「租税争訟レポート」連載第73回が公開されました。

 なんと,3月15日以来の更新となりました。確定申告時期より忙しい4月と5月を過ごしていた証左でしょうか。少数だとは存じますが,お読みいただいている方,申し訳ありませんでした。少し余裕ができたので,もう少し更新頻度を上げます。

 ということで,本日公開のProfession Jounal誌最新号に,「租税争訟レポート」連載第73回が掲載されました。共同相続人である姉に相続分を1,000万円で譲渡したうえで,これを相続財産から除外して相続税の申告書を出した原告に対し,処分行政庁が決定処分を出したことの取消しを求める大阪地方裁判所判決。

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 裁判所は,譲渡人が相続分の譲渡によって受領する金員は,代償分割における代償金と経済的に異なるところがないという結論から,原告の訴えを棄却する判決を言い渡しました。

 この判断自体に異議を唱える人はあまりいないと思うのですが,この訴訟がユニークだったのは,原告代理人弁護士が,検察官である被告代理人の訴訟遂行を徹底的に批判して,憲法違反である主張した点です。記事を一部引用します。

裁判の当事者となったり、法廷で傍聴したりすればわかるように、証人が証言する場合を除いて、原告・被告ともに、主張を準備書面に記載して裁判所に提出したうえで、公開の法廷では、準備書面を「陳述します」と述べるだけで、裁判長が次回の口頭弁論期日を決定して、閉廷となり、原告・被告の代理人同士で言葉を交わすことはまずない。したがって、民事事件の傍聴をしていても、何が争点になっているのかはわからないのが一般的である。

原告の主張は、こうした民事事件の訴訟遂行に疑問を呈しているという点では極めて興味深いが、大阪地方裁判所は、主張を各準備書面に記載して提出して、口頭弁論期日に出頭し、準備書面を陳述していれば、口頭弁論期日において、原告代理人の質問に被告代理人が口頭で応答しなかったとしても、そのことをもって対審を拒否したと評価することはできないという現行の訴訟遂行について、問題がないという結論を示している。

 私自身何度となく法廷で傍聴したり,証人として出廷したりしたことがありますが,民事訴訟で,原告代理人と被告代理人が直接言葉を交わすことはまず,ありません。基本,裁判長が間に入ります。「異議あり」と叫んでも,その異議を申し立てる相手は裁判長です。ところが,本件訴訟では,口頭弁論期日における原告代理人弁護士の問いかけに,検察官である被告代理人が何ら答えず,次回口頭弁論期日前に準備書面を出すことを繰り返し,原告代理人が批判した次第なのですが,上述のように,裁判所は問題なしという結論を導きました。

 

 実は,先週も,「会計不正調査報告書を読む」連載第153回が公開されております。

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 こちらは,中部水産株式会社が巻き込まれた架空取引を含む循環取引の事案です。古くから冷凍水産事業者の間では,同じ倉庫の中で名義変更だけを行う取引が横行していて,過去には,加ト吉事件や大水事件などが表面化していますが,中部水産の担当者をはじめ経営陣までも,同業者でこうした事件があったことは知らなかったと供述しているようです。今からでも遅くないので,こちらを使って研修を行うようお奨めしたいと思います。