書籍『転換期を生きるきみたちへ――中高生に伝えておきたいたいせつなこと』

  内田樹先生の呼びかけに賛同した10人の識者が,「中高生を読者に想定して」書いた文章をまとめたアンソロジー。私は当然読者の対象ではありませんが,中学生の息子を持つ親としては,非常に興味にあるタイトルでしたので,読むことにしました。

 内田先生が執筆を依頼したみなさんに送られた手紙には,このような言葉があります。

私たちの知っている日本という国が「何か別のもの」になるリスクが指呼の間に迫っている。今はそういう危機的局面だと私は理解しています。だからこそ,少年少女たちが見晴らしのよい視座から,ひろびろとものを見ることができるように一臂の支援をしたいと願うのです。

 執筆者のみなさんも基本的には内田先生と同じ危機感を共有されている方たちですから,こうした依頼に真摯に応えています。正直,中高生だけに読ませるのはもったいないと思うほどです。

 いろんな意見がある中で,私は,想田和弘さんの「日本は中年の危機にあるにもかかわらず,それを認めたくない」という説明が気に入りました。たぶん,中高生にもわかりやすいだろうと思います(身近にいる中年である親のことをイメージすればいいわけですから)。

 アベノミクスを筋肉増強剤や過度の筋トレにたとえた後,想田さんはこのように話を締め括ります。

経済成長しないということは,全体のパイが大きくならないということです。であるならば,そのパイをみんなでうまく分け合うことを考える必要があるのです。

 白井聡さんは,その文末で,中年以上の日本人について,「何の期待もしていません」としたうえで,「消費社会の不幸な家畜として生き,死んでいくでしょう」と評しています。たいへん手厳しいお言葉ですが,中年の一人として,そうはならないよう,目を見開いて生きていきたいと強く感じた次第です。

 やはり,この本は中高生だけに読ませておくのはもったいないですね。

「会計不正調査報告書を読む」Profession Journal誌に寄稿しました。

 不定期に連載させていただいているProfession Journal誌最新号に,株式会社テクノメディカ第三者委員会調査報告書について,寄稿しました。第三者委員会委員長は,公認会計士・公認不正検査士の宇澤亜弓先生。会計不正がらみの第三者委員会委員長として,すっかり,おなじみの存在です。

 不正の手口としては,売上の前倒し計上と架空計上という,ごくありきたりのものでしたが,不正の実行犯であり,全容を知る立場にいた常務取締役が,第三者委員会に対する会社側窓口となっており,同氏を含めたヒアリング対象者中には,第三者委員会に対し虚偽の説明を行った者がいたため,調査は「困難を極めた(報告書より)」そうです。

 そこで,第三者委員会は,報告書の最後に「特記事項」として,日本証券取引所自主規制法人が2月24日公表した「上場企業における不祥事対応のプリンシプル」の趣旨から,会社側の対応を大いに批判します。

このようなTMCの対応は,不祥事対応のプリンシプルの考え方に真っ向から反対するものであり,不祥事の根本的な原因解明こそがステークホルダーからの信頼の回復及び企業価値の再生に資することに鑑みれば,極めて遺憾である。

 なかなか,厳しいですね。

 ここまで書いて,よく第三者委員としての報酬が貰えたものだと,変な感心をしてしまいました。

「上場企業における不祥事対応のプリンシパル

http://www.jpx.co.jp/regulation/public/nlsgeu000001igbj-att/1-01fusyojiprinciple.pdf#search='%E4%B8%8A%E5%A0%B4%E4%BC%81%E6%A5%AD%E3%81%AB%E3%81%8A%E3%81%91%E3%82%8B%E4%B8%8D%E7%A5%A5%E4%BA%8B%E5%AF%BE%E5%BF%9C%E3%81%AE%E3%83%97%E3%83%AA%E3%83%B3%E3%82%B7%E3%83%97%E3%83%AB'

「税理」2016年9月号に寄稿しました(発売中です)。

 

税理 2016年 09 月号 [雑誌]

税理 2016年 09 月号 [雑誌]

 

  ぎょうせい発行の「税理」2016年9月号に寄稿しました。

 今回,編集部からいただいたお題は「随行者を伴う海外渡航費」について,税務調査に耐えうる証憑の作成・保存を含めて,実務上の留意点を解説してほしいというもので,ちょうど,東京都の前都知事さんの豪勢な海外出張が問題になっていた時期でもあり,なかなか興味深く,原稿をまとめることができました。

 小職の原稿はともかく,税理の今月号の特集記事は,「民事信託」。

 蒲田で公証人をされていたころに何度かご相談させていただうた弁護士の遠藤英嗣先生の解説を筆頭に,税理士向けの民事信託セミナーの講師として著名な方々が寄稿しておられます。4~5年前くらいから,税理士にとって民事信託(家族信託)の知識を拡充することの必要性は言われ続けていますが,どうにも,実務で取り扱っている人が少ないようで,まだまだ大多数の税理士は手探りのようです(小職も含めて)。

 折りも折り,本日の東京税理士会芝支部の研修もテーマもまた,「民事信託」でした。司法書士法人芝トラスト代表社員宮本敏行先生の具体的な事例解説をいただいたばかりなので,この記憶が鮮明なうちに,ぜひ,税理の特集記事を読みたいと思います。

書籍『不正会計と経営者責任』

  守屋俊晴氏の新刊『不正会計と経営者責任――粉飾決算に追いこまれる経営者――』を読みました。帯にある惹句はこういう感じです。

なぜ不祥事は起きるのか

粉飾のカラクリに迫る!

形骸化する監査・内部統制に警鐘を鳴らす

不正会計と経営者責任 ‐粉飾決算に追いこまれる経営者‐ (創成社新書56)

不正会計と経営者責任 ‐粉飾決算に追いこまれる経営者‐ (創成社新書56)

 

  本の構成としては,「東芝事件」の第2章をあて,また,第3章で,「第三者委員会」について検討を深めるなど,ひじょうに興味深い章立てになっています。

 読後の感想としては,日本経済新聞からの引用がとても多かったのが印象に残っています。ただ,紹介された記事の中には,原典に当たってみようと思ったものもあり,東芝事件の経緯を振り返りながら,日本経済新聞がどのようにこれを伝えてきたかを検証することができた点は,たいへん参考になりました。

 また,第三者委員会については,平成27年11月23日の日本経済新聞の記事を引用しながら,改善すべき事項として,以下の4点を挙げています。

①重要な問題なのに,経営者が暴いてほしくない点に触れないのでは,独立性のない疑似第三者委員会になること

②多くの報告書は委員の選定過程が明らかでないこと

③委員会の調査報酬を開示していないこと

④調査委に関係した人たちの調査時間等を開示していないこと

 ①はともかく,②から④の指摘はすぐにでも改善できることであろうかと思います。証券取引所が,このあたりの規制を強化する方向に舵を切れば,すむ話でしょう。

 現在,小職は,秋に予定しているセミナーの講義準備をしているところですが,参考にしたい記述が多くありました。

書籍『リベラルのことは嫌いでも,リベラリズムは嫌いにならないでください』

  井上達夫教授の著作を2冊,続けて読みました。

 憲法9条の削除,良心的兵役拒否を認めたうえでの徴兵制の導入,という教授の持論が,毎日新聞社の志摩和生さんとの間の会話というかたちで,展開されています。 

 

 読んでいる最中にちょうど,天皇陛下のお言葉があり,天皇制に関しても,井上教授が以下のような発言をしていて,なるほど,そうした考えもあるのかと思いましたので,引用しておきたいと思います。

天皇・皇族を自己のアイデンティティのために「使っている」のは国民だ。天皇・皇族には職業選択の自由はない。政治的言動も禁じられ,表現の自由もない。天皇制は主権者国民が皇族を奴隷化するという意味で,最後に残された奴隷制天皇制は反民主的だからでなく,民主的奴隷制だから廃止せよ,というのが自説です。

 極端な議論ではあると思いますが,自ら生前退位を選択することもできず,それを主張することすらできないという,天皇陛下のお気持ちの表明をお聞きしたあと,井上教授の主張を読むと,最初に読んだときとはまた違った思いがするのも事実です。

 「憲法の涙」の方では,井上教授が他の憲法学者の主張を一刀両断にしており,こちらも非常に興味深く,読みました。

「租税争訟レポート」Profession Journal誌に寄稿しました。

 本日公開されたProfession Journal誌に,「租税争訟レポート(第29回)」を寄稿しています。とりあげた事例は,さる6月22日,国税不服審判所のホームページで公表された裁決事例から選んだもので,不動産管理会社を利用して節税策をとっていた納税者に対する不服審判所の判断について,納得できない部分も含めて,解説しています

(平成27年11月4日裁決)| 公表裁決事例等の紹介 | 国税不服審判所

 タイトルは「返還しなかった敷金に対する課税」なのですが,それよりも,配偶者を代表取締役とする不動産管理会社へ支払った金員の必要経費算入の可否の判断のほうが,より興味深く,もちろん,裁決文書としてもそちらに重きを置いているんですが,原処分の「一部取消し」になったのが,敷金だったものですから,このようなタイトルになりました。

 ぜひ,ご一読ください。

「会計不正防史学」企業会計9月号――発売中です。

  企業会計2016年9月号が発売になりました。連載中の「会計不正防史学」今月の執筆者は公認会計士塩尻明夫先生。ダイキン工業において行われていた「売上の前倒し計上」事件です。部門ぐるみの隠蔽工作を行って長期間にわたり不正を行ってきたものの,匿名の内部通報により,発覚した事件でした。

 会社の再発防止策について,塩尻先生は「経営陣によるリスクの評価」が重要であると強調されています。経営陣が,部門責任者の性格や事業内容の特性などに注目し,内部監査部門や会計監査人との適切な連携を図ることが,再発防止に効果的であるとして論を締め括っています。

Accounting(企業会計) 2016年 09 月号 [雑誌]

Accounting(企業会計) 2016年 09 月号 [雑誌]

 

  さて,毎号楽しみにしている「特集」ですが,本号はなんと『租税回避と会計学』がテーマです。パナマ文書の発覚以来,にわかに注目を浴びている租税回避について,会計学の視点から多角的な分析が展開されているようです。これは,私たち税理士にとっても必読の特集記事となっているように思われます。ぜひ,じっくり拝読したいと思います。