「会計不正調査報告書を読む」Profession Journal誌に寄稿しました。

 毎月連載を続けさせてもらっているweb情報誌Profession Journal最新号に「会計不正調査報告書を読む」連載第145回が掲載されました。今回とりあげた調査報告書は,従業員4人が逮捕・起訴された近畿日本ツーリストによる「新型コロナウイルス感染症に係る業務」を巡る不正請求に関して,持株会社のKNT-CTホールディングスが設置した調査委員会によるものです。

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 新聞などでの繰り返し報道されていますが,発覚のきっかけは,近畿日本ツーリスト新型コロナウイルスワクチン接種に係るコールセンター業務を委託していた大阪府東大阪市が,コールセンターでの再委託先従業員の勤務状況に関する照会を行ったところ,約2億9千万円の過大請求が行われていたことが判明したというものです。

 新型コロナウイルス感染症の影響により,業績が大きく低迷している近畿日本ツーリストが,地方公共団体向けのBPO業務に活路を求めて,利益拡大を図っていく中で,おそらくは「これくらいなら許されるだろう」という程度の過大請求がエスカレートして,「詐欺罪」として刑事事件となる規模まで拡大したということではないかと思うのですが,複数の支店で同時多発的に発生した架空請求事案であるにもかかわらず,調査員会は「組織的な関与」を否定しています。

 一方で,調査委員会は,次のように述べて,本事案を厳しく非難しています。

本事案における一連の不当・不適切な行為は,民事的には,KNTの委託元に対する債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償責任が問題となり得る行為であり,このような問題行為がKNTの日常的な営業活動の中で発生していたということ自体、そもそも企業の業務として甚だ不適切であったと言わざるを得ない

こうした問題行為は,税金を原資とする地方公共団体が管理する公金を喪失させる結果を招いており,委託元に対する契約違反等の問題にとどまらず,地方公共団体に対して損害を与えることを通じて,民間に委託されて実施される公益性の高い事業に対する市民ないし納税者の信頼をも損なうものである

 個人旅行者である消費者(=市民・納税者)を相手にすることも多い近畿日本ツーリストにとって,本件で失ってしまった消費者の信頼を取り戻すのは,たいへん難しいことであると思います。