「租税争訟レポート」Profession Journal誌に寄稿しました。

 隔月で寄稿させていただいている「租税争訟レポート」が,本日公開のProfession Journal誌最新号に掲載されました。今回は,所得税法第204条1項6号に指定されているホステスさんに支給する対価の額が,なぜ,最近の裁決や判決では,事業所得ではなく,給与所得と認定されているのかを検討しました。

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 連載第39回となる前回の記事でも,外注費として支払った対価が,給与認定された結果,源泉徴収すべき所得税について納税告知処分が課されるとともに,外注費として課税仕入れの額に算入していたことを否認された結果,消費税額等についても過少申告加算税や重加算税の賦課決定処分を受けている事案を紹介しましたが,今回も,問題点としては同じ流れの中にあります。

 ホステスさんが,独立して事業を営む「個人事業主」ではなく,経営者や店長の指揮命令下にある社員やアルバイトと同じであることから,支払われた報酬は事業所得ではなく給与所得であるという課税庁側の主張が認められている背景には,キャバクラやガールバーなどの風俗営業の新しい店舗形態が増えた結果,これまでの専業ホステスが減少し,副業としてのホステスやアルバイト感覚で風俗店で働く女性が大幅に増加したことにあるのではないかというのが,現時点での筆者の結論です。

「会計不正調査布告所を読む」Profession Journal誌に寄稿しました。

 スルガ銀行不正融資問題をめぐる調査報告書を読むシリーズも,第3回となりました。11月14日に公表された「取締役等責任調査委員会調査報告書」と「監査役責任調査委員会調査報告書」についての寄稿が,Profession Journal誌で公開されました。

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 取締役等責任調査報告書については,第三者委員会調査報告書の見解をほぼ踏襲する格好で,調査対象の現旧取締役及び元執行役員ののうち,現代表取締役及び社外取締役以外の全員について,シェアハウスローン問題に関する監視監督義務違反及び内部統制システム構築に関する善管注意義務違反を認めて,相当因果関係のある損害額を認定しました。

 一方,第三者委員会調査報告書で善管注意義務違反があるとされた常勤監査役2名については,監査役の責任判断の前提となる事実として,

(1) 審査の実質的な形骸化
(2) 融資関係書類等についての改ざん・偽装
(3) 取扱いを停止したチャネルとの迂回取引その他チャネル管理上の問題
(4) シェアハウスローンのリスク分析・対応の不備

の4項目を挙げて,スルガ銀行の実態からみて,常勤監査役については,「取締役の違法行為等の兆候を認識し、又は認識し得たとは認められないことから、監査役としての善管注意義務違反は認められない」という結論を導き出した格好になっています。

 新聞報道では,スルガ銀行は,被害にあったシェアハウスオーナーに対する貸付金の元本カット(最大70%)も視野に入れているということです。

 他にも類似の事案があったことを公表して特別調査員会による調査が進んでいる株式会社TATERUと同社が手がける不動産に関して融資を小なっているとされる西京銀行,子会社で住宅ローンに関して同様の不正があったことが第三者委員会の調査で判明した九州旅客鉄道株式会社(JR九州)など,不動産融資をめぐる不正が続発する中,先行しているスルガ銀行の被害者救済策,再発防止策は,今後も取り上げられることが多くなるに違いありません。

「会計不正調査報告書を読む」Profession Journal誌に寄稿しました。

 Profession Journal No.294が公開され,小職の寄稿した「会計不正調査報告書を読む」連載第79回,スルガ銀行三者委員会調査報告書の【後編】もお読みいただけるようになりました。【体裁上,どうしても前編】は報告書の引用中心となってしまったため,原稿をまとめている時点から,分析や周辺の情報をまとめた【後編】の方に力が入っていました。

 あた,公開日の少し前である12日の段階で,旧経営陣9人に対する損害賠償請求訴訟を提起したことが公表されたため,慌てて,最後に,当該リリースに関する記述を追記しています。

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「自己責任」と言われることが多い不動産投資ですが,【前編】公開時のブログにも書いてように,本来は被害に遭わなかったはずの投資家が,不動産業者の書類改竄や銀行員による黙認,銀行による融資審査の形骸化など,複数の不正が行われた結果,多額の負債と収益の上がらないシェアハウスを抱えてしまったわけですから,やはり,シェアハウスオーナーをどのように救済するかということを,スルガ銀行側は,もっと考えるべきではないのか(考えているのかもしれませんが,被害弁護団との協議を打ち切ってしまっているようでは,考えていないと言われても仕方ないでしょう)。

 12日のリリースに続いて,スルガ銀行は,取締役等責任調査委員会報告書と監査役責任調査報告書の全文を,昨日(11月14日)に公表しました。こちらの調査報告書についても,分析記事をProfession Journal誌に寄稿させていただく予定です。第三者委員会が,善管注意義務違反を認めた常勤監査役については,スルガ銀行は,損害賠償請求を行っていないようです。そのあたりの判断は,いかにして行われたのか。調査報告書の内容を検討して,明らかにできればと考えております。

 

「別冊税務弘報 AI・ITの進化と税務」が発売になります。

 中央経済社から,「別冊税務弘報 AI・ITの進化と税務」がまもなく発売になります。税務弘報2017年12月号の特集記事をベースに,新しい記事を加えて,1冊にまとめたものだということです。

 本誌の特集記事のときにはお声がかからなかった(苦笑)小職のもとにも,単行本化にあたって執筆依頼があり,『第2部因往推来「AIと税」』の中に,「e-taxの進化と確定申告」と題する小文を寄稿しました。 確か,原稿の締め切りが6月中旬くらいだったので,内容についてはほとんど記憶しておらず(無責任!),我ながら驚きました。

別冊税務弘報 AI・ITの進化と税務

別冊税務弘報 AI・ITの進化と税務

 

  まだ目次を読んだだけですが,座談会『AI時代の税理士の生き残る道を語ろう』など,読みごたえのありそうな記事が目につきます。ぜひ,この機会に,知識を蓄えたいと考えています。税務弘報本誌と異なり,判型もA5サイズと手ごろですので,持ち歩いて,移動時間中に目を通すことになりそうです。

 

「インボイスで税収増」読売新聞朝刊11月2日付紙面より。

 昨日の読売新聞朝刊1面の記事。インボイス制度が導入されたら,大企業はインボイスを発行できない免税事業者との取引を敬遠することになり,免税事業者が自ら課税事業者を選択するケースが増えるから,税収は2,000億円程度膨らむ見通しだということです。

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 記事では,2,000億円の増収根拠が書かれていないので,どれだけの免税事業者が課税事業者に転換する見通しであるかなどはわかりません。

 ただ,そもそもインボイス制度の導入は,課税事業者の消費税の納付税額計算にあたって,免税事業者からの仕入にも仕入税額控除の適用を認めてきた欠陥を是正するための措置であり,紙面でも,「税額計算が明確になる」「経理の透明性が高まる」と説明されています。

 消費税率が高くなるにつれて,消費税を納付する義務を負わない免税事業者の存在が税収に与える影響は看過できないものとなっているということでしょうが,消費税が導入されてから30年を過ぎているというのに,いまだに,零細事業者の事務負担軽減のためとして,免税事業者制度を維持してきた結果,約500万の事業者が消費税を納付する義務を負っていないという状況は,インボイス制度の導入で少しは改善するのでしょうか。

 

「会計不正調査報告書を読む」Profession Journal誌に寄稿しました。

 今回の記事が,スルガ銀行三者委員会報告書です。報告書自体が300ページ超ということもあって,前後編になってしまいまいました。前編は,事実関係を中心に,後編は,ネット上に流れている被害者の声なども取り上げつつ,まとめています。

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 報告書が公表されると,新聞各紙はこぞって特集を組んで,スルガ銀行の営業の過酷さやパワーハラスメントを指弾し,また,書類の改ざんなどの悪質性を報じてきましたが,シェアハウスオーナーが被った損害をどう救済するのか,という視点はあまりなかったように感じました。不動産投資はもちろん自己責任ですので,救済する必要はないという考えもあるかもしれません。しかし,本件では,融資申込書類の改ざんや偽造により,本来は,融資を受けられなかった人(=被害に遭う必要のなかった投資家)に融資がされてしまった結果,空室のシェアハウスと多額の負債が残ってしまった人も数多くいるようです。ましてや,スマートデイズによって物件価格が大幅に引き上げられていたという情報が事実なら,これは詐欺被害に等しいのではないかとも思えます。被害弁護団のサイトを読むと,当初,被害に遭ったシェアハウスオーナーの救済に前向きだったスルガ銀行が,第三者委員会調査報告書が公表されてからは,一転,被害弁護団との交渉を拒否しているようです。

 スルガ銀行三者委員会による300ページを超える報告書ですが,それだけのページを要しても,解明できていない点は少なくない気もしています。例えば,まったくスコーピングの対象外に置かれていた創業家ファミリー企業に対する融資の実態です。もちろん,不正融資問題とは何の関係もない,かもしれませんが,スルガ銀行の企業風土を問題視するのであれば,避けては通れなかったはずです。事実,金融庁による行政処分の中では問題点として挙がっています。

 あるいは,会計監査人は気づいていなかったのか。気づいていなかったとすれば,会計監査の手法に問題はなかったのか。

 後編は,11月15日公開予定です。

 

消費税免税事業制度(読売新聞10月28日朝刊記事より)

 昨日の読売新聞朝刊社会面に,「個人事業主 消費税高収入でも免除」と題された記事が掲載されました。

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 記事によれば,会計検査院の調べで,2016年までの3年間で,事業を承継した個人事業主が免税事業者となっているケースが,約210人,徴収されなかった消費税額が約2億2千万円に上ると推計したということです。ニュースソースが知りたくて会計検査院のサイトを検索しましたが,見つかりませんでした。

 そもそも,新規に事業を開始した者が,消費税の申告納付を免除される(=免税事業者)のは,「小規模零細事業者の事務負担を軽減する」ため,基準期間の課税売上高が1,000万円以下の事業者について,消費税の免税事業者として扱っているのと同様,基準期間が存在しない新規に事業を開始した者についても,納税事務が整備されていないという事情に配慮したものと考えられています。

 ところが,親族などから事業を承継した個人事業主にも,同様の免税制度が適用され続けてきたおり,記事によれば,「検査院は,事業は継続しており,本来の新規参入とは異なり納税事務を円滑に処理できるにもかかわらず,納税義務を免除することは制度の趣旨に沿わないと判断」したということです。

 この制度が不合理なことは,法人と個人を比較すれば,すぐに理解できると思います。つまり,法人であれば,社長が変わったところで,それまでの売上高をご破算にして免税事業者とならないという当然の取扱いが,先代の事業を引き継いだ場合には,先代の築いてきた経営基盤は一切無視して,まったく新規に事業を開始した者と同じ税務上の取扱いをするというのは,明らかに不合理でしょう。

 消費税の益税問題については,当ブログでも取り上げさせていただきましたが,消費税率が2019年10月から10%に引き上げられることが確定的と伝えられる中,さらに問題は大きくなってくるのではないでしょうか。

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