「会計不正調査報告書を読む」Profession Journal誌に寄稿しました。

 毎月,連載させてもらっているProfession Journal誌の「会計不正調査報告書を読む」連載第117回が,16日(木)あら公開されています。

 今回は,アジャイルメディア・ネットワーク株式会社という,比較的新しい会社で,ナンバー2であるCFOが多額の資金流用を行っていた事案です。3名いる取締役のうち,1名は社外取締役ですから,CFOとして,社内管路部門をほぼ任されていたことは容易に推認されます。第三者委員会の調査では,約2億7千万円の資金が不正に流出していたことが確認されていますが,さて,その手口は……。

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 CFOの不正は,交代したばかりの会計監査人が,最初の四半期決算レビュー作業中に発見し,会社に指摘しています。「手許現金から多額の不明な出金がされている」。会計監査人の指摘した言葉を推測すると,おおよそ,こんな表現になるでしょうか。

 CFOは誰の決裁を受けることなく,自らが前職の会社から連れてきた経理担当者に命じて,ソフトウエア開発費用名目で,小口現金から払い出し,または,預金から送金をしていました。請求書や領収書はすべて偽造。資金使途は,自らが経営する会社の運転資金とプライベートな費用(生活費?)であったとのことですが,第三者委員会は,資金の流れをエビデンスで追及できたわけではなく,もっぱら,CFOによる説明に依拠して,調査報告書をまとめています。

 同社は,株式公開を果たした直後の,2018年12月期に売上高,経常利益とも最高額を記録したものの,CFOが不正を行っていた2019年12月期からは2期連続して減収減益決算で,赤字経営となっていました。不正自体は,きわめて単純な手口によるもので,昔からの部下に命じて資金を移動させ,自分の伝手を使って就任させた社外取締役や社外監査役の眼をかいくぐっていました。前任の会計監査人が不正な資金流出に気付かなかったのが不思議なくらいの単純な事案でしたが,公表されている調査報告書には,会計監査人の監査方法に関する直接的な記述はありませんでした。