「会計不正調査報告書を読む」Profession Journal誌に寄稿しました。

 毎月連載させてもらっているweb情報誌Profession Journal「会計不正調査報告書を読む」連載第144回が,27日に公開されました。今回とりあげた調査報告書は,株式会社レイが設置した第三者委員会によるものです。公認会計士・宇澤亜弓氏と弁護士熊谷真喜氏のコンビによる会計不正調査報告書は久しぶりで,切れ味の鋭い原因分析に期待して,読み進めました。

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 会計不正の主犯であるA氏は,自身が経営する会社を利用して,会社資産の詐取を実行します。ひとつは,仮装または水増し請求によって支払わせた外注費を自身の会社名義の預金口座に振り込ませる手口。もうひとつは,レイが支払う紹介料の請求書を水増しさせて,キックバックを自身の経営する会社名義の預金口座に振り込ませる手口。きわめつけは,自身の経営する会社が受注したレイと競業するする取引に係る外注費を,レイの外注費と仮装して支払わせる手口。こうして,4億円を超える金員を詐取してきたわけですが,レイがこうした不正に気づくことはありませんでした。

 不正が発覚したきっかけは税務調査。調査報告書に記述はないのですが,税務調査の過程で外注費の架空や水増し請求が露見して,または露見しそうになって,A氏が自白したものと思われます。

 使い込まれた4億2千万円余りのうち,事件発覚後に回収できた資金は7千万円ほど。受注した案件の主担当者1人に大きな権限を与えてプロジェクト遂行を委ねてきたことに,第三者委員会は批判的で,「担当者の複数制」を検討するように再発防止策を提言していますが,レイが公表した再発防止策では,この提言は無視された格好になっています。レイとしては,A氏個人の不正であり,他の社員が同様な不正を働くことは考えづらいという見解を有しているのかもしれませんが,高額な報酬を支払って調査を行った専門家による提言を尊重しないことについて,株主・投資家がどのように感じているのか,8月30日に予定されている定時株主総会では,本件に対する経営責任なども問われることになりそうです。