『会計不正防史学』企業会計11月号――発売中です。

  中央経済社企業会計誌上で連載中の公認不正検査士による『会計不正防史学』11月号の執筆担当は,株式会社メンバーズ社外監査役・甘粕潔さん。執行役員による預金の着服事件を題材に,「固有リスク」を重視した不正リスク対応について,論述されております。

Accounting(企業会計) 2016年 11 月号 [雑誌]

Accounting(企業会計) 2016年 11 月号 [雑誌]

 

  11月号の特集は,「創業家との向き合い方」。先だって,大戸屋ホールディングスの第三者委員化調査報告書が公表されたばかりですが,創業家の欄について,理論と事例検証から分析しているようです。かなり野次馬的な興味になってしまいますが,どのように分析されているのか,早く読みたいところです。

 

「週刊ダイヤモンド」国税は見ている 税務署は知っている

 時おり,週刊ダイヤモンド市場で特集される税金の話。10月8日号は,「国税は見ている 税務署は知っている」というもので, 「富裕層に照準を定めた国税の本気」というサブタイトルがついています。

 さっそく,買ってみました。

  先週28日に,ちょうどBEPSのセミナーを聴講する機会を得て,財務省の浅川雅嗣財務官のお話をお聞きしたばかりでしたので,OECD租税委員会でどのような議論が繰り広げられてきたか,その結果,「自動的情報交換制度」が導入され,国際協調により租税回避を避止するシステムができあがりつつあるという知識があったので,特集自体は,さほど,驚くような内容ではありませんでした。

 配偶者控除の廃止が現実味を帯びてきた中で,国税の特集を組むというのはなかなか時宜に適ったものであるように思います。

 ただ,本特集でも,あるいは,配偶者控除の問題を取り上げる際に必ず引き合いに出される「130万円の壁」について,あまり,誰もとりあげない論点なのですが,国民年金の第3号被保険者制度を廃止するという議論はなぜ出てこないのでしょうか。

 ご存じのとおり,厚生年金保険の被保険者と共済組合の組合員(第2号被保険者)に扶養されている配偶者(第3号被保険者)は,年金保険料の負担はないのですが,将来は,老齢基礎年金を受け取ることが可能です。もちろん,その年金の原資となっているのは,現役世代が支払った年金保険料です。この優遇制度をまず廃止して(会社員に扶養されている配偶者も国民年金保険料を負担することにして),健康保険をどうするか,という点を考えなければならないのではないかと思います。

 逼迫する年金財政をいくらかでも立て直すためにも,第3号被保険者を廃止するという策(=国民年金保険料納付額の増収策)は効果があるはずです。

 配偶者控除を廃止して,夫婦控除を創設するだけでは,単なる独身税であったり,増税に過ぎなかったりして,働き方改革にはつながらないではないかと,週刊ダイヤモンドの特集とは離れてしまいましたが,このところの議論を読んでいて思った次第です。

 

「会計不正調査報告書を読む」Profession Journal誌に寄稿しました。

 Profession Journal誌で連載中の「会計不正調査報告書を読む」シリーズ。第49回は,サイオステクノロジー株式会社の子会社による,補助金の不正受給問題を調査した「社内調査委員会」の報告書をとりあげました。

https://profession-net.com/professionjournal/financial-statements-article-56/

 上場会社の子会社における不正調査は,必ずしも「第三者委員会」に依らず,この事例のように,社外取締役・社外監査役が委員長になって,外部の弁護士や公認会計士らを委員又は補助者に迎えるという委員会の組成も目立つようになってきました。

 日本取引所自主規制法人による「上場会社における不祥事対応のプリンシプル」からは,「第三者委員会の設置」が不祥事調査のスタンダードであるかのような印象も持ちますが,「経営陣の信頼性に疑義が生じて」いるとは言えないような,子会社不正にあっては,今後も,社内調査委員+「独立性・中立性・専門性」を有した外部有識者という組み合わせは,調査の迅速かつ円滑な実施,委員会設置費用負担の軽減といった観点から,否定されるものではないかと思います。

 本件は,M&A(第三者割当増資の引受け)による子会社化した会社を舞台に,資源エネルギー庁所管の一般社団法人から補助金の不正受給を行っていたことが,親会社であるサイオステクノロジーから新たに派遣された取締役により発見されたことに端を発したもので,連結子会社のガバナンスにおける親会社からの派遣取締役の重要性を改めて示した事例でもありました。

 一方,調査報告書に記述がないため,誌上では触れられませんでしたが,補助金を支給した側の一般社団法人の審査は,どのように行われていたのかなという疑問を払拭できない事例でもありました。不正は,補助金支給対象の資産の買入価格を水増ししたり,人件費などの経費を水増しすることにより行われていたわけですが,どういう審査を行った結果,補助金が支給される仕組みだったのか,一般社団法人に対し,調査委員会が何らかのアクセスを行ったのか,報告書ではよくわかりません。

 もちろん,不正を働く方が悪いに決まっているのですが,補助金を支給する側にも厳格な審査体制がないと,結果的に,税金の一部が無駄遣いされることにつながってしまうわけで,政府出資法人や各省庁が所管する社団法人で,補助金の査定などを担当される部門の方々にもぜひお読みいただきたい調査報告書であると思います。

 なお,サイオステクノロジー社のリリースによりますと,不正に受給した補助金は,規程による加算金も加えて全額が返還されたそうです。

【税務調査】請負偽装による,源泉税・消費税の追徴課税。

www.sankei.com

 かなり使い古された手口かなと思うのですが,未だにこうした事例があるようです。

 手口は簡単。従業員との契約を雇用契約ではなく請負契約であるように偽って,所得税源泉徴収をせずに報酬を支払い,支払った報酬について,課税仕入れとして,消費税の納付額を減少させていたというものです。

 ところが,実際には,社会保険や厚生年金に加入させて保険料を折半していたり(記事にありました),ホームページ上では,雇用契約のあるスタッフを請負又は派遣として企業に派遣することをうたっていたり,まったく平仄が合わないわけで,これでは,「調査後は襟を正し,きちんと納付している」としかコメントできないですね。

www.e-kiwa.com

 こうして報道されてしまったことによる風評リスクも気になるところです。税務調査で指摘を受けた点を認め,是正したので良しとする(取引を継続する)か,それとも,こうした法令遵守意識の低い会社は取引先として不適格だと判断するのか,ホームページ上に大手企業の名前も見えますので,担当者は悩ましい思いをしているかもしれません。

【ゲンロンカフェ】三浦瑠麗・津田大介・東浩紀『日本の未来とポピュリズム』

genron-cafe.jp

 昨日,ゲンロンカフェで行われたイベントに参加してきました。

『日本の未来とポピュリズム』と題された三浦瑠麗 さん,津田大介さん,東浩紀さんによるトークは,満席の聴衆の中,午後7時過ぎに開園。途中休憩をはさんで,結局4時間30分近く続きました。

 話の内容は多岐にわたりましたが,三浦さんの常に冷静な応答が印象的でした。私も愛読している三浦さんのブログ「山猫日記」における都知事選挙結果の分析や,日本には都市政党がなかったこと,マターナリズムの問題など,興味深い話題が多くありました。

 今夜に備えて,三浦さんん著作を読んでおいたのも,彼女の議論を聞くうえでは有意義だったようです。

日本に絶望している人のための政治入門 (文春新書)

日本に絶望している人のための政治入門 (文春新書)

 

  沖縄問題に関する東さんの指摘にも首肯する部分が多くありました。

 二つ不満だった点をあえて挙げます。

 ひとつめは,冒頭から「今夜はトランプ旋風について話す」と繰り返し言いながら,「トランプ」の話題が出てきたのは3時間半ばかりたってからで,個人的にはもう少しアメリカ大統領選挙のことを聞きたかったという印象です。

 もうひとつ。会場のキャパシティーいっぱいまで集客した結果,座席間隔がたいへん狭く,結果的に,飲み物や食べ物を買うことが不可能な状態のまま,4時間以上も座らされていたことです。もう少しゆったりと座り,話の最中に飲み物をったり,トイレに立ったりするために席を離れても誰も迷惑がらない程度の集客人数にしたもらった方が,私のようなおじさん世代の人間には助かります。

 とここまで書いてきて,生中継を事務所のPCで見る手もあることに気づきました。そうすれば,自由に飲み食いしながら,コメントを書き込んだりもできるし,これは一度試してみたいものです。

 候補は,このあたりかな。

genron-cafe.jp

「会計不正防史学」企業会計10月号――発売中です。

  中央経済社企業会計」誌上で連載中の,CFEによる「会計不正防史学」10月号の担当は,「ビジネス法務の部屋」でおなじみの山口利昭弁護士です。お題は,『住友電設事件――子会社不祥事件の「プリンシプル」対応』。日本取引所自主規制法人が2月に公表した「上場会社における不祥事対応のプリンシプル」と子会社不正における調査体制について,論点を整理しています。

 近時の子会社不祥事では,親会社の社外取締役・社外監査役が調査委員会に入るケースも多くみられ,そうした場合に,「プリンシプル」が要請している「独立性」「中立性」「専門性」の確保が,問題となるケースも考えられます。さて,住友電設の場合はどうだったのか。詳細は,ぜひ,山口先生のご論考をお読みください。

Accounting(企業会計) 2016年 10 月号 [雑誌]

Accounting(企業会計) 2016年 10 月号 [雑誌]

 

  今月の特集は「マイナス金利の会計問題!」です。まだ,目次に目を通しただけですが,けっこうな論点があるものだと思います。

 ただ,当職が気になっているのは,「花王楽天エーザイ3社から学ぶ 経理財務英語化のすすめ方」と題された座談会の方です。受験勉強時代から英語へのコンプレックスが払拭しきれないまま今日に至っている身としましては,「サラリーマンじゃなくてよかった」というところでありますが,最前線ではどのような動きがあるのか,拝読させていただこうと思っております。

【税務訴訟】塩野義製薬,ついに訴訟提起へ。

 塩野義製薬株式会社が,大阪国税局は,「現物出資に関する税制上の適格性については事前に当局に照会し」ていたにもかかわらず」,「合理的な説明を行うことなしに,事前照会の結論を覆し」て更正処分を行ったという衝撃的なリリースを出してから,ほぼ2年が経過,ついに争いの舞台が東京裁判所に移されっるとのことです。

www.asahi.com

 事前照会制度とは,次のように説明されています。

国税庁では、事前照会に対する文書回答手続に関する事務運営指針に基づき、納税者の皆様の予測可能性の一層の向上に役立てていただくため、特定の納税者の個別事情に係る事前照会について、一定の要件に該当しない限り、文書による回答を行っています。

事前照会に対する文書回答手続|事前照会|国税庁

 今回の塩野義製薬株式会社の事前照会がどのような手続でなされたものか,文書による回答があったのか,国税局での相談にとどまるものかは不明ですが,「納税者の予測可能性を向上する」制度であるはずの事前照会の結論を覆したものであるとすれば(塩野義製薬株式会社の言い分を全面的に信じるとすれば),これは大いに問題があると言わざるをえないでしょう。

 今回,塩野義製薬株式会社が訴訟提起に踏み切ったことによって,法廷の場で,何かと使いづらいと評判の事前照会制度の在り方について議論が深まるようであれば,納税者とその代理人である税理士にとっては意義のあることではないかと期待します。

 ↓ 塩野義製薬株式会社のリリース

http://www.shionogi.co.jp/company/news/2016/qdv9fu0000010ntk-att/160902.pdf

 なお,毎日新聞の以下の記事も詳しいです。

http://mainichi.jp/articles/20160903/k00/00m/040/036000c