「租税争訟レポート」をProfession Journal誌に寄稿しました。

 隔月で連載を続けさせてもらっている「租税争訟レポート」連載第68回が,web情報誌Profession Journal最新号で公開されました。今回は,税理士損害賠償請求事件をとりあげました。損害賠償請求の原因となった争点は二つ。一つは,原告の代表者であった社による資金の流用に気づかなかった顧問弁護士の責任。もうひとつは,原告が,所得促進税制の適用要件を充たしていたにもかかわらず,その適用を失念していた税理士が賠償すべき損害の範囲です。なお,所得促進新税制による税額控除の適用失念に関しては,被告である税理士も争っていません。

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 ひとつめの争点について,東京裁判所は,被告である顧問税理士の責任を認めませんでした。その理由として,顧問契約において,会計不正の調査業務は明示されていないうえ,被告が会計原票の基となる原資料に当たることも予定されていなかったということから,会計書類及びその作成過程から把握される不審点を調査確認し,不正があればこれを是正指導する義務が被告にあったものと直ちに解することは困難であること,税理士法を根拠に顧問契約の解釈を補い,会計書類及びその作成過程から把握される不審点を調査確認し,不正があればこれを是正指導する義務が被告にあったと解釈することも困難であるとの判断を示しました。

 この裁判所の判断はこれまでの複数の判決を踏まえたものであると考えます。

 ふたつめの争点について,東京裁判所は,原告が課題に納付した法人税額等の額に加えて,所得拡大促進税制の適用の可否や適用による税額控除額の計算等の検証を依頼した別の税理士に支払った報酬の一部についても,相当因果関係のある損害であると認めました。原告は,被告から受領する損害賠償金に対しても法人税が課税されるところから,当該法人税についても損害賠償に含めるよう主張しましたが,こうした主張は,裁判所によって斥けられました。

 原告の代表者による資金流用の結果,原告の貸借対照表上の現金残高は1億円を超える金額になっていたわけですが,会計監査と異なって現金実査をするような義務は負っていない税理士とはいえ,「この現金残高でかまわないですか?」という疑問の言葉ひとつ,関与先にかけることがなかったとしたら,法的責任はともかく,職業会計人としての懐疑心には,問題があったのではないかと思いました。