「租税争訟レポート」Profession Journal誌に寄稿しました。

 隔月で連載させていただいている「租税争訟レポート」連載第38回が,本日,公開されました。今回は,すっかり懐かしくなってしまった感のあるメルシャン社水産事業部による架空循環取引に伴って,日南税務署から重加算税の賦課決定処分等を受けた社が,処分の取消しを求めた裁判の第1審判決をとりあげました。

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 原告は,メルシャン社が有していた原告に対する売掛債権の回収を偽装するために,メルシャン社が行った架空循環取引に加担して,実態のないカンパチの販売取引による入金を受けて,これをそのままメルシャン社に支払います。ところが,そのままではカンパチの帳簿上の在庫がなくなってしまうことから,架空の仕入を計上して帳尻を合わせます。その仕入計上が,「隠ぺい又は仮装」に当たるとして,青色申告承認の取消処分,重加算税の賦課決定処分などを受けました。原告は,本取引では架空のものではなく,正常取引と認識しているとして争いましたが,宮崎地方裁判所は原告の訴えを棄却(納税者敗訴)しました。

 本稿をまとめるにあたり,7年ぶりくらいで,メルシャン社の社内調査委員会報告書を読み返しました。同報告書上では,原告は「E養殖」として表記され,メルシャン社が仕組んだ架空循環取引の環の中に入っていることは明らかです。

 また,税務調査の段階でも,架空取引であることを認めた供述をしているということで,それを訴訟段階になって覆しても,やはり裁判所は「(原告の供述を)採用することはできない」と評価しました。

 それにしても,事件が発覚した平成22年5月,日南税務署長が青色申告承認の取消処分を行ったのが平成24年4月,不服申立,審査請求を経て,平成26年1月に訴訟提起,平成28年11月第1審判決と,税務争訟というのは時間がかかるものだと実感しました。