「租税争訟レポート」をProfession Journal誌に寄稿しました。

 隔月で連載を続けているProfession Journal誌の「租税争訟レポート」最新記事が,昨日,公開されました。 

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 原告が依頼していた税理士法人の担当者が2年続けて申告期限内に申告書を送信しなかったことから,所轄税務署所長が「青色申告の承認取消処分」を行ったところ,これを不服として,国税不服審判所の棄却裁決を経て,訴訟を提起した事案です。

 驚いたのは,この税理士法人は,原告に対して,申告書送信日付を偽装して,期限内に申告が完了していたように装っていたことです。期限後の申告になってしまった事情はよく分かりませんが,6月決算法人なので,税理士の繁忙期であるとも思えず,原告から決算資料の提出が遅れたことが原因かもしれません。なお,原告の主張には,「申告期限の10日前には資料を渡していた」との文言がありました。送信自体は税理士法人の職員が行ったかもしれませんが,送信のためには税理士の署名を付与しなくてはならず,税理士法人に所属する税理士の一人は電子署名のための電子証明書(カード)を貸与しているはずですから,期限後申告の事実は気づいているのではないかと思うのですが。職員が勝手にカードを使用できる体制であったとしたら,内部統制上はきわめて脆弱であったということになります。

 裁判所は,原告による,税理士法人の職員が期限後に申告をしたものであり,原告には帰責性がないから青色申告承認取消処分は,裁量権の範囲を逸脱しているなどという主張を,当然のことながら一蹴しました。

 ところで,本件訴訟には税理士の補佐人が付いており,福岡県にある税理士法人代表社員さんのようで,判決文を読みながら,まさか期限後申告をしてしまった税理士法人代表社員が,自ら補佐人を買って出たわけはないだろうけどなどと,余計なことを考えてしまいました。ふつうに考えれば,青色申告を取り消された原告が,その原因を作った税理士法人との契約を打ち切り,新たに契約した税理士法人代表社員が補佐人に就任したということでしょうか。

 原告は,本件訴訟の敗訴を受けて,期限後申告を隠蔽していた税理士法人に損害賠償請求訴訟を提起することが想定されますが,さて,賠償額はいくらに設定すればいいのかと,悩んでしまいました。青色申告を取り消されている期間に損失が発生していれば,繰り越せなかった損失に係る法人税や法人地方税相当額が損害として認定できそうですが,同期間に課税所得が発生しているようであれば,金銭的な損害はないという判断ができるかもしれないところです。期限内に申告できなかったことは,税理士法人側にとっては債務不履行に該当しますので,2年分の顧問料や申告代理報酬の返還は認めらると考えますが,それ以上の請求となると,難しいかもしれないです。