「会計不正調査報告書を読む【連載第71回】」Profession Journal誌に寄稿しました。

 Profession Journal誌に不定期連載中の「会計不正調査報告書を読む」連載第71回は,昨年11月に公表された福井コンピュータホールディングス株式会社の第三者委員会調査報告書をとりあげました。

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 問題となったのは「関連当事者取引」。福井コンピュータホールディングス株式会社の筆頭株主代表取締役を兼務している同社会長が経営するダイテックグループとの取引や,第2位の株主である株式会社LIXILのグループ会社との取引が,監査役会で問題とされ,第三者委員会を設置して調査が行われました。

 第三者委員会は,主に次の3つの視点から取引内容を分析しています。

  • 関連当事者取引に関して,役員に善管注意義務違反などの法的責任があるか否か
  • 関連当事者であるダイテックグループ及びLIXILグループとの取引において,福井コンピュータホールディンススグループの利益を毀損するような不当な取引が存在したか否か
  • 関連当事者取引に関する有価証券報告書の記載につき,開示義務違反があったか否か

 その結果,関連当事者との取引に不当なものはなく,福井コンピュータホールディングスの役員には善管注意義務違反などの法的責任はないと結論づけて,調査を終了しました。そうすると理解できないのは,第三者委員会の設置と同時期に,福井コンピュータホールディングス代表取締役社長が辞任を表明したことです。残念ながら,調査報告書には,辞任に関する記述は一切ありませんでしたので,真相はわからないままです。その後,同社の取締役の辞任が相次ぎ,今年になってもLIXILが持株割合を引き下げるなど,まだ動きがありそうですので,決算発表,株主総会の招集通知などの情報を追いかけたいと思っているところです。

「租税争訟レポート」Profession Journal誌に寄稿しました。

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 不定期の寄稿させていただいているProfession Journal誌に「租税争訟レポート(第36回)」として,昨年12月15日に最高裁判所が言い渡した判決をとりあげました。原審,第1審判決ともに,同誌に評釈を寄稿してきました「馬券の払戻金に係る所得区分と外れ馬券の必要経費性」についての,新しい最高裁判決です。

 馬券の払戻金については,平成27年3月19日の最高裁判決により,PCソフトを利用して,多数の馬券を自動的に購入し続けるなど,一定の要件を満たせば「雑所得」とするという所得税基本通達の改正が行われ,その後の,税務行政においてはこの通達をもとに課税処分が行われていました。

 本件訴訟の納税者は,ソフトウエアの利用ではなく,個人で分析したデータに基づいて,多額の馬券を購入して恒常的に利益を上げていたため,処分行政庁は,上記改正後の通達に基づき,これを「一時所得」として課税処分を行いました。第1審は納税者の訴えを棄却し,原審はこれを逆転して,課税処分の取消しを命じて,さて,最高裁はどう判断するか,というのが焦点でした。

 下級審では,改正後の通達にある「一連の馬券の購入が一体の経済活動の実態を有する」かどうかを巡って見解が分かれたものでしたが,最高裁は,この文言にとらわれず,被上告人(納税者)の馬券購入行為そのものを継続的行為であり,客観的に見て営利を目的とすると判断して,上告人である国の訴えを斥けました。

 その結果,国税庁は,上記通達の再改正を余儀なくされます。

 3月からパブリックコメントを実施して,通達改正を行うとのことです。

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 前回改正時には,パブリックコメントを実施したものの,結果的にはコメントの中身を一切採用せずに,改正案をそのまま押し通した国税庁ですが,さて,今回はどうするのでしょうか。前回のパブリックコメントの中には,改正内容に反映していれば,最高裁判決を待たずとも,本件の被上告人である納税者を救済することができたはずなのですが。

速報解説「公表裁決事例平成29年7月~9月」をProfession Journal誌に寄稿しました。

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 国税不服審判所が3か月に1度公開している「公表裁決事例」。平成27年7月~9月分が3月19日に公開されましたので,例によってその中のいくつかを解説する記事を,Profession Journal誌に寄稿しました。

 これまで,「請求内容については全面的に棄却しているが,課税庁の処分の一部に誤りがある場合」については,公表裁決事例の要旨の表記は「棄却・一部取消し」又は単に「一部取消し」となっていて,用紙を読むだけでは「なぜ一部取消しなのか」が不明なものが多かったのですが(もちろん,「裁決(抄)」まで読めば,国税不服審判所の判断内容はわかります),前回あたりから,裁決要旨の最後に「なお」「ただし」という接続詞の後,「請求内容については棄却だが,裁決としては一部取消し」となった理由が明示される裁決要旨が目につくようになりました。

 今回の裁決事例では,こんな感じです。

 なお、矯正診療費に係る収入すべき時期の認定に一部誤りがあったことから一部取消しとなった。

 ただし、請求人の課税売上割合及び控除対象仕入税額を再計算すると、原処分の一部を取り消すべきである。

 裁決要旨を読む側としては,こうした記述があることは,「なぜ一部取消しなのか」を理解するうえで有用であろうかと思います(いちいち「裁決(抄)」の全文を読むのもたいへんですし)。

 

「会計不正調査報告書を読む【連載第70回】」Profession Journal誌に寄稿しました。

 不定期連載の「会計不正調査報告書を読む(第70回)」をProfession Journal誌に寄稿しました。今回,大豊建設株式会社で発覚した下請代金の不正支出に関する第三者委員会調査報告書がテーマです。

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 社内調査の段階では,有力者である会長が関与しての不正支出ではないかということで,会長は調査の結果,辞任を余儀なくされたわけですが,第三者委員会は辞任した元会長による指示はないまま,大豊建設が工事で得た利益を配分するという格好で,下請会社に追加で工事代金が支払われたという結論を下しました。

 報告書で気になったのは,2点です。

 元会長は自身の関与を否定し続けていたにもかかわらず,どうして辞任をすることになったのか。追加で工事代金の支払いを行った事業所長は,社長にそのことを自白したわけですが,社長は,内部通報制度を利用させて,真相究明を行うことにしたのはなぜか。どちらも,報告書からは十分に読み取れませんでした。

 それにしても,この追加の工事代金支払いは,税務上,困難な問題を引き起こしそうです。おそらくは,工事原価として損金の額に算入することができるかどうかについて,国税局による厳しい指摘がなされるのではないかと思われます。税理士2人が調査補助者として,第三者委員会に参加しているので,そのあたり,抜かりはないと思うのですが。

書籍『パワハラ・セクハラ・マタハラの相談はこうして話を聴く』

 内部通報窓口を専門にしているわけではないのですが,年に数回は,関係者へのインタビューをする機会があります。とくに初めて会う人に対するときは,たいへん気を遣いますし,終わった後も「あれでよかったのかな」と反省することが少なくないのですが,ハラスメントの相談窓口担当者向けのわかりやすい解説書を見つけました。

 執筆者は,日本産業カウンセリングセンター代表者の野原蓉子さん。140ページの薄い書籍ですが,中身は充実しています。

  ポイントの一つは,タイトルにある「聴く」という姿勢のようです。また,ハラスメント対応は「初動」が肝心であると繰り返し説明されています。本書のなかでも,実務上とても参考になったのは,「信頼が得られる面談の進め方」としてまとめられた20の面談テクニックでした。「こうしたほうがいいだろうな」となんとなく理解している項目ではあるのですが,こうして明示され,その効果を教えられると,これまでに行ってきた面談における反省点や改善点がよくわかります。相談事例が,失敗した場合と成功した場合に分けてその原因がわかりやすく解説されているのも,「なるほど」という感じで,失敗例に学ぶということの大切さを気づきました。

 

「会計不正調査報告書を読む【連載第69回】」Profession Journal誌に寄稿しました。

 不定期で寄稿させてもらっている「会計不正調査報告書を読む」の連載第69回目の記事が,Profession Journal誌上で公開されました。

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 今回の事例は,亀田製菓株式会社のタイ現地製造販売子会社で起こった,棚卸資産の過大計上です。会計不正としてはありふれたもので,実地棚卸すら満足にできていないという内部統制からすれば,不正が長く発見できなかったのも肯けるのですが,本件特有の事情があって,記事としてとりあげることにしました。

 それは,会計不正があったタイの現地子会社でかつて副社長と経理部長を務めていた方が,現任の親会社常勤監査役である,という事実でした。不正が発覚したのは,当該常勤監査役が「棚卸資産が過大である」ことを指摘して,タイへ出張予定だった常務執行役員に指示して在庫を確認させたり,現在のタイ子会社副社長に調査を命じたりしたおかげではあるのですが,一方,当該常勤監査役がタイ子会社に在職中に既に不正が行われていたことも,調査委員会による調査で判明しています。

 調査報告書では,調査委員会のヒアリングに対して,当該常勤監査役がどのような発言をしているのかが詳らかにされておらず,その点不満は残りましたが,公表を前提にした報告書である以上,限界があるのは仕方ないのかもしれません。

 規模のさほど大きくない海外子会社の会計不正ですが,調査に要した費用や有価証券報告書の訂正費用など,会社に与えた影響は決して小さいものとは言えません。業績が悪いとタイから撤退するのではないかと危惧して不正を続けてきたタイ人の経理部長の社内処分――各社の社内規程に基づき,厳正な処分を粉うことが公表されています――がどうなったのかが気になります。

「会計不正調査報告書を読む」Profession Journal誌に寄稿しました。

 不定期で連載させていただいている「会計不正調査報告書を読む【連載第68回】」が本日,Profession Journal誌で公開されました。

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 今回の寄稿は,通常の連載とは趣を少し変え,2017年に設置が公表された上場会社41社における「調査委員会」について,その不祥事の態様や調査員会の構成などに着目して,集計・分析を行いました。

 調査委員会設置を公表した41社の不祥事の中で,いわゆる「会計不正」に該当するものは29社ありました。そのうち,海外子会社を含む子会社による不正は18社と,6割を超える水準になっており,子会社のガバナンスをどうするかが課題になっているものと考えられます。とくに,上場会社が持株会社で,複数の事業会社を傘下に有しているような企業形態をとった場合に,従業員を多く有しているわけではない持株会社による事業会社のガバナンスをどうするのかは,課題と言えそうです。