「コンプライアンス違反」倒産動向――東京商工リサーチ社が公開。

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 7日,東京商工リサーチ社が公開した2016年度「コンプライアンス違反」倒産動向では,件数ベースでは2年連続減少していることが明らかになりました。その理由として,同社では,

2016年度「コンプライアンス違反」倒産動向 : 東京商工リサーチ

 企業にコンプライアンス順守の意識が浸透していること

 全体の企業倒産が各種支援策に支えられて低水準をたどり,コンプライアンス違反が一因となった経営破綻が表面化しにくいこと

の2点を挙げています。

 記事を読みますと,法律違反や行政処分などを原因とする倒産が78件と最多で,次いで,脱税や滞納といった税金に関連する倒産が64件と,この二つの違反行為が全体の80%を占めているということです。

 また,業種別では,介護福祉業界の倒産が108件と調査開始以来最多を記録したとのことで,報酬の不正請求が発覚したことを原因に倒産に至った事例が紹介されています。

 

書籍 森信茂樹編著『税と社会保障でニッポンをどう再生するか』

  中央大学法科大学院の森信茂樹教授の論説+対談集。とくに「第1章アベノミクスと税・社会保障の現状」と題された論考は,実に多様な論点について,森信先生の考えが述べられていて,読み応えがありました。

税と社会保障でニッポンをどう再生するか

税と社会保障でニッポンをどう再生するか

 

  ただ,一点だけ,森信先生がその活用を強く提言しておられる「マイナンバー制度」については,確かに理想的に精度が運用できれば,森信先生が構想されているような使い方ができるのかもしれませんが,システムの整備や国民の習熟に,どのくらいの時間と費用がかかるのか,小職はかなり懐疑的に読まざるを得ませんでした。

 森信先生のマイナンバー活用法のその1は,「社会保障費の歳出削減」です。これは,マイナンバーの活用により,世帯ごとの金融資産の保有状況を把握することを可能にしたうえで,後期高齢者医療制度の窓口負担を原則3割,介護保険制度による負担を原則2割にしておいて,保有資産が一定額以下であることを証明できれば,負担を軽減するという考え方にようです。これを実現するためには,すべての金融機関の口座にマイナンバーが附番されることが前提となるが,いつになれば,そういう状態に到達するのか,現状,スケジュールは見えていません。附番が中途半端な状態で制度導入に踏み切れば,かえって不公平感を高める可能性もあるのではないと懸念します。

 マイナンバー活用法その2は,マイナンバー・ポータルを活用した自主申告制度の構築です。こちらに関しては,方向性としては,森信先生の主張通りだと思います。ただ,マイナポータルとe-Taxシステムの連携により,誰でも自主的に申告ができるようになれば,納税者意識は大きく高まるでしょう。実現したら,税理士のニーズも大幅に減少するかもしれません。ただ,森信先生が課題として挙げていらっしゃるように,現在の確定申告時期(翌年3月15日まで)を6月30日までに延長するなどのスケジュール調整が必要であり,どのようなセキュリティ対策が必要なのかを検討するだけでも,相当な年月がかかりそうです。

 最後に,森信先生が考える理想の税制について,本書288ページ以下の原則を引用させていただきます。

第1原則は,経済活動が生み出す「付加価値全体を網羅する広い課税ベース」を持つ税制であること。

第2原則は,「付加価値に対して一度だけ課税する」,つまり,二重課税,三重課税を避けるということである。

第3原則は,「所得格差は持って生まれた才能や運によるところが大きいので,累進税率を課して再分配する」ということである。

月刊税理4月号に寄稿しました(発売中です)。

  月刊税理4月号「法人税実務」のコーナーに,「年度末決算賞与支給の意思決定と税務上の留意点」と題した論考を寄稿させていただきました。お題はいつものとおり編集のご担当者からいただいたものですが,毎度のことながら,タイムリーな論点をお示しいただき,原稿をまとめながら,勉強させていただきました。

 賞与引当金が法人税の世界からなくなってもうすぐ20年近くなりますが,未払計上した決算賞与については,「債務確定基準」きわめて厳格に規定されており,一部には,これが租税法律主義に違反するのではないかという意見も出されていることなどを裁判所の判断を検証しながら,原稿をまとめました。

税理 2017年 04 月号 [雑誌]

税理 2017年 04 月号 [雑誌]

 

 春らしいピンク系の表紙にも,小職が担当した原稿のタイトルが印刷されています。 

 論考の中身については,ぜひ,掲載誌をご高覧いただきたいところですが,小職の掲載ページの直前には,中央大学の酒井克彦教授の原稿が掲載されており,尊敬する酒井先生の後を担当するという栄誉に浴して,身の引き締まる思いをしております。

 また,別冊として「社会福祉法人制度改革Q&A集」も付いており,こちらも,きちんと勉強しておかなくてはと思った次第です(いつも,必要に迫られないと手につかないもので)。

「公表裁決事例(平成28年7月~9月)」Profession Journal誌に寄稿しました。

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 先週23日,国税不服審判所が公表した裁決事例に関する速報解説記事をProfession Journal誌に寄稿しました。今回の公表裁決事例でも,「重加算税」の賦課決定処分に関する事例が二つあり,毎回のことですが,「重加算税」の要件に関して,国税不服審判所が強い関心を持っていることがうかがわれます。

 寄稿した記事でもとりあげましたが,筆者が個人的に非常に興味を持った事例は,住宅用建物の再転貸借契約が,「住宅の貸付け」として消費税法上「非課税取引」に該当するかどうかを争点とした裁決です。オーナーである納税者からすれば,建物購入時の消費税額等について仕入税額控除の適用を受けるためには,非課税取引となる「住宅の貸付け」ではなく,「住宅以外の建物の貸付け」としたいところです。

 そして,「居住用」に使用が制限されていないことの証拠として,転賃貸人との契約において「家賃保証」が規定されていることを挙げ,

請求人に対する賃貸人の賃料保証が設定されていることは,人が居住していないにもかかわらず賃貸料が支払われることを意味し,実際に居住する人の居住と賃料が対価関係にない

として,消費税法基本通達6-13-7の適用を受けない旨,主張しました。

 「だれも居住していない状態で家賃が保証されている期間」の賃料収入が,「住宅の貸付け」として非課税取引になるのかどうかは,個人的には,なかなか面白い論点であると考えるのですが,国税不服審判所は,この主張に対する反証はせず(公表されているのが「裁決書(抄)」ですから,全文が公表されていれば,この主張に対する反証もあるのかもしれません)に,転貸借契約の条項などから,「居住用」以外に使われていないとして,納税者の主張を棄却し,仕入税額控除を認めませんでした。

 この論点,もう少し追いかけてみたいと考えているところです。

平成28年7月〜9月分 | 公表裁決事例等の紹介 | 国税不服審判所

 

「会計不正調査報告書を読む」Profession Journal誌に寄稿しました。

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 昨年6月から7月にかけてのアスカ監査法人所属の公認会計士のみなさんは,たいへんな日々を送っていたのではないかと思われます。インターネット情報がどの程度性格なのかはわかりませんが,おそらくは20社程度と推測される上場会社のクライアントのうち,実に3社が,相次いで,調査委員会の設置を必要とする事態に陥っていたからです。株式会社メディビックグループが7月5日に第三者委員会の設置を公表。7月20日には,サイバーステップ株式会社とモジュレ株式会社が,何と同日に,調査委員会の設置を公表します。

 今日,Profession Journal誌上で公開されたのは,このうち,昨年11月に上場廃止となったモジュレ株式会社の第三者員会による「調査報告書(中間)」についての寄稿した記事です。(中間)とありますが,結果的には,調査期間中にもじょれ株式会社の上場廃止が決まってしまったこともあってか,「最終報告書」は公表されていません。

 報告書を読んでの率直な感想は,安易な粉飾決算をしなければ,上場廃止になることもなく,取締役・監査役の全員が退任する事態を出来することはなかったのではないかというものでした。孤立する創業社長をサポートする取締役や監査役,顧問弁護士などが,適切な対応を進言できていれば,少なくとも上場廃止になるような財務内容ではなかったはずです。

 東京商工リサーチ社の調査によれば,2016年の「不適切な会計・経理の開示企業」は過去最多の57社に達したそうです。4月から6月にかけては,3月末決算企業の会計監査の過程で多くの「不適切会計」が指摘され,調査委員会の設置が公表されるというのが例年の傾向ですが,さて,2017年はどうでしょうか。

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書籍 水島治郎『ポピュリズムとは何か――民主主義の敵か,改革の希望か』

  ちょうど,オランダの選挙で,ウィルデルス氏率いる自由党が注目を集めているときだったので,読んでみました。

 オランダ自由党の伸長ぶりは,本書第4章『リベラルゆえの「反イスラム」――環境・福祉先進国の葛藤』に詳しく説明されていますが,その特異な党運営――たとえば,自由党はウィルデルス氏のみが正式な党員であり,政党助成金ではなく,寄付によっていること――については,新聞やTVなどで伝えられることもなく,本書で初めて知りました。

 ポピュリズムに関する著者の知見には,感心させられるものが多いのですが,一番気になった部分を,あとがきから引用します。

21世紀の欧州のポピュリズムは,現代デモクラシーの依供するリベラルな価値,デモクラシーの原理を積極的に受け入れつつ,リベラルの守り手として,男女平等や政教分離に基づきイスラム移民を批判する。またデモクラシーの立場から,国民投票を通じ,移民排除やEU離脱を決すべきというロジックを展開する。現代のポピュリズムは,いわばデモクラシーの「内なる敵」として立ち現れている。その論理を批判することは容易なことではない。

 今回の選挙関連の報道では,トランプ大統領の登場がかえって,自由党議席増に歯止めをかけたという論調もあったようですが,オランダ新政権がどのような形でまとまっていくのか,気になるところです。

書籍 渡邊浩滋『「税理士」不要時代』

  なかなか刺激的なタイトルに惹かれて,読みました。著者は1978年生まれ。税理士業界では,完璧に「若手」の部類です。何しろ,税理士登録者のうち53.8%は60歳以上だというのですから(本書20ページ)。そんな新進気鋭の税理士が語る,「税理士不要時代を勝ち抜く方法」です。

「税理士」不要時代 (経営者新書)

「税理士」不要時代 (経営者新書)

 

  著者の結論を少し乱暴にまとめてしまうと,旧態依然とした税理士は「顧客を失う」しかなく,専門業種に特化して経営コンサルティングを行うことが,勝ち残る道である,というものです。

 前段部分については,多くの税理士も認めざるを得ないかと思います。他士業からの参入も含めた税理士の数の増加,価格破壊ともいえる顧問料の低価格化,クラウド会計の進化といった,著者がとりあげている税理士業界を取り巻く環境の変化は,私たちの働き方を否応なく変化させることは間違いありません。

 そうした流れの中,専門特化により税理士不要時代を勝ち抜くという著者の考えは,一つの選択肢としては確かに有効かもしれません。問題は,どういう業種に絞って専門特化していくのか,ということでしょう。また,ニッチな分野に特化すればするほど,専門性は増します。その専門性を生かしてチャンスは拡大するかもしれませんが,一方,背負うリスクも大きくなるでしょう。

 著者をはじめ,本書で成功事例としてとりあげられている若手税理士のみなさんは,事務所規模の拡大,顧問先件数の増加,事務所収入の増大といった指標を,「成功」「勝ち残り」ととらえているように思います。そうした価値観も,実は,「旧態依然」なのではないかというのが,読後の感想です。

 若くて野心に溢れた税理士が活躍してくれることは,業界の活性化やただ登録だけ維持しているような税理士の淘汰という点で,たいへん意味のあることだと思います。おおいに,活躍してください。

 ただ,小職は,あなたたちとは競争しない方法で,税理士不要時代を生き残っていけれいいなと,そう考えています。