「会計不正調査報告書を読む」Profession Journal誌に寄稿しました。

 毎月連載させてもらっているProfession Jornal誌の最新号が昨日公開されて,「会計不正調査報告書を読む」連載第143回をお読みいただけるようになりました。今回とりあげた会計不正事案は,webマーケティング事業などを手がける株式会社ジオコードの従業員による「売上の前倒し計上」です。

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 手口自体はありふれたもので,とくに隠蔽工作もしていなかったため,決算確定の過程であっさり発覚したわけですが,この事案をとりあげたのは次の2点について,改めて考えてみたかったからです。

 一つ目は,業務フローに沿った決算確定作業が大事であるということです。本件が発覚した経緯は,売掛金の回収が遅れていた商談について,顧客から戻ってきた売掛金の残高確認書が「0」となっていることがわかったときに,担当者から話を聞くのではなく,その上長に依頼して,顧客に直接確認させた結果,「未納品」=「売上の前倒し計上」が露呈して,売上計上のための納品検収書の偽造まで突き止めたものです。納品研修書を偽造した従業員が,残高確認書の偽造するところまで頭が回らなかったのかのかもしれません。ともあれ,債権管理部門と監査部門が一体となって対処して,自浄能力を発揮したことは評価できると思います。

 二つ目は,調査委員会の組成に関する疑問です。調査委員会には,社外監査役である弁護士と,同じく社外監査役公認会計士が参加し,さらに社外取締役1名と常勤監査役が加わっています。常勤監査役以外の者は,いずれも就任後4年以上の期間がたっており,調査委員会が原因分析の中で指摘したジオロードに特有の事情,例えば,売上目標逹成に対するプレッシャーや慢性的な人材の不足,また,事業部門におけるマネジメント意識の希薄さ,内部統制の脆弱性などに気づいていてもおかしくはなかったと思料するわけですが,社外取締役又は社外監査役として,こうした社内事情を是正するために何をしてきたのかは,当然のことながら、調査報告書に記述はありません。取締役など経営陣が関与した不正事案ではないということから,社外取締役と社外監査役が中心となる調査委員会を組成したものであると考えますが,社外取締役,社外監査役の職務執行に問題がなかったかどうかという視点は必要であり,その点,物足りなさが残る調査報告書でした。