「会計不正調査報告書を読む」Profession Journal誌に寄稿しました。

 毎月連載記事を書かせてもらっているweb情報誌Profession Journal最新号に「会計不正調査報告書を読む」連載第140回が掲載されました。今回は,「外部機関からの指摘」により不適切な会計処理が発覚して,第三者委員会を設置して調査することになった株式会社東京衡機の調査報告書をとりあげました。

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 事案は単純なものです。2017年3月に発覚した中国子会社での不祥事を受けて,新たに社長に就任した前社長が,創業100周年を迎える2023年に,東京衡機グループの売上100億円,利益5億円を達成することを目指すと宣言し,本業である試験機の製造・販売・保守サービスから離れた,化粧品や雑貨などを日本で調達して中国などへ輸出する事業(商事事業)に乗り出したところから,資金循環取引や介入取引を主導することとなり,利幅の薄い商取引を頻繁に繰り返すことにより,売上高のかさ上げを図ります。監査法人はこうした取引を問題視し,取引形態の改善を求めたり,一部取引の売上計上を認めなかったりしますが,2022年2月,会計監査人の辞任を申し入れます。

 個人的な推測ではありますが,不適切な会計処理を指摘した「外部機関」とは,証券取引等監視委員会で,前任の監査法人の通報を受けて,内偵がされていたのではないかと,思っているところです。

 それはともかく,東京衡機が約5年の間に商事事業で売上を計上した金額は約8,407百万円に達しましたが,利益は35百万円に過ぎませんでした。一方,第三者委員会による調査費用と会計監査人による監査費用は276百万円,さらに商事事業の販売先に対する売掛代金等の未回収債権405百万円に対して貸倒引当金を設定する必要が生じるなど,特別損失は681百万円に達します。不正会計が犯罪であるだけではなく,まったく割に合わない行為であることを如実に示す,いい教科書になっていると思います。

 東京衡機は商事事業からの撤退を公表していますが,本業に回帰して,特設注意市場銘柄指定が解除されるかどうか,新社長の経営手腕が問われることになりそうです。