株式会社郷鉄工所,倒産(東京商工リサーチより)

 9月11日をもって上場廃止となることが決まっていた東証名証2部上場の株式会社郷鉄工所が2回の不渡りを出して,銀行取引停止処分になったようです。

 郷鉄工所といえば,第三者委員会を設置するための費用が捻出できないとか,第1次調査の範囲を限定しすぎたため,監査意見が出ないので,追加調査を行うとか,追加調査のための費用を借入金で賄うなどといった,リリースが毎日のように出されていて,結局は有価証券報告書を提出できないために上場廃止となったという経緯をたどっていたのですが,やはり相当に資金繰りはきつかったようです。

 もっとも,会社側の見解は少し違います。

http://www.gohiron.co.jp/statement/up_img/1504250727-059872.pdf

 上記のリリースによれば,

本手形は今後の借入を目的として振出先に預けておりました手形であり,本手形を担保とした借入は実行されていないことから,取立に持ち込まないよう交渉しておりましたが、残念ながら不渡りという状況になりました。

ということで,本来は,不渡りになるはずのない約束手形であったようです。郷鉄工所と債権者の間でどのような交渉が進められていたのかはわかりませんので,リリースの内容が正しいかどうかは判断できません。

 東京商工リサーチの記事では,まだ営業は継続中ということであり,今後,スポンサー企業が現れるなどして,再生への道を進むのか,このまま破綻処理へと移行するのか,粉飾決算企業のその後ということで,注目しています。

「会計不正事件における当事者の損害賠償責任」【連載第6回】をProfession Journal誌に寄稿しました。

  毎週木曜日は,web情報誌Profession Journalの刊行日です。このところ隔週で連載を続けさせていただいた「(判決から見た)会計不正事件における当事者の損害賠償責任」は,第6回となる今週が最終回。これまで判決の検証を中心に論考を続けてきた損害賠償責任に問われないためのコーポレートガバナンスについて,社外取締役・社外監査役の立場から,考えてみました。

 本稿は大きく3つのパートからなります。

 コーポレートガバナンス・コードなどが要請している社外取締役・社外監査役の積極的な活用とその期待ギャップ。会計監査人を交代させない・交代させられない,わが国も上場会社の状況。そして,日本銀行が提言している「金融機関のガバナンス改革:論点整理」についての検討です。

 日本銀行による「論点整理」は以下のアドレスから読むことができます。

https://www.boj.or.jp/announcements/release_2017/data/rel170724b1.pdf

 筆者にとって,日本独自の監査役制度を一部否定するかのような,「金融機関のガバナンス改革:論点整理」の内容は衝撃でした。いわゆる3ライン・ディフェンスにおける,内部監査部門の位置づけは,日本企業では社長ないし取締役会直轄というのが当たり前のように論じられてきましたが,「論点整理」では,これを「誤った3線モデル」と批判しています。そのうえで,「正しい3線モデル」として,社外取締役が中心となる監査委員会の指揮命令下に内部監査部門を置くべきであるとしています。

 現在のところ,こうした主張に対して,公益社団法人日本監査役協会は表立った反論等をしていないようですが,今後の論争の行方が注目されます。

【書籍】木山泰嗣『教養としての「税法」入門』

  いつの間にか青山学院大学の教授になられていた木山泰嗣先生による入門書を読みました。もちろん,入門書なので,新しい知識を得ることができたというわけではないのですが,面倒な税法理論を,平易な言葉で解説する木山先生の文章はたいへん読みやすく,興味深いものでした。

教養としての「税法」入門

教養としての「税法」入門

 

  やはりタイトルがいいですね。

 「教養としての」というのは,社会人としてこのくらいのことは知っておかなくてはいけないという含意ではないかと思うのですが,内容については,そのレベルを超えていると思います。唯一気になったのは,法律の条文を注書きで掲載しているのですが,ここまでいるのかな,と。ちょっと注書きが多すぎて,かえって読みづらい気がしました。

経理責任者による不正――光彩工芸社

  JASDAQ上場の貴金属アクセサリーの製造販売会社株式会社光彩工芸は,8月18日,「当社経理部門責任者の不正行為に関するお知らせ」 を公表しました。

決算短信及び開示書類 - 株式会社 光彩工芸

 リリースによると,発覚の発端は「東京国税局の調査」ということのようです。なかなか発覚しづらい経理部門責任者単独による不正は,税務調査を契機として発覚することが多いのですが,本件も,監査等委員である取締役や会計監査人の目はごまかせても,国税調査官には見抜かれたということのようです。

 不正は,平成26年ころから開始され,被害金額は約230百万円ということのようです。光彩工芸社の過去の決算状況を拝見すると,不正が行われていたらしい平成27年1月期,平成28年1月期ともに赤字決算となっています。赤字決算の理由が,経理部門責任者の不正にあるかどうかは判然としませんが,とくに平成27年1月期は増収減益決算で,なおかつ赤字となっているわけですから,会計監査で不正の兆候は発見できなかったのかなと思うところです。

 過大な材料費た棚卸高の計上により,不正に金員を支出していたということですので,過年度決算の修正にあたっては,経理部門責任者に対する損害賠償請求権の計上(収益の計上)に伴い,赤字決算から黒字決算に転換する可能性もあるかもしれません。そうすると,法人税や消費税についても,重加算税の賦課決定処分を含む厳しい処分が待ち構えていることになります。

 不正に支出された金員は不動産投資に回されていたので,相当程度,損失の回復が可能であるということですが,失った信用の回復は簡単ではないと思われます。3人の社外取締役からなる監査等委員である取締役は全員が弁護士で,かつ,そのうち1人は公認会計士でもあります。経理部門責任者に権限が集中していることに対するリスク認識は,どういうものだったのでしょうか。

「会計不正事件における当事者の損害賠償責任」【連載第5回】をProfession Journal誌に寄稿しました。

 web情報誌Profession Journalに隔週で連載中の「会計不正事件における当事者の損害賠償責任」第5回は,「引受証券会社の損害賠償責任」について,エフオーアイ事件第1審判決(東京地方裁判所平成28年12月20日判決)を引用しながら,検討しました。本判決は,有価証券報告書虚偽記載による損害賠償請求事件で,初めて証券会社の責任を認めたものとして大いに話題になりましたが,裁判所の判断は,引受証券会社のみならず,監査役や内部監査部門に所属する者,不正調査を行う者が広く一般に心がけておかなければならない「懐疑心」についての示唆に富むものであったと考えます。

 たとえば,本事件では,粉飾決算をしているという内容の匿名の投書が,2回届きます。引受証券会社は,1回目の投書に基づき,追加で審査を行いましたが,残念ながら,その調査に際して原本確認を行わず,また,取引先への照会(税務調査で言うところの反面調査)も行わないまま,投書の内容を否定しました。そして,2回目の投書が届いた際にも,内容が1回目のものと同じであるとして,追加の調査を行うことなしに,スケジュールどおりに上場させてしまいます。

 裁判所は,引受審査がより厳格なものであれば,1回目の投書の時点で粉飾決算が行われていたことがわかっていた可能性が高いとして,引受証券会社の責任を認めました。匿名の内部通報を,「社内の一部不満分子」による誹謗中傷であると片づけようとした会社側の説明を,半ば鵜呑みにして表面的な追加調査しか行わなかった引受証券会社の責任が問われるのはやむを得ないところでしょう。

 本稿は,1万文字を超える原稿となってしまい,紙媒体の雑誌等では当然大幅な文章の削除を要請されるところだったかと思いますが,さすがweb情報誌,そうした制限は一切なく,おかげで,判決文の引用を多くとりいれることができました。Profession Journal誌の刊行当時は,2,000字から3,000字くらいでまとめるように言われていたのですが,最近は,6,000字から8,000字が常態となってしまっております。とくに編集部から「文字数を減らすように」と言われないことをいいことに,今回は,とうとう大台を超えてしまいました。

 連載の最終回となる第6回は,これまでとりあげてきた判決をもとに,社外取締役・社外監査役とコーポレート・ガバンスについて,最近の動向を見ながら,検討を深めていく予定です。

「租税回避の定義」変更――金子宏『租税法(第22版)』

  先週,東京税理士会の「法律講座Ⅱ」を受講していると,講師の酒井克彦教授から,今年の『租税法』では,租税回避の定義変更が行われていて,これまでの,金子名誉教授の定義が変わっていることが示唆されました。

租税法〈第22版〉 (法律学講座双書)

租税法〈第22版〉 (法律学講座双書)

 

  『租税法』は,何か文章を書いたり,講義資料を作ったりする際に,いわば辞書代わりに,金子名誉教授の見解を確認しするとか,関連した判決を探すために使っているので,第22版も買ってはいるのですが,恥ずかしながら,ろくに読んでいません。

 そこで,さっそく,第22版を開いてみたところ,126ページに新しい定義がありました。引用します。

租税法の定める課税要件は,各種の経済的取引ないし私的経済活動を定型化したものであるが,私的自治の原則ないし契約自由の原則の支配している私法の世界では,人は,一定の経済的目的ないし成果を達成しようとする場合に,強行規定に反しない限り自己に最も有利になるように,法的形成を行うことができる。租税回避とは,このような,司法上の経営可能性を異常又は変則的な(「不自然」という言葉は,主観的判断の幅が広く,不明確度が大きいため,避けておきたい)態様で利用すること(濫用)によって,税負担の軽減または排除を図る行為のことである。
租税回避には2つの類型がある。1つには,合理的または正当な理由がないのに,通常用いられない法形式を選択することによって,通常用いられる法形式に対応する税負担の軽減または排除を図る行為である。(中略)
もう1つは,租税減免規程の趣旨・目的に反するにもかかわらず,司法上の形成可能性を利用して,自己の取引をそれを充足するように仕組み,もって税負担の軽減または排除を図る行為である。

 なるほど,類型が加えられ,大きく変わっているのがわかります。これは,りそな銀行事件のような,「制度の濫用」も租税回避であることを明示した改定のように思えますが,念のため,旧来の定義も引用しておきます。

租税法の定める課税要件は,各種の私的経済活動ないし経済現象を定型化したものであり,これらの活動ないし現象は第一次的には私法の規律するところであるが,私的自治の原則ないし契約自由の原則の支配する私法の世界においては,当事者は,一定の経済的目的を達成しあるいは経済的成果を実現しようとする場合に,どのような法形式を用いるかについて選択の余地を有することが少なくない。このような私法上の選択可能性を利用し,私的経済取引プロパーの見地からは合理的理由がないのに,通常用いられない法形式を選択することによって,結果的には意図した経済的目的ないし経済的成果を実現しながら,通常用いられる法形式に対応する課税要件の充足を免れ,もって税負担を減少させあるいは排除することを,租税回避という。

 個人的には。「私的経済的取引プロパー」という用語は,必ず説明を必要とするため,新しい方がわかりやすいかとも思います。これまで,さんざん引用しておいて,こんなことを言うのもなんですが……。

 本論とはまったく無関係ですが,酒井克彦教授はいつ眠っているんでしょうか?

「会計不正調査報告書を読む」Profession Journal誌に寄稿しました。

 Profession Journal誌で連載中の「会計不正調査報告書を読む」連載第61回は,富士フイルムホールディングス株式会社第三者委員会調査報告書をとりあげました。何しろ,長い報告書で,細部にわたって事実認定がなされ,まとめるのがたいへんでした(調査に当たられた弁護士,公認会計士のみなさんはもっとたいへんだったろうと思いますが)。

 調査報告書の読後の印象としては,2012年に発覚した沖電気工業のスペイン現地法人の不正事案に非常によく似ているなというもでした。グループ内では評判のやり手社長で,好業績に伴い,グループ内での地位も上がり,ますます,不正が拡大してしまう。不正の端緒をつかんだ海外の管理会社の担当は,いつの間にか,転職をしてしまう。親会社に対する隠蔽工作。長引く調査……。

 今回の調査報告書で興味深く読んだのは,親会社である富士フィルムHDに詳細を報告したくない副社長・専務と,事実を明らかにするよう迫る社長との間で揺れる,内部監査部門と経理部門の担当者の心情でした。結局,副社長の方が押し切ってしまうのですが,どうして社長に対し,副社長・専務の対応について報告をしなかったのか,報告書には書かれていませんが,気になったところです。

 本稿で連載第61回となった「会計不正調査報告書を読む」ですが,記録を調べてみると,連載第1回は,先ほど言及した沖電気工業の事案でした。公開日は,2012年10月25日で,創刊準備2号への掲載でした。懐かしいですね。今読み返すと,お恥ずかしい限りですが,連載を続けさせていただいているProfession Journal編集部に,あらためて感謝したいと思います。