「租税回避の定義」変更――金子宏『租税法(第22版)』

  先週,東京税理士会の「法律講座Ⅱ」を受講していると,講師の酒井克彦教授から,今年の『租税法』では,租税回避の定義変更が行われていて,これまでの,金子名誉教授の定義が変わっていることが示唆されました。

租税法〈第22版〉 (法律学講座双書)

租税法〈第22版〉 (法律学講座双書)

 

  『租税法』は,何か文章を書いたり,講義資料を作ったりする際に,いわば辞書代わりに,金子名誉教授の見解を確認しするとか,関連した判決を探すために使っているので,第22版も買ってはいるのですが,恥ずかしながら,ろくに読んでいません。

 そこで,さっそく,第22版を開いてみたところ,126ページに新しい定義がありました。引用します。

租税法の定める課税要件は,各種の経済的取引ないし私的経済活動を定型化したものであるが,私的自治の原則ないし契約自由の原則の支配している私法の世界では,人は,一定の経済的目的ないし成果を達成しようとする場合に,強行規定に反しない限り自己に最も有利になるように,法的形成を行うことができる。租税回避とは,このような,司法上の経営可能性を異常又は変則的な(「不自然」という言葉は,主観的判断の幅が広く,不明確度が大きいため,避けておきたい)態様で利用すること(濫用)によって,税負担の軽減または排除を図る行為のことである。
租税回避には2つの類型がある。1つには,合理的または正当な理由がないのに,通常用いられない法形式を選択することによって,通常用いられる法形式に対応する税負担の軽減または排除を図る行為である。(中略)
もう1つは,租税減免規程の趣旨・目的に反するにもかかわらず,司法上の形成可能性を利用して,自己の取引をそれを充足するように仕組み,もって税負担の軽減または排除を図る行為である。

 なるほど,類型が加えられ,大きく変わっているのがわかります。これは,りそな銀行事件のような,「制度の濫用」も租税回避であることを明示した改定のように思えますが,念のため,旧来の定義も引用しておきます。

租税法の定める課税要件は,各種の私的経済活動ないし経済現象を定型化したものであり,これらの活動ないし現象は第一次的には私法の規律するところであるが,私的自治の原則ないし契約自由の原則の支配する私法の世界においては,当事者は,一定の経済的目的を達成しあるいは経済的成果を実現しようとする場合に,どのような法形式を用いるかについて選択の余地を有することが少なくない。このような私法上の選択可能性を利用し,私的経済取引プロパーの見地からは合理的理由がないのに,通常用いられない法形式を選択することによって,結果的には意図した経済的目的ないし経済的成果を実現しながら,通常用いられる法形式に対応する課税要件の充足を免れ,もって税負担を減少させあるいは排除することを,租税回避という。

 個人的には。「私的経済的取引プロパー」という用語は,必ず説明を必要とするため,新しい方がわかりやすいかとも思います。これまで,さんざん引用しておいて,こんなことを言うのもなんですが……。

 本論とはまったく無関係ですが,酒井克彦教授はいつ眠っているんでしょうか?