【書籍】川名壮志『密着 最高裁のしごと――野暮で真摯な事件簿』

  ふだん,もっぱら図書館を利用しているのですが,この本は,めずらしく,書店で目にとまって読むことにしました。サブタイトルに惹かれたのかもしれません。著者は,毎日新聞の記者。さすがに文章は読みやすく,難しい法律論を平易にあらわそうとする意図が感じられました。

密着 最高裁のしごと――野暮で真摯な事件簿 (岩波新書)

密着 最高裁のしごと――野暮で真摯な事件簿 (岩波新書)

 

  著者によれば,

最高裁って,下世話で知的で,ロジカルでウェット」

というのが結論だそうです(プロローグより)。

 とりあげられている事件はいずれも大きく新聞報道で扱われたものばかり。そういう意味では,よく知っている事件のはずですが,こうして1審判決からの経緯や,最高裁判決における裁判官の賛成・反対の意思表示,補足意見や反対意見をまとめて解説してもらうと,判決を読んだころに見落としていた論点があったり,最高裁判事の人柄が垣間見えたりして,面白く事件を振り返ることができました。

 刑事事件を扱った第3章,第4章では,裁判員裁判が下した判決を控訴審がどこまで尊重するのかについての,最高裁の姿勢が語られています。一方では,「高裁は事後審に徹するべきだ」として,裁判裁判の判断をベースにすることを求めながら,こと量刑については,「裁判例の集積」を理由に,量刑が裁判体の直感によって決められることがないよう,釘を刺します。求刑を大幅に上回る量刑を言い渡した裁判員裁判の判決を維持した(そういう意味では「事後審に徹した」)大阪高裁判決について,「著しく正義に反する」「甚だしく不当」として取り消した2014年7月24日の第一小法廷判決は,最高裁の面目躍如といった感があります。

 個人的には,一度は裁判員を経験してみたいと思っているのですが,量刑判断は,やはり難しいのだろうと,あらためて感じた次第です。

「会計不正調査報告書を読む」Profession Journalに寄稿しました。

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 年明け最初の寄稿は,株式会社デジタルデザインの第三者委員会調査報告書をとりあげました。記事の中でも言及していますが,最初に報告書が公開されたころ(8月31日)には,あまり注目をしていなかったのですが,その後,昨年11月ころから,不正行為を働いたとされた元社長と現経営陣が,経営権をめぐって激しい争いをしているところから,にわかに注目を集めることとなった事例です。

 現在は,大株主でもある元社長が大阪地方裁判所に申し立てた臨時株主総会の招集許可が,決定されたことを受けて,デジタルデザインが,2月28日に開催を予定していた臨時株主総会の期日を変更するのか,会社提案の議案をどうするのかといった点に焦点が移っているところです。

 これまでのところ,裁判所の仮処分や招集許可などを巧みに利用している元社長側(おまけに44%を超える株式を保有しています)に有利な展開なのかなというのが印象ですが,今後の展開が気になります。

 さて,Profession Journal創刊時より,連載させていただいている「会計不正調査報告書を読む」は今回で54回を数え,プリント・アウトした調査報告書と寄稿した原稿を保管しているボックス・ファイルは4冊目になりました。

 新年最初の寄稿ということもありますので,いつもお世話になっている編集部のみなさん,お読みいただいているみなさんに,この場をお借りして感謝いたします。

 ありがとうございます。

「週刊エコノミスト」12月20日号特集「粉飾 ダマし方見抜き方」

  週刊エコノミスト誌を,特集のタイトルに惹かれて購入しました。執筆陣も豪華であることは,月曜日の朝刊に載った広告でわかってはいたのですが,弊事務所のそばには書店がなく,なかなか手に入れることができずに,一昨日になってようやく読むことができました。

週刊エコノミスト 2016年12月20日号 [雑誌]

週刊エコノミスト 2016年12月20日号 [雑誌]

 

 粉飾決算の防止,早期発見には,多くの論点があります。

 公認会計士の前川修満氏,村井直志氏は,異口同音に「キャッシュフロー」に注目した粉飾決算の発見法を説いていらっしゃいます。同じく公認会計士の浜田康氏は,企業風土の変革について,「社長候補者選定委員会の設置」を提言しておられます。弁護士の山口利昭氏は,監査役に「粉飾防止の番人」としての役割を強調されています。

 小職が最近お話しさせてもらったセミナーでは,再発防止・早期発見策として。次の4つの論点を解説させていただきました。

1.内部通報制度の実効性を高める

2.内部監査部門の位置づけをどうするか

3.会計監査人のローテーション化

4.子会社キャッシュフロー計算書の分析による粉飾防止

 本誌を拝見して,方向性としては間違っていないのかなと思った次第です。

 こうした特集に際し,エコノミスト編集部から小職にお声がかからなかったという事実は,小職がまだまだ力不足・知名度不足であることの証左として,さらなる精進を重ねなければならないと痛感しました。

「速報解説」与党税制改正大綱「中小企業に対する特例措置の縮減策」をProfession Journal誌に寄稿しました。

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 12月8日に公表された与党税制改正大綱のうち,中小企業に対する各種租税特別措置の縮減に関する項目のついての解説を,Profession Journal誌に寄稿させていただきました。資本金1億円以下であれば,法人税制上は中小企業として,各種の特別措置を享受できるわが国の制度については,「資本金を基準にすることがそもそもおかしい」という意見が多くみられるところですが,平成32年4月1日以降に開始する事業年度のついては,前3年間の平均所得金額が15億円超の実質的な大企業については,こうした特例を廃止するというのが,税制改正大綱の方針です。

 代表的な大きな中小企業としては,日本マクドナルドジャパネットたかたアイリスオーヤマなどが挙げられます。こうした会社に取材した,日本経済新聞社編『税金考――ゆがむ日本』を読みますと,中小企業として享受している恩典は,租税特別措置よりもむしろ,法人住民税の均等割りや外形標準課税の適用を受けないことにありそうなので,今回の税制改正大綱の影響はよくわからないところがありますが,制度が始まるまでに,新規設備投資や既存設備の更新を前倒しで行おうとする動きが,今後,出てくるかもしれません。

税金考 ゆがむ日本

税金考 ゆがむ日本

 

 

 

「速報解説」日本監査役協会『会計不正防止における監査役等監査の提言』を寄稿しました。

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 公益財団法人日本監査役協会会計委員会が,去る11月24日に公表した『会計不正防止における監査役等監査の提言――三様監査における連携のありかとを中心に――』と題された提言集について。いつも寄稿させていただいているProfession Journal誌に速報解説記事が掲載されました。

 今年は監査役協会さんとはご縁の深い1年となり,6月には,札幌,仙台,静岡及び新潟において,「情報交換会」という席でお話をさせていただく機会があり,200人を超える上場会社の現役監査役(監査等委員である取締役も含む)と意見交換をするという貴重な体験をさせていただきました。

 その中で,小職は「内部監査部門を監査役会(監査投委員会)の直轄にするという選択肢もあるのではないか」という発言を行って,かなりの方からご批判を頂戴したのですが,実際には,そういう上場会社が増えてきている状況の中で,監査役協会としてはあえて「三様監査」にこだわっているのかなというのが,タイトルを見たときの印象でした。

 詳細は,記事をご一読いただければと存じます。なお,「速報解説」の記事は,無料会員でも閲覧できるようになったということですので,まだ,会員登録がおすみでない方はこの機会に是非ご登録いただければ幸いです。

 日本監査役協会のリリースは以下のサイトです。

www.kansa.or.jp

「会計不正調査報告書」Profession Journal誌に寄稿しました。

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 ほぼ月に1回の割合で連載させていただいておりますProfession Journal誌の「会計不正調査報告書を読む」。小職が,セミナーや講習会などでお話しする内容の多くは,この連載記事をベースにしており,そうしたことから,公認不正検査士(CFE)としての小職の知見の土台ともいえる記事です。

 今日公開された連載第53回は,少し古い事案になってしまいましたが,株式会社高田工業所が,7月に公表した第三者委員会報告書をとりあげました。

 本件,いくつか特徴があります。

 まず,国税局による税務調査で不正が発覚したこと。

 次に,これを受けて,会社は「内部調査委員会」を設置して調査にあたることにしたが,会計監査人から「第三者委員会」による調査を求められ,応じたこと。

 第三者委員会による調査の結果,過去の不正行為が次々と明るみに出ただけでなく,それを「内部調査委員会」において隠蔽するかのような行為があったこと。また,国税局による指摘は,今回が初めてではなく,過去においても同じような事象で指摘を受けていながら,会社としての対応が十分でなかったこと。

 こうした特徴を持つです。ぜひ,本文をお読みください。

「租税争訟レポート」Profession Journal誌に寄稿しました。

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 web情報誌Profession Journalに連載中の「租税争訟レポート」に新しい記事を寄稿させていただきました。 

決算期末,節税対策として商品券などの金券を多めに購入して,とりあえず「交際費」に計上しておく――そんな手法が推奨された時代もあったようです。税務調査がなければ,節税対策は有効に機能して,納税者も税理士も「やれやれ」なのですが,本件のように,税務調査が入ってしまい,誰に,いつ,何枚渡したのかを証明する資料が残っていないと,それは損金の額に算入することはできません,と結論づけられてしまうという事例です。

 商品券の配布先をめぐる納税者側の主張は,税務調査時,不服申立て時,そして裁判中と,かなり変遷しています。

 たとえば,税務調査時には,納税者の代表者は,「頭の中にはあるが,渡した相手は多数で,明細は作っていない」旨の応答をしたと,裁判所は認定しています。調査時に税理士の立ち合いがあったどうかは定かではないのですが,このときに,何らかの交付者リストを出すことができなかった点が,裁判でも原告の請求が棄却された原因になっているのではないかと思います。その後,国税不服審判所における審判においても,「誰に,いつ,何枚」ということははっきり主張せず,審査請求も棄却されています。こうした状況で,裁判の場で急に名簿らしきものを証拠として提出したところで,やはり証拠価値としては低いと判断され,原告の主張が認められなかったのもやむを得ないところでしょう。