「租税争訟レポート」をProfession Journal誌に寄稿しました。

 各月で連載させていただいておりますProfession Journal誌の「租税争訟レポート」連載第61回が,昨日公開されました。今回は,公認会計士・税理士の資格を有する監査役が,経理担当者の横領を発見できなかったことについて,任務懈怠による損害賠償を請求された事件について,最高裁判所が,従前の下級審の判断とは異なる見解に基づき,原判決を破棄,東京高等裁判所に差戻した判決について,とりあげました。

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 原審である東京高等裁判所は,従前の下級審判決と同様に,以下のように判示しておりました。

監査の範囲が会計に関するものに限定されている監査役(会計限定監査役)は、会計帳簿の内容が計算書類等に正しく反映されているかどうかを確認することを主たる任務とするものであり、計算書類等の監査において、会計帳簿が信頼性を欠くものであることが明らかであるなど特段の事情のない限り、計算書類等に表示された情報が会計帳簿の内容に合致していることを確認していれば、被上告人はその任務を怠ってはいない。

 これを最高裁判所は,次のように否定します。

監査役監査について、計算書類などが各事業年度に係る会計帳簿に基づき作成されるものであり、会計帳簿は取締役等の責任の下で正確に作成されるべきものであるとしても、監査役は、会計帳簿の内容が正確であることを当然の前提として計算書類等の監査を行ってよいものではなく、会計帳簿が信頼性を欠くものであることが明らかでなくとも、計算書類等が会社の財産及び損益の状況を全ての重要な点において適正に表示しているかどうかを確認するため、会計帳簿の作成状況等につき取締役等に報告を求め、又はその基礎資料を確かめるなどすべき場合があるというべきである。

 「租税争訟レポート」では,最高裁判決では触れられていないものの,原審である東京高裁では争点となっていた「監査役を狙い撃ちにした損害賠償請求」に関する問題点をとりあげたり,同じように公認会計士・税理士資格を有していた監査役に対する任務懈怠による損害賠償請求を棄却した別の事件の判決を参照したりしています。

 最高裁判決を受けた差戻控訴審がどのような判断を下すか,大いに注目しています。