「会計不正調査報告書を読む」Profession Journal誌に寄稿しました。

 今回の記事が,スルガ銀行三者委員会報告書です。報告書自体が300ページ超ということもあって,前後編になってしまいまいました。前編は,事実関係を中心に,後編は,ネット上に流れている被害者の声なども取り上げつつ,まとめています。

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 報告書が公表されると,新聞各紙はこぞって特集を組んで,スルガ銀行の営業の過酷さやパワーハラスメントを指弾し,また,書類の改ざんなどの悪質性を報じてきましたが,シェアハウスオーナーが被った損害をどう救済するのか,という視点はあまりなかったように感じました。不動産投資はもちろん自己責任ですので,救済する必要はないという考えもあるかもしれません。しかし,本件では,融資申込書類の改ざんや偽造により,本来は,融資を受けられなかった人(=被害に遭う必要のなかった投資家)に融資がされてしまった結果,空室のシェアハウスと多額の負債が残ってしまった人も数多くいるようです。ましてや,スマートデイズによって物件価格が大幅に引き上げられていたという情報が事実なら,これは詐欺被害に等しいのではないかとも思えます。被害弁護団のサイトを読むと,当初,被害に遭ったシェアハウスオーナーの救済に前向きだったスルガ銀行が,第三者委員会調査報告書が公表されてからは,一転,被害弁護団との交渉を拒否しているようです。

 スルガ銀行三者委員会による300ページを超える報告書ですが,それだけのページを要しても,解明できていない点は少なくない気もしています。例えば,まったくスコーピングの対象外に置かれていた創業家ファミリー企業に対する融資の実態です。もちろん,不正融資問題とは何の関係もない,かもしれませんが,スルガ銀行の企業風土を問題視するのであれば,避けては通れなかったはずです。事実,金融庁による行政処分の中では問題点として挙がっています。

 あるいは,会計監査人は気づいていなかったのか。気づいていなかったとすれば,会計監査の手法に問題はなかったのか。

 後編は,11月15日公開予定です。

 

消費税免税事業制度(読売新聞10月28日朝刊記事より)

 昨日の読売新聞朝刊社会面に,「個人事業主 消費税高収入でも免除」と題された記事が掲載されました。

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 記事によれば,会計検査院の調べで,2016年までの3年間で,事業を承継した個人事業主が免税事業者となっているケースが,約210人,徴収されなかった消費税額が約2億2千万円に上ると推計したということです。ニュースソースが知りたくて会計検査院のサイトを検索しましたが,見つかりませんでした。

 そもそも,新規に事業を開始した者が,消費税の申告納付を免除される(=免税事業者)のは,「小規模零細事業者の事務負担を軽減する」ため,基準期間の課税売上高が1,000万円以下の事業者について,消費税の免税事業者として扱っているのと同様,基準期間が存在しない新規に事業を開始した者についても,納税事務が整備されていないという事情に配慮したものと考えられています。

 ところが,親族などから事業を承継した個人事業主にも,同様の免税制度が適用され続けてきたおり,記事によれば,「検査院は,事業は継続しており,本来の新規参入とは異なり納税事務を円滑に処理できるにもかかわらず,納税義務を免除することは制度の趣旨に沿わないと判断」したということです。

 この制度が不合理なことは,法人と個人を比較すれば,すぐに理解できると思います。つまり,法人であれば,社長が変わったところで,それまでの売上高をご破算にして免税事業者とならないという当然の取扱いが,先代の事業を引き継いだ場合には,先代の築いてきた経営基盤は一切無視して,まったく新規に事業を開始した者と同じ税務上の取扱いをするというのは,明らかに不合理でしょう。

 消費税の益税問題については,当ブログでも取り上げさせていただきましたが,消費税率が2019年10月から10%に引き上げられることが確定的と伝えられる中,さらに問題は大きくなってくるのではないでしょうか。

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ACFEカンファレンス2018の模様が公開されました。

 去る10月5日(金)御茶ノ水のソラシティで開催されたACFE JAPAN CONFERENCE 2018の模様が,ACFE JAPANのウェブサイトで公開されました。

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 当日は,朝9時30分から,懇親会の終わる19時20分まで,実に内容の濃い一日となりました。多くのCFEの一堂に会し,登壇者は,ブロックチェーンの最新事情の解説から,まだ記憶に新しい,巨額の特別背任で服役した大王製紙元会長を交えた鼎談まで,幅広く,充実したものでした。おまけに,いつもは「昼食難民」になりがちな受講者の利便性を考えて,お弁当を供したのは,たいへん良い判断だったと思います。

 すべての話題が印象に残り,刺激を受けたのですが,やはり,大王製紙株式会社元会長の井川意高氏のお話が,斬新でした。氏が登壇するという話を最初に聞いたとき,よく受諾したなぁと思いましたが,「実刑判決を受けたからこそ,みなさんの前に出ることができる」という発言や,カジノで100億円を超える多額の負けを喫したことをとくに悪いと感じていないような物言いを\聞き,それがいいか悪いかは別として,常人とは考え方が違うんだなと,ある意味,納得してしまった次第です。

 何より,いつも舌鋒鋭くインタビューを行う青山学院大学の八田進二名誉教授が,どうも攻めあぐねているような質問ぶりが,井川さんのスケールを感じさせました。

 さて,第10回の開催となる2019年のカンファレンスでは,どのような内容になるのか。それまでにどんな事件が起き,どんな話題が提供されるのか,楽しみです。

「会計不正調査布告所を読む」Profession Journal誌に寄稿しました。

 web情報誌Profession Jornalで連載させていただいている「会計不正調査報告書を読む」連載第77回が公開されました。

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 今月の事例は,株式会社アクトコール第三者委員会調査報告書です。

 東証マザーズ上場直後の取引から,グループ内取引ではないかという疑義を持った会計監査人が,調査の必要性を指摘したことがきっかけでした。第三者委員会の調査により,疑義を持たれたいずれの取引も,創業者であり,大株主である代表取締役が,自らのプライベートカンパニーを利用して,アクトコール及び連結子会社の業績を押し上げることを目的に,資金循環取引を行っていたことが判明しました。

 株式公開時に手にした創業者利益や,自ら調達した資金を使って業績を押し上げた経営者というと,少し古いですが,日本システム技術事件を思い出します。

 アクトコール第三者委員会は,3人の業務執行取締役の責任を厳しく追及しています。例えば,「会計処理の不適切性を認識していなかった」と主張する代表取締役については,

上場会社の代表取締役に求められる通常の知識と判断能力を有していれば、会計処理の不適切性についても、認識し得たはずであり、もし、会計処理の不適切性を認識していなかったとすれば、それは同氏が上場会社の代表取締役としての必要な知見を欠いていたといわざるを得ず、同氏の責任を否定する理由にはならないと考えることから、同氏には、中心的な関与者としての責任が認められるのみならず、同氏が上場会社の代表取締役として本来期待される責務を果たしていたということはできず、複数の取引について会計処理を訂正し、過年度の決算の訂正を余儀なくされた事態の重大性に鑑みれば、同氏の責任は重大であるといわざるを得ない

という具合です。厳しいですね。

 その後,3人の業務執行取締役は,「基本的に謹慎とし経営から離れることを決定(9月1日付リリース)」ということですので,実質的には,第三者委員会が辞任を迫った格好になります。

 なお,同社は,新しい組織として経営監視委員会を設置して,新しい鳥sマリ役の選任をはじめ,経営体制の整備を急ぐということです。

 

馬券払戻金に対する課税の現状(会計検査院)。

 けさの読売新聞朝刊社会面で大きく扱われていましたが,高額の的中馬券の払い戻しを受けた者の大部分が,申告納税を怠っているという推計を,会計検査院が行っているそうです。

www.yomiuri.co.jp

 記事では,会計検査院が,2015年の1口1050万円以上の払戻金531件を抽出し,同年分の確定申告書のうち,1000万円以上の一時所得又は雑所得の記載がある申告書と照合した結果,払戻金として確認できたのは27件しかなかったと言ことです。

 会計検査院の地道な調査には頭が下がります。

 勝ち馬投票券に対する課税については,インターネットで馬券を購入している場合には,銀行口座の調査を行えば,高額の払戻金が把握できるものの,窓口での払い戻しについては本人確認もなく,ほとんどの場合が申告納税がされていないが現状でしょう。

 読売新聞の取材に対して,国税庁は,「払戻金は申告が必要だということの周知広報に努め,適切な自主申告を促したい」とコメントしています。

www.nikkei.com

 ところが,日本経済新聞電子版の記事では,国税庁は「検査結果が正式に公表されておらず,コメントできない」と,じゃっかんニュアンスが違うコメントが出ています。

 本調査の結果を,会計検査院がどのように公表して,国税庁に是正を求めるのか,国税庁はどう対応するのか,たいへん興味を持っているところです。

 なお,近い将来,日本にもできるはずのカジノで稼いだ金銭に対する課税もどうするのか,公営ギャンブルですら,適正な課税が実現できないまま放置されている状況下で,悩ましいところです。そういえば,パチンコで買ったお金も野放しでしたか。

 国税庁は,マイナンバーカードがなければ払い戻しを受けられない(チップを換金できない)ようにしたいところでしょうが,そうすると,税金を払いたくない顧客は,公営ギャンブルやパチンコから離れてしまい,ヤミの賭け屋(ノミ屋)やヤミ賭博が横行することになって,かえって反社会的勢力が資金を得てしまうことになる恐れがありますね。警察庁は反対するでしょう。

 ギャンブル依存症の問題もあり,公営ギャンブルやパチンコは法規制の強化⇒廃止へ向かうべきだと考える人も多い中,的中馬券の払戻金に適正な課税がされていないことを立証した(と思えます)会計検査院の調査結果が公表されれば,波紋は大きいのではないでしょうか。

書籍:井出明『ダークツーリズム――悲しみの記憶を巡る旅』

 何度か,ゲンロンカフェでお話を聞いたことのある観光学者井出明氏の『ダークツーリズム――悲しみの記憶を巡る旅』を読み終えました。 

ダークツーリズム 悲しみの記憶を巡る旅 (幻冬舎新書)

ダークツーリズム 悲しみの記憶を巡る旅 (幻冬舎新書)

 

  ダークツーリズムとは,「人類の悲劇を巡る旅」と定義されるとのことで,私自身は,井出先生の話を聞いて初めてその存在を知った次第ですが,本書によれば,1990年代からイギリスで提唱されてきたそうです。

 本書を読んで,行きたいなと思った場所はいくつかありますが,どうもレンタカーがないと交通アクセスが悪いようですので,少し,ハードルが高いようです。

 産業としての観光の意義について,井出先生は興味深いことを言っています(本書62ページ)。

ある地域が観光に活性化の緒を求めるということは,それだけ基盤となる他の産業がないことを意味しており,多くの場合“最後の賭け”のように観光に期待してしまう。しかし,観光マーケティングはかなりテクニカルなものであるとともにハイレベルの知識を要求されることに加え,実は理論上正しい展開を試みたとしてもなぜか成功しないという例もままある。

 観光庁は,訪日外国人旅行者を2020年に4000万人にすることを目標としているようですが,「他に基盤となる産業がない」から「オリンピック・パラリンピック誘致」で,“最後の賭け”に出たということでしょうか。

www.mlit.go.jp

 井出先生は,他の箇所でも,「地域と大学は観光に頼るようになったら終わりだ」と述べていらっしゃいます。

 

 

 

「税務弘報11月号」に寄稿しました。

  中央経済社「税務弘報2081年11月号」が発売されています。編集部からの依頼に応じて,税理士事務所が巻き込まれてしまった税務調査以外のトラブルについて,7つの事例を選んで,実務的な解説記事を書きました。

 題して,「あなたの事務所は大丈夫? 税理士の最新トラブル事例7」。 

税務弘報 2018年 11 月号 [雑誌]

税務弘報 2018年 11 月号 [雑誌]

 

  とりあげたトラブル事例の見出しを転載させていただきます。

1.顧問先従業員の不正を発見できなかったら

2.税理士報酬の支払を求めたら

3.依頼者の提出資料不備で重加算税を受けたら

4.顧問先の粉飾で株主に訴えられたら

5.誤った所得金額を架空仕入れの計上で正したら

6.損失補填スキームを提案したら

7.弁護士法による照会に応じて顧客資料を提供したら

 当初,事例を集めるのに苦労するのではないかと懸念しておりましたが,TAINSの検索機能を使って,いくつかのキーワードで判決を収集してみたところ,次々に面白い(他人事だから言えることですが)事案が見つかりました。 みなさん,ご苦労されているようです。

 税理士事務所のみなさんが不測のトラブルに巻き込まれないために,拙稿が少しでも参考になればと考えております。