証券取引等監視員会「開示検査事例集」について解説記事を寄稿しました。

 プロフェッションジャーナル編集部からご依頼をいただき,証券取引等監視委員会が9月18日に公開した「開示検査事例集」について,解説記事を寄稿しました。昨年から,それまでの「金融商品取引法における課徴金事例集~開示規制違反編~」の名称を変更して,「課徴金納付命令勧告を行った事例だけでなく、さまざまな事例を積極的にご紹介することとした」事例集であり,今後は,どうやら,毎年公開されることになりそうな感じです(明言されているわけではありませんが)。

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 事例集では,平成29事務年度における3件の課徴金納付命令勧告事例について,それぞれについて,事例の概要,有価証券報告書等の虚偽記載に至った原因分析,再発防止策などが説明されてます。

 第三者委員会等による調査報告書とは少し違った切り口で解説されている事例もあり,新規に追加された事例だけでも読んでおく価値はあろうかと思います。

「開示検査事例集」の公表について:証券取引等監視委員会

 

 

日本公認不正検査士協会セミナー「元監査役,会社による監査妨害と裁判闘争の実体験を語る」のご案内

 当ブログでも,過去にとりあげました(監査役の覚悟)の主人公でもある古川孝宏さんが,日本公認不正検査士協会(ACFE JAPAN)主催のセミナーに登壇されることが決まりました。題して,「元監査役,会社による監査妨害と裁判闘争の実体験を語る」。開催日時は,2018 年 11 月 13 日(火) 13:30~16:30です。

元監査役、会社による監査妨害と裁判闘争の実体験を語る

 トライアイズ社元監査役として,心ならずも会社を訴えることとなり,謝罪広告を勝ち取った古川さんの奮闘ぶりを,ぜひ,お聞きいただければと存じます。

 講義内容を上記の開催案内から転載します。
1.T社事件の経緯
 ・監査役としての行動と会社による監査妨害
2.T社事件に関する裁判の経緯
 ・6 つの裁判とその経緯
 ・弁護士との問題
3.監査役制度・会社法・司法を巡る論点
 ・実体験をふまえた現行の制度に対する疑問と提言
4.監査役や組織統治を巡る私の想い
 ・闘いの渦中やすべてを終えたときの率直な想い

 

 なお,時間の都合でセミナーの受講が難しい方は,ぜひ,『監査役の覚悟』をお読みいただければと存じます。

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「会計不正調査布告所を読む」Profession Journal誌に寄稿しました。

 毎月連載させていただいているProfession Journal誌の最新号が公開されました。今月とりあげた調査報告書は,ジャスダック上場の室内装飾品の製造販売会社五洋インテックス株式会社の第三者委員会調査報告書です。

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 もともとは,カーテンを主力商品とする五洋インテックス社が,それ以外の分野へと事業を多角化するにあたって,手っ取り早く,「既存の商流の中に入る」という手法を選択したことが問題だったわけですが,その結果,過年度の有価証券報告書の訂正とそれに伴う,証券取引等監視委員会による課徴金納付命令の勧告,東京証券取引所による公表措置及び改善報告書の徴求など,実に厳しい処分を受けることとなってしまいました。そのうえ,新規ビジネスの責任者でもあった取締役まで辞任することとなりました。何が,悪かったのでしょうか。

 第三者委員会は,(1) 企業風土,(2) 権限分離体制,(3) 人員不足,(4) 不十分な業務処理体制といった問題点を指摘して,再発防止策を提言していますが,そもそも,新規事業分野へ進出を決めたことや,そのために取締役を社外から招聘したことについては,とくにコメントはありません。カーテンの製造販売という本業部門の業績が伸び悩む中,事業の多角化を図るという経営陣の判断に瑕疵があったと断定するのは難しいかと思いますが,本業とのシナジー効果が見込まれる分野であるとか,本業での経験や人脈が生きるような分野の進出ではなく,太陽光パネルの販売や,結果的には詐欺被害に遭ってしまったタブレット端末の販売など,まったく経験も知識もない異業種への参入を,どのような意思決定過程によって決めたのか,監査役会は,そうした意思決定れに異論を唱えなかったのか,もう少し突っ込んだ分析があればと感じました。

「会計不正調査布告所を読む」Profession Journal誌に寄稿しました。

 ほぼ月に一度連載をしている「会計不正調査報告書」の第75回記事が掲載された,Profession Journal誌が公開されました。

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 今回とりあげた会計不正は,釣り専門チャンネルとして根強い人気を誇る「釣りビジョン」が巻き込まれた架空取引です。10年以上にわたって繰り返された,総額120億円もの架空取引に気づかないまま,書類だけの操作で売上計上を行っていたというのはいささか驚きですが,第三者委員会による調査結果でも,代表取締役社長以下の経営陣は,取引に不審な点があるという疑念こそ持っていたものの,架空取引を行っていた社の代理人弁護士から書状が届くまでは,知らなかったということで結着したようです。

 本件の手口は極めて単純なものでしたが,背後に大手企業が控えていること,債権の回収に遅滞がなかったことなどから,なるべく疑問を持たないように心がけて,売上高の40%を超える取引を継続したというあたり真相でしょうか。

 2018年も,調査委員会の設置件数は高い水準で推移しており,第三者委員会ドットコムのサイトで数えてみたところ,8月10日までで,すでに40社が社内または社外の調査委員会を設置しているようです。興味深い事案も散見されますので,次月以降,寄稿させていただければと思っております。

「租税争訟レポート」Profession Journal誌に寄稿しました。

 隔月で連載させていただいている「租税争訟レポート」連載第38回が,本日,公開されました。今回は,すっかり懐かしくなってしまった感のあるメルシャン社水産事業部による架空循環取引に伴って,日南税務署から重加算税の賦課決定処分等を受けた社が,処分の取消しを求めた裁判の第1審判決をとりあげました。

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 原告は,メルシャン社が有していた原告に対する売掛債権の回収を偽装するために,メルシャン社が行った架空循環取引に加担して,実態のないカンパチの販売取引による入金を受けて,これをそのままメルシャン社に支払います。ところが,そのままではカンパチの帳簿上の在庫がなくなってしまうことから,架空の仕入を計上して帳尻を合わせます。その仕入計上が,「隠ぺい又は仮装」に当たるとして,青色申告承認の取消処分,重加算税の賦課決定処分などを受けました。原告は,本取引では架空のものではなく,正常取引と認識しているとして争いましたが,宮崎地方裁判所は原告の訴えを棄却(納税者敗訴)しました。

 本稿をまとめるにあたり,7年ぶりくらいで,メルシャン社の社内調査委員会報告書を読み返しました。同報告書上では,原告は「E養殖」として表記され,メルシャン社が仕組んだ架空循環取引の環の中に入っていることは明らかです。

 また,税務調査の段階でも,架空取引であることを認めた供述をしているということで,それを訴訟段階になって覆しても,やはり裁判所は「(原告の供述を)採用することはできない」と評価しました。

 それにしても,事件が発覚した平成22年5月,日南税務署長が青色申告承認の取消処分を行ったのが平成24年4月,不服申立,審査請求を経て,平成26年1月に訴訟提起,平成28年11月第1審判決と,税務争訟というのは時間がかかるものだと実感しました。

ACFEカンファレンス2018の募集が始まりました。

 一般社団法人日本公認不正検査士協会ACFE JAPANの最大のイベントであるカンファレンス内容が公開され,参加者の募集が始まっています(筆者は初日に申し込みました)。

 今年は10月5日(金)の開催です。

2018年10月5日 第9回 ACFE JAPAN カンファレンス 開催概要

 開催概要を見ると,午前10時から午後6時まで,まるまる一日,盛りだくさんな内容が予定されています。

 午前は,ブロックチェーンに関する講演で,麗澤大学経済学部の中島真志教授が,「ブロックチェーン技術の将来性」をテーマに、その後,日本銀行の山岡正巳決済機構局長が,「ブロックチェーン技術の活用と企業・金融・市場にもたらす変化」をテーマに,それぞれお話しされるということで,筆者がいまいち理解できていない,ブロックチェーンフィンテックについて,最新の知見をお聴きできるのではないかと期待しております。 

 そして,何より楽しみにしておりますのは,午後,大王製紙元会長の井川意高氏がご登壇されることです。これを書いている今日にも,カジノ法案が成立しそうな勢いですが,カジノですべてを失ったご経験者が,どのようなお話をされるのか,現在はどのようなご心境なのか,カジノ法案についてどう考えているか,お聴きしたいことが山積です。お話を引き出されるのは,ACFEではおなじみの青山学院大学の八田名誉教授。そこに,『政経電論』編集長の佐藤尊徳氏が加わるということで,どのような展開になるのか,たいへん楽しみにしております。

 年に一度,全国の公認不正検査士CFEが一堂に会する機会,CFEのみなさんは業務の都合させ合えば参加されるのは当然としまして,CFE資格に興味をお持ちの方もぜひ,会場に足をお運びいただき,CFEの世界に触れてみていただきたいと思います。

 まる一日さまざまな刺激を受けた後の脳に,懇親会での冷えたビールは非常に心地良く響くこと請け合いです。

 10月5日,御茶ノ水でお会いしましょう。

書籍『東芝事件総決算――会計と監査から解明する不正の実相』

 公認会計士の大御所,久保惠一先生による『東芝事件総決算』を読みました。 350ページに及ぶ大著で,実に読み応えがありました。もちろん,「今だからそう分析できるのでは?」と思われる記述もありましたが,私の見解とは異なる点も多く,たいへん参考になりました。

東芝事件総決算 会計と監査から解明する不正の実相

東芝事件総決算 会計と監査から解明する不正の実相

 

  たとえば,東芝の第三者委員会は,ウェスチングハウスののれんの減損問題を調査対象としていませんが,久保先生の分析によれば,たとえ調査対象にしていたとしても,「監査法人の判断を尊重して問題としない」という結論になったということです。その理由としては,次の2点を挙げています(12ページ)。

SESCは,第三者委員会の調査範囲の決定を監視していたはずなので,ウェスチングハウスののれんの減損に問題がありそうであれば,調査範囲に加えるように東芝に指示したであろうこと

金融庁は,新日本監査法人の処分に当たって,のれんの減損問題を検討したはずだが,処分文書にはのれんの減損問題について触れられていないこと

 なるほど。第三者委員会の調査範囲を東芝が決めるなんてとんでもないことだ,なぜ,のれんの減損が調査範囲から除外されているのかと,表層的な批判をするのに止まらず,結果的に,調査をしたとしても問題にはならなかったのではないかという指摘は,初めて目にした気がします。

 他にも,PwCあらた監査法人による「限定付き適正意見」の表明や東京証券取引所による「上場維持」の判断などの,トピックについて,明快な分析が提示されています。

 東芝事件に関する著作はいくつも読ませていただきましたが,「総決算」を自称するだけのことはありました。