領)疑義に関する特別調査委員会長報告書をとりあげました。

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 残念なことですが,回転寿司業界では,「おとり広告」で,景品表示法違反の措置命令を受けたのは、回転ずしチェーン最大手の「あきんどスシロー」の件,「かっぱ寿司」の元社長が,競合する「はま寿司」の営業秘密を不正に取得して,不正競争防止法違反容疑で逮捕された件など,大手チェーンに不祥事が相次いでいたところ,業界5位の元気寿司で,発覚した従業員不正事件です。

 報告書を読んでいて最も問題だと感じたのは,今回の不正は,2021年に,店舗開発部長に関する疑惑が,上司である常務執行役員のもとに情報提供され,社内調査を行ったものの,調査が不十分であったこと,店舗開発部長が否認を続けていたことで,真相を把握できなかったことでした。少なくとも工事原価の付け替えについては,社長まで認識をしていたので,この時点で,第三者委員会を設置すべきでした。また,この調査時に,元気寿司の社外取締役3名の内訳は公認会計士2名と弁護士1名であり,社外監査役3名は全員が公認会計士であったにもかかわらず,社外取締役・社外監査役にはまったく店舗開発部長に関する疑惑や調査結果が知らされていなかったということで,なんのための社外役員化と,そん存在意義を疑わしく感じます。

 元気寿司は,店舗開発部長に関して,「不適切な支出を行っていたことに加え,当社取引先からバックリベートを受領していた事実が認められた」として,「社内規程に基づき,2022年9月28日付で懲戒解雇処分」としたことを発表するとともに,「当該従業員に対して、刑事告発または民事上の損害賠償請求を行うことを検討」していると公表しました。また,同日付で,法師人代表取締役社長が取締役執行役員へ,大沢取締役専務執行役員が取締役執行役員へとそれぞれ降格するリリースを出したが,その異動の理由については「経営体制の強化のため」と説明されています。

 出店を加速していく元気寿司において,関西地区での店舗開発を任されていた部長職による犯罪の疑義。部長職の従業員は,疑惑を否認したまま,懲戒解雇され,刑事上の責任または民事上の損害賠償責任を追及されることになりそうです。裁判の場で,どのような事実認定が行われるか,事件の今後が気になるところです。