「事例で見る不正リスクの許容ライン」旬刊経理情報6月10日号に寄稿しました。

www.keirijouhou.jp

 旬刊経理情報誌に原稿が掲載されるのはほぼ1年ぶりでしょうか。

 当初企画では,8ページ程度で事例を4つくらいという感じだったのですが,ちょうど「不祥事予防のプリンシプル」が公表されたことも重なって,「特集」扱いになり,分量も12ページに拡大されました。おかげで,連休はほぼ原稿をまとめる時間に費やされてしまいましたが(笑)。

 「不正リスクの許容ライン」というのは耳慣れない言葉かもしれません。編集部の造語です。「最低限,これだけはやっておきたい不正防止または不正の早期発見対策」という意味で,原稿をまとめました。これまで,Profession Journal誌に寄稿してきた「会計不正調査報告書を読む」の連載記事を再構成して,新たな視点を書き加えた形の内容に仕上がっているかと思います。

 定期購読が前提の雑誌ゆえ,購入できる書店は限られていますが,ぜひお読みいただき,ご意見をお聞かせいただけると幸いです。

「AIで士業は変わるか?」Profession Journal誌に寄稿しました。

 Profession Journal誌では,連載企画として,「AIで士業は変わるか?」シリーズを不定期後悔しており,この度,その第16回に,「AIで不正会計はなくなるか?」をテーマに寄稿させていただきました。

profession-net.com

 執筆の依頼をいただいたときに,結論は,「AIで不正会計をなくすことはできないかもしれないが,より早期に発見することはできる」ということになろうと考え,その方向で書き進めていたところ,公認会計士・公認不正検査士の宇澤亜弓先生のご著書「不正会計リスクにどう立ち向かうか!」の一節を思い出し,引用させてもらうことにしました。引用した部分は,次のとおりです(同書77ページ)。

ある情報・状況・事実等に接した「人」が,当該情報・状況・事実等に対して違和感を覚えることにより,不正会計の端緒の把握となる。「何かおかしい」「何か変だ」「なんでだろう」「どうしてだろう」という違和感である。この違和感をきっかけに,そこからさらに事実を掘り下げ,端緒と企業活動の実態との乖離が明らかにされ,不正会計が発覚することにより,この発覚のきっかけとなった情報・状況。事実等が不正家計の端緒となるのである。ゆえに,不正会計の端緒とは,客観的な存在として不正会計の端緒が存在するのではなく,当該端緒情報に接した「人」が違和感を覚えることにより端緒となり得るのであって,極めて主観的な存在となる。

 この「人」が覚える「違和感」を,たとえば,会社の基幹システムが認識できるようになれば,リアルタイムでアラート情報を生成させて,不正の端緒について調査ができるのではないか,そして,不正の早期発見が可能になるのではないかというのが,結論となりました。

  ご興味がございましたら,ご一読いただければと思います。

不正会計リスクにどう立ち向かうか! (内部統制の視点と実務対応)

不正会計リスクにどう立ち向かうか! (内部統制の視点と実務対応)

 

 

 

「会計不正調査報告書を読む」Profession Journal誌に寄稿しました。

 ほぼ月に1回連載させていただいている「会計不正調査報告書を読む」の第72回の連載記事が本日公開されました。今回は,少し趣向を変えて,東京証券取引所昭光通商株式会社に徴求した「改善報告書」と「改善状況報告書」から,短期間に2回の調査委員会設置を余儀なくされた昭光通商における危機管理の問題点を考察しました。

profession-net.com

 2015年5月,昭光通商は,中国企業向けの取引における売掛債権が回収できなくなったとして,128億円の貸倒引当金を繰り入れ,特別調査委員会を設置して,原因分析と再発防止策の提言を受けました。

 特別調査委員会による調査結果を公表してから約1年半ほど経過した2017年2月,今度は子会社における中国企業との取引が資金循環取引であったとして,再び,特別調査委員会を設置して調査を行うことを公表しました。4月になって公表された調査結果を読むと,第一次調査が行われていた最中にも,子会社による資金循環取引はどんどん金額を増加させていたことがわかります。

 そもそも,第一次調査委員会の調査の範囲を,貸倒引当金を設定することとなった昭光通商と昭光上海に限定せずに,すべてのグループ会社を対象としておれば,その時点で資金循環取引は発覚したことでしょう。また,せめて,第一次調査委員会の提言にしたがって,すべての子会社の取引について商流を確認していれば,有価証券報告書を訂正せずに済んだかもしれません。

 昭光通商経営陣は,なぜ,調査範囲を限定して,あるいは,第一次調査委員愛の提言をないがしろにしたのか。その答えを「改善報告書」から探ってみたいというのが,連載第72回の趣旨になります。

 ご一読いただければ幸甚に存じます。

「税務弘報」6月号に寄稿しました。

 連休前で発売日が繰り上がっている税務弘報6月号に「税理士も知っておきたいフェア・ディクロージャ―・ルール」と題する時事解説記事を寄稿いたしました。 

税務弘報 2018年 06 月号 [雑誌]

税務弘報 2018年 06 月号 [雑誌]

 

  フェア・ディスクロージャー・ルールと税理士業界って,一見,接点はなさそうなのですが,関与先の経営者から「フェア・ディスクロージャー・ルールって何ですか?」というような質問を受けたときに適切に答えられるような内容を目指して原稿をまとめたのですが,さて,どこまでわかりやすくまとめられているでしょうか。

 フェア・ディスクロージャー・ルールについて,詳しく知りたい方には,大崎貞和さんの著書がたいへん参考になります(私も参考にさせていただきました)。

フェア・ディスクロージャー・ルール (日経文庫)

フェア・ディスクロージャー・ルール (日経文庫)

 

  ところで,税務弘報6月号の特集は「事業承継の納税猶予 はじめの一歩」です。表紙上部の惹句が効いています。

話題になっているけど実はよくわからない「税理士の泣きどころ」を押さえる!

 なかなか的を射た文言で,編集担当の顔を思い浮かべながら,「この機会に勉強させていただきます」と思った次第です。

 

書籍:安岡孝司著『企業不正の研究』

  書籍のタイトルがストレートでしたので,さっそく読んでみることにしました。著者は,銀行系の研究所から大学の教授へと転じられた金融関係の経験が豊富な方のようです。同じ不正事件を違う立場の研究者は,どのように分析するのか,楽しみながら拝読しました。

企業不正の研究 リスクマネジメントがなぜ機能しないのか?

企業不正の研究 リスクマネジメントがなぜ機能しないのか?

 

 「第1部企業不正事件の報告書から学ぶ」でとりあげた事例は9件で,少し古いものもありますが,すべて2010年以降に発覚したもので,東芝のように長い期間マスコミをにぎわせた事件から,あっという間に忘れ去られた事件まで,多彩な事例について,分析が試みられています。

「第2部クイズ形式で学ぶリスクマネジメントの基本」では,動物園を題材に,ステークホルダーの意向とリスクマネジメントについて,わかりやすく解説されています。第1部でとりあげた不正事件について,どのようなリスクマネジメントが不足していたことがその原因となったかなど,事例とあるべきリスクマネジメントのかたちが対比されて解説されていて,わかりやすく読むことができました。ひとつ難を言わせてもらえば,経営者不正に対するリスクマネジメントについての言及が少なかったことと,その中で,【経営者の不正防止】として,③内部監査室を監査役の配下におかない,という対策の提言が,ちょっと,私自身の考えとは違うかな,というところです。

 こうした書籍が続々と刊行されて,不正リスクに対する経営者の認識が高まり,企業が不正を起こさない,不正に巻き込まれないようになればと思います。

 

 

「会計不正調査報告書を読む【連載第71回】」Profession Journal誌に寄稿しました。

 Profession Journal誌に不定期連載中の「会計不正調査報告書を読む」連載第71回は,昨年11月に公表された福井コンピュータホールディングス株式会社の第三者委員会調査報告書をとりあげました。

profession-net.com

 問題となったのは「関連当事者取引」。福井コンピュータホールディングス株式会社の筆頭株主代表取締役を兼務している同社会長が経営するダイテックグループとの取引や,第2位の株主である株式会社LIXILのグループ会社との取引が,監査役会で問題とされ,第三者委員会を設置して調査が行われました。

 第三者委員会は,主に次の3つの視点から取引内容を分析しています。

  • 関連当事者取引に関して,役員に善管注意義務違反などの法的責任があるか否か
  • 関連当事者であるダイテックグループ及びLIXILグループとの取引において,福井コンピュータホールディンススグループの利益を毀損するような不当な取引が存在したか否か
  • 関連当事者取引に関する有価証券報告書の記載につき,開示義務違反があったか否か

 その結果,関連当事者との取引に不当なものはなく,福井コンピュータホールディングスの役員には善管注意義務違反などの法的責任はないと結論づけて,調査を終了しました。そうすると理解できないのは,第三者委員会の設置と同時期に,福井コンピュータホールディングス代表取締役社長が辞任を表明したことです。残念ながら,調査報告書には,辞任に関する記述は一切ありませんでしたので,真相はわからないままです。その後,同社の取締役の辞任が相次ぎ,今年になってもLIXILが持株割合を引き下げるなど,まだ動きがありそうですので,決算発表,株主総会の招集通知などの情報を追いかけたいと思っているところです。

「租税争訟レポート」Profession Journal誌に寄稿しました。

profession-net.com

 不定期の寄稿させていただいているProfession Journal誌に「租税争訟レポート(第36回)」として,昨年12月15日に最高裁判所が言い渡した判決をとりあげました。原審,第1審判決ともに,同誌に評釈を寄稿してきました「馬券の払戻金に係る所得区分と外れ馬券の必要経費性」についての,新しい最高裁判決です。

 馬券の払戻金については,平成27年3月19日の最高裁判決により,PCソフトを利用して,多数の馬券を自動的に購入し続けるなど,一定の要件を満たせば「雑所得」とするという所得税基本通達の改正が行われ,その後の,税務行政においてはこの通達をもとに課税処分が行われていました。

 本件訴訟の納税者は,ソフトウエアの利用ではなく,個人で分析したデータに基づいて,多額の馬券を購入して恒常的に利益を上げていたため,処分行政庁は,上記改正後の通達に基づき,これを「一時所得」として課税処分を行いました。第1審は納税者の訴えを棄却し,原審はこれを逆転して,課税処分の取消しを命じて,さて,最高裁はどう判断するか,というのが焦点でした。

 下級審では,改正後の通達にある「一連の馬券の購入が一体の経済活動の実態を有する」かどうかを巡って見解が分かれたものでしたが,最高裁は,この文言にとらわれず,被上告人(納税者)の馬券購入行為そのものを継続的行為であり,客観的に見て営利を目的とすると判断して,上告人である国の訴えを斥けました。

 その結果,国税庁は,上記通達の再改正を余儀なくされます。

 3月からパブリックコメントを実施して,通達改正を行うとのことです。

search.e-gov.go.jp

 前回改正時には,パブリックコメントを実施したものの,結果的にはコメントの中身を一切採用せずに,改正案をそのまま押し通した国税庁ですが,さて,今回はどうするのでしょうか。前回のパブリックコメントの中には,改正内容に反映していれば,最高裁判決を待たずとも,本件の被上告人である納税者を救済することができたはずなのですが。