Sue Graftonさんの訃報。

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 すっかりご無沙汰している感の強い,キンジー・ミルホーンの生みの親Sue Graftonさんが亡くなったそうです。訃報を読んで初めて知ったのですが,シリーズはまだ続いていたようで,'Y'まで刊行されるとのこと。なぜか日本では,「ロマンスのR」(原題:"R" Is for Ricoche)までしか発刊されておらず,続きが書けなくなっているのかと思っていましたが,早川書房さんが出版してくれない(版権を買っていない)だけだったようです。もしかしたら,あまり売れなくなっていたのかもしれません。

 ご逝去を機に,旧作の復刊や未訳作品の刊行という動きが出てくれれば,ファンの一人としては,いささか複雑な思いを抱きつつも,歓迎したと思っています。

 女性私立探偵小説というジャンルに,私を誘ってくれた作家の一人として,記憶に残る作家でした。合掌。

【書籍】2017年の10冊。

 手許の一覧によれば,2017年には,149冊の書籍を読んでいることがわかりました。月平均12冊ほどですので,サラリーマンを辞めて開業して以来8年,ほぼ同じペースで読んでいることになります。

 ということで,記憶に残った10冊を記録しておきたいと思います(著者名の五十音順)。

東浩紀『ゲンロン0――観光客の哲学』 

ゲンロン0 観光客の哲学

ゲンロン0 観光客の哲学

 

 伊藤恭彦「タックスジャスティス――税の政治哲学」 

タックス・ジャスティス―税の政治哲学 (選書“風のビブリオ”)

タックス・ジャスティス―税の政治哲学 (選書“風のビブリオ”)

 

 井ノ上陽一『ひとり税理士のIT仕事術』 

ひとり税理士のIT仕事術―ITに強くなれば、ひとり税理士の真価を発揮できる!!

ひとり税理士のIT仕事術―ITに強くなれば、ひとり税理士の真価を発揮できる!!

 

 酒見賢一泣き虫弱虫諸葛孔明第伍部』 

泣き虫弱虫諸葛孔明 第伍部

泣き虫弱虫諸葛孔明 第伍部

 

 セキュリティ集団スプラウト『闇(ダーク)ウェブ』

闇ウェブ (文春新書)

闇ウェブ (文春新書)

 

 高桑幸一・加藤裕則編著『監査役の覚悟』

監査役の覚悟

監査役の覚悟

 

 千葉雅也『勉強の哲学――来るべきバカのために』 

勉強の哲学 来たるべきバカのために

勉強の哲学 来たるべきバカのために

 

 細野祐二『粉飾決算vs.会計基準』 

粉飾決算vs会計基準

粉飾決算vs会計基準

 

 Michael Connelly THE DROP 

 W. Bruce Cameron THE MIDNIGHT PLAN OF THE REPOMAN 

真夜中の閃光 (ハヤカワ文庫NV)

真夜中の閃光 (ハヤカワ文庫NV)

 

 

「速報解説・平成30年度税制改正大綱――コネクテッド・インダストリーズ税制の創設」を寄稿しました。

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 先週22日に閣議決定された平成30年税制改正大綱のうちから,情報連携投資等の促進に係る税制,いわゆる「コネクテッド・インダストリーズ税制」について,Profession Journal誌に解説記事を寄稿しました。

 今年の税制改正については抜本的な改正項目が見当たらず,法人税についても手直し的なものと,これまで続けていた「賃金上昇」や「設備投資」の拡充による時限立法的な減税策が目立ちます。今回,解説を依頼された「情報連携投資等促進税制」もそうした流れの一環です。特に注意を喚起したかったのは,ただ,設備を購入すればいいというものではなく,「セキュリティ対策」を義務づけたことではないかと思います。企業を狙った標的型ウィルスの猛威が喧伝される中,生産設備をinternetえ結びつけ,業務の効率化を図ろうとする企業に対して,それなりのセキュリティ対策を求めるのは当然だと思います。

 なお,Profession Jounal誌では,税制改正情報のまとめサイト(資料リンク集)を作っており,こちらも参考になります。

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「速報解説・公表裁決事例」Profession Journal誌に寄稿しました。

 国税不服審判所が四半期ごとに公表している「公表裁決事例」ですが,平成29年4月~6月分が,先週12月18日に公表されました。今回の公表裁決事例は10件,課税処分の一部が取り消された裁決はそのうち4件でした。

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 いつものように3件の裁決について短くまとめておりますが,一番興味深く読んだのは,無申告加算税ではなく重加算税の賦課決定処分をした原処分庁に対して,「隠ぺい,仮装の意図はなかった」として,重加算税を取消した裁決でした。「疑わしきは罰せず」に近い判断を国税不服審判所が行うのは,あまり記憶にありません。詳細は,寄稿した記事と公表された裁決をお読みいただければと思います。

 公表裁決についての紹介記事を書くたびに思うのは,いつになったら,裁決のすべてが公表されるのだろうかということです。このところ3か月間で10件程度の公表が常態化しており,「この程度公表しておければいいかな」という思惑でもあるのかと勘繰りたくなります。少なくとも,国税不服審判所が原処分庁による課税処分の全部又は一部を取消した裁決については,全件公表することが,納税者の予測可能性を担保し,権利を守ると同時に,課税庁による無理な処分に対する抑止にもつながると思うのですが,いかがなものでしょうか。

 

「会計不正調査報告書を読む」Profession Journal誌に寄稿しました。

 先週に引き続き,ATT事件の被害者であると思われるKISCO株式会社が設置した特別調査委員会報告書をとりあげた記事を寄稿しました。先週の藤光樹脂株式会社の損害は約4億円とのことでしたが,こちらは,未回収の売掛金残高が約70億円と,桁が違います。

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 冒頭「思われる」と表記したのは,本調査報告書では,ATT株式会社と推測できる会社は「A社」となっており,他のリリースにおいても,ATT株式会社の名称は出てこないことによります。ただ,東京商工リサーチが配信した記事などを合わせて読むと,KISCO株式会社においても,ATTによる架空循環取引に巻き込まれたことが強く推測できます。なお,架空循環取引が発覚した経緯は,藤光樹脂株式会社と同じく,ATT代表取締役からの電子メールでした。KISCO株式会社は,すぐに,ATTに乗り込み,社長以下複数の役員・従業員のノートPCから電子メールデータを抽出することに成功します。これはなかなかすごいと思います。

 その結果,KISCOは,長期にわたって架空循環取引の輪の中に入っていたことが判明,過年度決算の修正を余儀なくだれることとなりました。

 なお,東京商工リサーチは,KISCOが特別調査委員会の設置を公表した4日後には,以下の記事を配信しています。

www.tsr-net.co.jp

 

「会計不正調査報告書を読む」Profession Journal誌に寄稿しました。

 「会計不正調査報告書を読む」連載第65回となる今回の報告書は,藤倉化成株式会社の連結子会社藤光樹脂株式会社が巻き込まれた架空循環取引をめぐる売掛金回収不能事件です。

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 ことの発端は,ATT株式会社代表取締役が関係各社に送ったメールでした。それまでも急激な売上の増加から,架空売上の噂が流れていたATT株式会社でしたが,6月22日,代表取締役は架空取引であったことを認めました。

 真っ先に動きがあったのは,大阪に本店を置く老舗商社KISCO株式会社でした。同社がATT関係の取引で多額の損失を被ったことは,その後の東京商工リサーチのレポートで明らかになります(ただし,この時点では,ATT株式会社の名前までは報じられていませんでした)。

www.tsr-net.co.jp

 KISCO株式会社から送れること1か月余り,藤倉化成株式会社は,連結子会社である藤光樹脂株式会社が貸倒引当金を繰り入れる必要があったことを公表し,はじめて,ATT株式会社の社名が出されました。

 今回の記事は,藤倉化成株式会社が設置した特別調査委員会の調査報告書について,その内容を検討するものです。

 調査期間中である8月14日には,KISCO株式会社が設置した特別調査委員会による調査報告書をも公表されていますが,こちらは,ATT株式会社と思われる取引先については{A社」となっていました。

 広がりを見せるATT事件ですが,来週19日には第1回財産状況報告集会が開催され,債権者が判明するものと思われます。

 なお,KISCO株式会社が公表した報告書については,次週のProfession Jounal誌で公開することを予定しております。合わせてお読みいただくと,ATT事件についての理解が深まるのではないかと考えております。

「租税争訟レポート」Profession Journal誌に寄稿しました。

 web情報誌Profession Jounalに寄稿させていただいている「租税争訟レポート」が公開されました。今回とりあげた事案は,九州地区有数の養鶏業者である原告が,「感謝の集い」と称する従業員向けのコンサート付き昼食会を福利厚生費として損金の額に算入していたところ,熊本国税局による調査の結果,この費用が「交際費等」として課税処分を受けたため,訴訟を提起したものです。

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 福岡地方裁判所は,原告の主張の根幹部分をほぼ認め,課税処分の一部取り消しを命じました。原告の事業活動,参加者の多さや女性社員が多数いることなどから,宿泊を伴う慰安旅行ができないため,豪華な昼食と有名な歌手のコンサートにより従業員に対する「感謝の集い」を催しすための費用について,社会通念上福利厚生費の範囲を超えるものとは認めがたい,と判断しました。被告・国側は,慰安旅行と酒食を伴う宴席とでは,「通常要する費用」が異なるというようにも捉えられる主張をしていたようですが,これはあっさり,裁判所によって退けられました。